第150話 部屋を訪ねて来たハーロルトさん



「リク様、そろそろ夕食のお時間ですが、どうされますか?」

「ええと、用意してくれるんですか?」

「はい。今すぐ召し上がられるのであれば、こちらに用意させて頂きます」

「それじゃあ、お願いします」

「キューも、キューも用意するのだわ」

「……畏まりました」


 ヒルダさんに夕食の用意をお願いする時、エルサがキューを欲しがった。

 それに一瞬だけ驚いたヒルダさんだけど、すぐに礼をして部屋を出て行った。

 さすが女王様付きの侍女さん、なのかな。

 エルサがいきなりキューを欲しがるのに、それだけで済ませるとは……フィリーナとか、結構驚いてたのを覚えてる。


「あ、そう言えば」

「どうしたのだわ?」


 フィリーナの事を思い出した。


「フィリーナ達、俺の勲章授与式に来るって言ってたけど……間に合うのかな?」

「あのエルフ達の事なのだわ?」

「ああ……」


 ヘルサルからエルフの集落まで、馬で10日くらいだったか……ヘルサルから王都までは早くて2日と考えると、ギリギリだな。

 と言うか、俺達がエルフの集落を離れてからすぐ、王都に向けて出発しないといけないだろう。


「集落が完全に落ち着くまで待ってからだと……間に合いそうにないな」

「そうなのだわ?」

「あぁ。魔物達の脅威が無くなったと言っても、すぐにフィリーナ達が集落を離れられるとは思えないからな……」


 数日待ってからの出発だと、距離が離れすぎてて間に合わせられないだろう。

 フィリーナやアルネと再会するのは諦めよう。

 エルフ達の事を考えていると、ヒルダさんが数人のメイドさんを連れて帰って来た。

 こちらはヒルダさんよりも、はっきりとメイドさんとわかる服装をしている。

 役職によって服装が違うのかもしれないな。


「お待たせしました。こちらが本日の夕食になります」


 ヒルダさんを始め、連れて来ていたメイドさん達はそれぞれ料理が乗せられたお皿を持っている。

 中には、キューが山積みされたお皿もあり、それを見たエルサはすでに涎をたらしそうな雰囲気だ。


「ありがとうございます」

「足りない事等がございましたら、お申し付け下さい」


 そうヒルダさんは言うが、足りない事は無いだろうと思う。

 十分美味しそうで、結構な量だ。

 ……さすがに、エルフの集落の時に出て来た量程じゃないけどね。


「頂きます」

「いただくのだわー」


 テーブルに並べられた料理を、エルサと一緒に食べた。

 食後、少し食べ過ぎたお腹を撫でながら、ヒルダさんにお茶を淹れてもらってのんびりしていると、部屋の扉がノックされた。


「リク殿、私です。ハーロルトです。今よろしいでしょうか?」

「ハーロルトさん? はい、大丈夫です。どうぞ」


 日も暮れて、もう結構遅い時間になって来てるはずだけど、どうしたんだろう?


「失礼します」


 俺が座っているソファの向かいに座ってもらい、ヒルダさんがお茶を淹れて一息。


「快適に過ごされているようで何よりです」

「ヒルダさんが、色々やってくれますからね。むしろ、何も出来なくて暇をしていたところですよ」

「お世話をするのが役目ですので」


 寛いだ様子の俺を見ながら、ハーロルトさんが朗らかに言うのに答えながらヒルダさんを見る。

 料理の準備からお茶の用意まで、全てやってもらっている。

 謙遜するように一礼するヒルダさん。


「それで、こんな時間にどうしたんですか。何か問題でも?」

「問題と言えば問題なのですが……正直、リク殿に話すべきかどうか、ここまで来ても迷っています」

「俺に話すのを迷う事なんですか?」

「ハーロルト様、例の件ですね……」


 俺の部屋に訪ねて来ても、話す事を迷うとはどんな事なんだろう?

 ヒルダさんは知ってるようで、ハーロルトさんを気遣うように見ている。


「……ここまで来ているのです。こんな時間にリク殿に迷惑を掛けておいて、迷うも何もありませんな。話します」

「暇をしていたので、迷惑という程の事はありませんが……」


 悩んでいたハーロルトさんは、決心したように俺を見る。

 一体どんな事を話されるんだろう……。


「実はですね……この国の者として恥ずかしい話なのですが……不穏分子が紛れ込んでおりまして」

「不穏分子……それはどういった?」

「リク殿が最高勲章を受け取る事に、反対している一派がいるのです。元々、陛下に対してあまり良い感情を持っていない者達だったのですが……リク様の勲章の事をきっかけに何やらおかしな動きをしているようなのです」

「明日の授与式で何かする可能性はあると?」


 俺自身はそこまでしなくてもと思うが、明日の授与式は王都の人達が頑張って準備してくれた事。

 街の方では、お祭りのような雰囲気になっているだけあって、それを潰すような事はされたくない。


「いえ、それは無いでしょう。陛下を始め王都の重鎮達は皆納得している事です。その授与式で何かするような事があれば、自らの首を絞めるだけになるでしょうから」


 ハーロルトさんは俺が今考えていた事を否定してくれた。

 それなら、明日は無事に授与式を行えそうだね。


「ですが……これは私の未熟の致すところなのですが……奴らの動きが読めないのです。……情報部隊を率いて置いて情けない事ですが……」

「情報部隊が掴めない事があると?」

「はい。明日は何も無い事はわかるのですが、それ以後の行動がわからないのです。何かをしようとしている事は掴んでいるのですが、それをいつ実行するのか……そもそもそれはどんな内容なのか……ですね」


 国の情報部隊がわからない情報か……俺に話してその情報が出るわけじゃないけど……。


「授与式をきっかけに、何かを狙っている可能性が高いのです。それが国家転覆という大それた事なのか、それとも政敵を失脚させる程度の狙いなのか……」

「俺の授与式がきっかけなんですね?」

「そうですね……今回の授与式は最高勲章を授けるものです。国家を挙げての式となるので、国中の有力者が集まります。全員という訳ではありませんが、通常ではあり得ない状況でもあります」

「ふむ……」


 それからしばらく、俺はハーロルトさんから話を聞いた。

 結構な時間話し合っていたので、途中何度もヒルダさんがお茶のお革を用意してくれてたのがありがたい。

 ヒルダさんは、ハーロルトさんとの話を聞きながら、途中顔をしかめて憤ってた事もあった。

 どうやら、女王陛下に逆らう不穏な輩を嫌っているようだ。

 夜も深くなった頃、話しを終えてハーロルトさんは帰って行った。

 ヒルダさんも、隣室で待機している。


「不穏分子か……」

「何かするのだわ?」


 いつの間にか肩から、頭に戻ったエルサに聞かれるが、俺が何かする気はあまりない。

 というか、俺に出来る事が無さそうだからね。 


「いや、何もしないよ。まぁ、ハーロルトさんの言うように、身辺に気を付けるくらいかな」

「わかったのだわ。それなら私は気楽に過ごすのだわー」


 いつも気楽に過ごしてるだろうと思うけどな。

 エルサと軽く話しながら、久しぶりに湯船に浸かれる風呂に入る準備をしながらさっきまでの話を考えていた。



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