第145話 夜中に見る夢
ヘルサルで数日、色々やっていたらもう明後日には王都に出発する日だ。
この国の王様……女王様に会う事になるんだけど、失礼な事をしてしまわないよう気を付けないと……と段々緊張して来ている。
そんな頃、時間が空いたのかハーロルトさんに俺達が王都に行く日程を聞いたクラウスさんが、獅子亭を訪ねて来た。
街の代官が、頻繁に訪ねて来て良いのだろうかと思うけど、いつものようについて来ているトニさんがいるから大丈夫なんだと思う。
トニさんがいれば、クラウスさんが仕事をサボる事は出来なさそうだしね。
「私もリク様と一緒に王都へ行きたかったのですが……」
クラウスさんは終始、そんな感じで王都に行けない事を悔やんでいたけど、仕方ないよね。
代官としての仕事があるから、トニさんが許してくれるわけが無いから。
そんな事もありつつ、夜。
いつものように皆で夕食を取った後、エルサのモフモフを丹念に手入れするために風呂に入り、その後はモニカさんやソフィーさん、ユノも混じって皆にドライヤーもどきの魔法を使う。
皆気持ち良さそうにしてるけど、モニカさんだけは王都に行くギリギリまで続けるマリーさんの特訓での疲れで、エルサと一緒に寝てしまった。
「さすがにここでこのまま寝かせているわけにもいかないな。私が連れて行こう」
「お願いします」
エルサとモニカさんは、ドライヤー中並んで横にコテンと倒れてそのまま寝てしまった。
ソフィーさんはモニカさんを肩に担いで部屋を出て行く。
……その持ち方で良いんだろうか?
「さて、俺達も寝ようか」
「……リク」
「ん、どうしたユノ?」
ドライヤーも終わって、エルサをベッドに転がして自分も寝ようとしたところで、ユノが何かに悩むように俺を呼んだ。
「……リク……本当に王都に行くの?」
「ああ、勲章とやらを受け取らないといけないみたいだからな。それに、一度王都を見てみたいし」
「そう……」
ユノはどうかしたんだろうか?
思いつめたような、何かに耐えるような表情をしている。
「俺が王都に行く事で、何かあるのかユノ?」
「……ううん。何でもないの」
「……そうか」
ユノが何でもないと言うのなら、それで良いんだろう。
気にはなるが、今日は教えてくれなさそうだ。
「じゃあ、もう寝るか」
「うん。わかったの!」
俺の言葉で、気を取り直して笑顔になったユノは、エルサを挟んで一緒のベッドに入る。
……寝入る寸前……ユノの声が聞こえた気がした……。
「……リク……頑張ってなの……」
――――――――――――――――――――
その日俺は夢を見た。
夢自体は何度も見ているが、その夢は特別な夢だった。
何の夢だったか……そう、これはいつもの夢だ。
以前に見たのはいつだったか……忘れてしまったな……ユノと出会う前だったような気はするけど……。
――――――――――――――――――――
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
……そこは暗い場所……。
……後悔と謝罪だけが繰り返される空間だ…。
……体は動かせない……。
……白い影が這い出て来て、体に纏わり着いて来る……。
……次第に体は影に埋もれ、腕も足も黒く塗りつぶされてしまった……。
……やがて首にまで影は来て埋もれてしまう……。
助けを求めるように周りを見るが、そこには何も無い。
薄っすらと白い光が射しているが、そこにあるのは暗い影だけであり、それが唯一見えるものだった。
「……あぁ……」
何とか呻き声のようなものを発する事は出来たが、ただそれだけ。
「……ク」
ふと、どこからか声が聞こえた。
しかしどこからかわからない。
首はもう影に埋っていて動かせない。
周りを見て、声の主を探るがそこには何もない空間が見えるだけ。
「……うぅぁぁ……」
また、聞こえた。
助けが期待できるような声ではない。
また、助けを呼ぶ誰かの声でもない。
ただただ苦しみだけを訴えるような声。
もう、影は顎まで上り口元まで来ている。
「……うあぁぁぁ」
先程より少しだけはっきりと声が聞こえる。
この声はどこからだろう、何を言おうとしているのだろう。
自分が影に飲み込まれようとしているのにも関わらず、声の主を探し、それが何なのかを確かめようとしていた。
ふと目を下にやると、自分の腰の高さくらいの所にある影が揺れていた。
揺れている影は、少しずつ形をはっきりとさせてくる。
最初は鼻。
次は口。
最後に目が現れ人の顔になる。
それを認識した瞬間、眩暈を覚えるほどの後悔と記憶が頭の中でぐるぐると渦巻いている。
顔が動く、いや、目はこちらを凝視したまま、口だけを動かしている。
「……うぅあぁぁぁぁぁ」
先程の苦しみの声だ。
「……お……え……せ……だ」
影が言葉を発する。
「……うぁぁ……い……い……く……し……リ……ク」
その言葉は途切れ途切れで、何を言っているかはわからない。
だが、分かってしまった。
何を言っているのか分かってしまった。
あれは恨みの声だ。
俺に対する恨みの声だ。
犯してしまった罪への贖罪を求める声だ。
……もう、影は目元まで来ている……
顔の半分以上を覆われてしまい、声を出すどころか呼吸も出来ない。
だが、不思議と苦しさは無かった。
しかし声に対して何も出来ない。
何も出来ない事に対する後悔。
どうすることもできない。
ただ、声にならない声で、心の中でずっと謝る事を繰り返すだけ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ついに影は全てを飲み込み、そこにあるのはほのかに白い光が射す空間だけだった…
「はっ! ……はぁ……はぁ……はぁ」
暗闇の中目を覚ます。
まだ夢の続きなのかと思ったけど、ここは現実だ。
いつも寝ている部屋、いつも寝ているベッド……違うのは、俺が汗だくで息を切らしているだけだ。
ベッドから半身を起こし、胸に手を当てる。
起き方に問題があったのか、心臓の鼓動がうるさい。
「……リク」
「……だわ」
ふと、横で声がしたので、そちらを見る。
明かりが無いから、はっきりとは見えなかったけど、そこには俺を見るエルサとユノがいた。
エルサ達と一緒に寝てるんだから、いてもおかしくないよな。
「ごめんな、起こしてしまったか?」
「……リクが苦しんでたから……」
「辛い時は無理しなくて良いのだわ」
うるさい心臓を落ち着かせるように息を吐きながら、起こしてしまったエルサ達に謝る。
だがエルサとユノは、俺の事を心配そうな目で見たままだ。
「……どうかしたのか?」
「リク、夢を見たの?」
「ああ、あんまり気持ちの良い夢じゃ無かったな……ユノが見せてくれたような夢なら良かったんだが」
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