第151話 授与式当日と間に合ったエルフ達



 ハーロルトさんとの話をまとめると、不穏分子が俺の勲章授与式をきっかけになにやら動き始めたらしい。

 授与式では何かをする事は無いはずだけど、裏でコソコソと動いてる様子。

 狙いはわからないけど、確実にここ数日の間に大きく動くだろうとの事。

 女王様を直接狙う可能性も有り、他の有力者を狙う可能性も有る。

 もしかすると、俺の活躍を聞いて、使えると考えた一派が俺を攫う可能性すらあるとも言っていた。

 ヘルサル防衛の時、俺が寝ている間に軍で連れて行こうとした者がその一派だったらしいとも聞いた。

 あの時はヤンさん達冒険者ギルドのおかげで、連れて行かれなかったけどね。


「不穏分子ね……何を狙ってるのやら」


 国家転覆を狙っているのか、自分達の権力を増すだけの事を狙っているのか……はたまた別の何かを狙っているのか……俺にはわからないけど、出来れば穏便に済ませたいなぁ。

 と言うか、あまり関わらないで欲しい……今回の事がそういう事なのかわからないが、権力争いとか面倒だから爵位を辞退したってのになぁ。

 ハーロルトさんは、俺に相談する事で自分の考えを纏める事と、俺に注意を促したかったそうだ。

 悩んでいたのは、国の恥部となり得る内容だかららしい。

 俺が最高勲章を受け取ることになっていなかったら、話していなかっただろうね。


「ふぅ……久々の風呂は最高だなぁ……」

「これが湯船に浸かるという事なのだわ? 気持ち良いのだわー。ヘルサルでもこうするのだわー」

「獅子亭はここまで大きな風呂場は無いし、色々改造しないといけなくなるから、ちょっと無理かな」


 お湯に浸かる、日本人らしい風呂にはまったエルサが、獅子亭でも同じようにしたいと言ってるけど、それは無理かもなぁ。

 久々の浸かれるお風呂に満足して、その日を終えた。

 不穏な話もあるけど、明日は授与式だ。

 まずはそれを終わらせないとね。

 ……俺、失礼の無いように振舞えるかなぁ?

 

――――――――――――――――――――


「リク様、起きて下さい」

「ん……」


 聞き覚えが無い声で意識が浮上する。

 どうやら今日は、おかしな夢を見ないで寝られたようだ。

 授与式前で緊張しているせいもあるかな?


「おはようございます、リク様」

「ヒルダさん。おはようございます」


 声を掛けて俺を起こしたのは、ヒルダさんだったらしい。

 どうりであまり聞き慣れない声だと思った。

 ベッドから起き上がり、顔を洗おうと思ったところで、ヒルダさんが横からタオルを差し出してくれた。


「こちらを」

「ありがとうございます」


 さすが侍女と感心しながら、タオルを受け取り、隣接する風呂場で軽く顔を洗う。

 タオルで顔を拭きながら戻る頃には、エルサも起きてキューをヒルダさんにお願いしてた。

 ……ほんとに気楽だね、エルサ。


「少々、顔が強張っていらっしゃいますね……昨夜の話ですか?」

「いえ、単純にこれからの授与式に緊張してるだけです……」


 ヒルダさんは、俺が昨日ハーロルトさんと話した事を考えてると思ったようだけど、実際はただ緊張してるだけだ。


「俺はただの一般人ですからね。女王様や国から表彰されるなんて緊張しますよ」

「ふふふ、ご冗談がお上手で」


 ヒルダさんは、俺が言った一般人という言葉に笑っているようだけど、実際一般人なんだよなぁ。

 何故か英雄とか祭り上げられてるけど、ほんの数か月前は日本の学生だ。

 こういう行事に緊張するなと言う方が無茶だ。


「お目覚めのお茶でございます」

「ありがとうございます」

「目覚めはキューに限るのだわー」


 ヒルダさんが朝のお茶を淹れてくれたので、ソファーに座って一口飲む。

 エルサは、ヒルダさんがいつの間にか用意したキューをかじってご満悦だ。

 寝起きにキューって……ちょっと微妙だなぁ。


「ふぅ、美味しかった」


 お茶を飲んだ後、ヒルダさんが朝食の支度をしてくれたのを、食べる。

 昨日の夕食もそうだけど、獅子亭とは違った味で盛り付けにも凝っている所はさすが、お城の料理と言ったところか。

 多分、専属の料理人とかいるんだろうな。


「ではリク様、勲章授与式のための準備を」

「……はい、お願いします」


 ヒルダさんが、部屋にあるクローゼットのような場所から取り出したのは、豪奢な服。

 どうやら俺は、その服に着替えて式に参加するらしい。

 まぁ、冒険者の恰好で粗末な革鎧のまま、式に参加するわけには行かないからね……仕方ないよね。


「はい?」

「ハーロルトです。リク様にお客様が来ております。今、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 ヒルダさんに手伝ってもらいながら、着慣れない服に着替え終わった頃、部屋の扉がノックされた。

 声を出して応えると、外からハーロルトさんの声で俺にお客さんが来たと伝えて来た。

 誰だろう……モニカさん達かな?


「失礼します」

「リク、来たわよ。あら、見違えたわね……似合ってるわよ」

「何とか間に合ったな……リク、集落以来だな」

「フィリーナ、アルネ!」


 ドアを開けて、中に入って来たのはフィリーナとアルネだ。

 エルフの集落は遠いから、授与式には間に合わないと思ってたのに。


「集落はどうしたんだ? 来るとは聞いてたけど、間に合うとは考えて無かったよ」

「集落はエヴァルトに任せて来た。あいつなら、うまくまとめてくれるだろう」

「私達がいるより上手く出来るでしょうね。ここへは、馬を乗り継いできたわ……ちょっと疲れたけど」

「馬を乗り継いで……そんな事をしてまで来てくれたのか、ありがとう」


 どうやら、集落の方をエヴァルトさんに任せる事で、すぐに集落を出発したらしいね。

 馬を乗り継いでまで……俺の授与式に間に合わせるためとはいえ、ありがたい事だ。


「お茶をどうぞ」

「あら、ありがとう」

「ヒルダさん、ありがとうございます」


 ヒルダさんが全員分のお茶を淹れてくれて、皆で座って話す事にした。

 ハーロルトさんは、アルネ達を案内した後すぐ仕事に戻って行った。

 王城入り口で俺の名前を出したアルネ達を、ハーロルトさんがタイミング良く見付けて、案内してくれたらしい。


「リク、いつもと違う恰好だけど、それで授与式に?」

「あぁ。いつもの革鎧だとさすがにね」

「確かにそれは、式典にはふさわしくないだろうな」


 フィリーナが着替えた俺を珍し気な顔で見ている。

 集落にいた頃は、寝る前以外常に革鎧を着ていたから、見慣れないのもあるのかもね……俺も着慣れないし。


「それにしても、本当にリクが勲章を受け取る事になるなんてねぇ」

「集落に行った時にはもう、決まってた事なんだけどね」

「そうだったな。リクは契約者だから、当然とも言えるな」

「そうね。契約者で、集落も救ってくれたんだもの、相応しいと思うわよ」


 しばらくアルネ達と談笑をしていると、話しの邪魔をしないよう、部屋の外に出ていたヒルダさんが戻って来た。


「リク様、モニカ様達がいらっしゃっています。お通しても?」

「はい、お願いします」


 俺の返事に、ヒルダさんは扉を開けてモニカさん達を招き入れてくれる。


「モニカ、ソフィー、ユノちゃん、久しぶり!」

「久しぶりという程でも無いがな」

「フィリーナ、アルネ!」

「間に合ったようだな」

「久しぶりなの!」


 部屋に入って来たモニカさん達は、アルネ達との再会を喜んでいる。

 またヒルダさんにお茶の用意をしてもらい、皆でソファーに座って談笑した。


「リク様、そろそろ授与式のお時間です」

「……わかりました。エルサ」

「わかったのだわ」

「……リク」


 ヒルダさんの時間を告げる言葉に、俺は話を止めて緊張しながら立ち上がる。

 エルサには肩に乗ってもらう。

 ユノはそんな俺を見てるけど、俺が粗相をしないか心配なんだろうか?


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