第144話 王都へ行く日程の決定



「それくらいあれば、ちょうどルディ達への仕込みも何とかなるからな」

「……じゃあ、そういう事で」


 ちょっと強引だけど、マックスさんに日程を決められてしまった……。

 まぁ、俺の方は特に予定が無いから異論は無いんだけどね。


「畏まりました。王都には5日後にリク殿達が到着すると伝えます」

「はい、お願いします」

「俺達が泊まる場所はあるのか? 無ければ勝手に宿を取ろうと思うが」

「それでしたら問題ありません。リク殿は授与式の関係で王城に泊まってもらう事になりますが、他の方々は別に王城近くの宿を取るように手配しております」


 ん……? 俺だけ王城で泊まるの?


「王城近くという事は、貴族達が止まるような高級宿か! それは楽しみだな!」

「高級宿なのー」

「一介の冒険者が泊まるには気後れしそうだな……」


 マックスさんとユノは高級宿に泊まれることを喜び、ソフィーさんは高級な宿屋に泊まる事を躊躇している。

 ……ユノの方は意味がわかってるのかどうか微妙なところだけどね。


「でもソフィーさん、俺なんて王城で泊まるらしいですよ? それに比べたら高級宿の方が落ち着きそうじゃないですか?」

「まぁ、そうだがな」

「はっはっは、リクは勲章を授かる当人だからな。王城に行くのは仕方あるないだろう」

「リク殿には。王城にて不自由の無いよう手配させて頂きます」


 笑ってるマックスさんの言う通り、仕方ない事なんだけど……ハーロルトさん、不自由が無いとかそう言う事じゃないんだけどなぁ。

 マナーも知らない一般人の俺が、王城なんかで過ごして大丈夫なんだろうか……?


「リク殿の他に、王都へ来られるのは何人になりますか?」

「そうだな……俺とマリー、あとモニカとソフィー……」

「私も行くのー」

「ははは、忘れて無いぞ。ユノも合わせて……5人だな」

「畏まりました。宿の方に伝えておきます。何かあればクラウス殿の所までお知らせ下さい。今日はまだヘルサルに滞在しておりますので」


 そう言ってハーロルトさんは立ち上がり、俺達に礼をして獅子亭を出て行った。


「さて、俺はルディを仕込むのを急がんとな」

「私はモニカとマリーさんに、今話した事を伝えて来る」

「私も行くのー」


 マックスさんは、ルディさんに留守の間を任せるため、獅子亭の料理を教え込みに厨房へ。

 ソフィーさんはユノを連れて、モニカさんがマリーさんに扱かれてる所へ行った。

 俺はエルサのモフモフを撫でながら、カテリーネさんの淹れてくれたお茶を飲んで、しばらくのんびりとした。


「そう言えば、エルサに乗って行くんだったら外套とかいらなかったなぁ……」


 あれを買いに行った時は、エルサに乗れば王都にすぐ着く事なんか考えず、とにかく旅の準備をしようと考えてただけだったから。

 まぁ、いつか役に立つ事もあるだろうから、無駄な買い物じゃなかったと思おう。


「あ、ヤンさんにも伝えておかなきゃな」


 エルフの集落に行く時は、マックスさん達に説明を任せたから、今回は自分で説明しておきたい。

 冒険者が移動する時に、説明する義務は無いんだけどヤンさんは色々気遣ってくれてるからね、ちゃんと説明しておきたい……ヘルサルに帰って来るのがいつになるかわからないし。

 そう考えながら俺は、冷め始めたお茶を一口飲んだ。


「ヤンさんはいますか?」

「あ、リクさん。はい、すぐに呼んで参ります」


 昼食までのんびりして、お腹を満たしてから冒険者ギルドへ来た。

 受付の女性に声を掛けると、俺の事を覚えていたらしく、すぐにヤンさんを連れて来てくれた。


「今日はお一人どうしましたか、リクさん? 依頼はすみませんが、今ちょうど良い物がありませんが……」


 ヤンさんといつもの会議室に来て話す。

 今回ギルドに来たのは俺一人だ……あぁ、頭にエルサが掴まってるけど、寝てるので数えない事にした。


「今日は依頼を受けに来たんじゃないですよ。伝えておきたい事がありまして」

「ほぉ」

「今朝王都からの使者が来たんです。それで、今日から5日後に王都へ出発する事になりました」

「それは、勲章授与式で……ですね?」

「はい」


 ヤンさんも俺が勲章を受け取る事は知っているみたいだ……当然か。


「そうですか……それはめでたい事ですね。リクさんが勲章を受け取ると、冒険者ギルドにも箔が付きます」

「そうなんですか?」

「ええ。冒険者ギルドは多数の国に存在する組織ですが、そのうちの一国から、所属する冒険者が勲章を受けるというのは大きな事です」


 んー、組織の人間が別の組織……国に表彰されて誇らしいとかそんな感じかな。


「リクさんの今までの活躍を考えれば、当然の事ですけどね。……そうですか……ついにリクさんも勲章を……これは計画を早めなければなりませんね……」

「ん? ヤンさん、どうかしましたか?」


 最後の方、ヤンさんが小さく呟いていたけどよく聞こえなかった。

 何かを企んでると言うか、考えてる顔だったけど。


「いえ……何でもありません。すみませんがリクさん、ここで少々お待ち頂いてもよろしいですか?」

「え? はい、大丈夫ですけど……」


 この後の予定は特に無いからね。

 そう答えると、ヤンさんは席を外し部屋から退室した。

 ヤンさんが出て行った後、先程声を掛けた受付の女性が代わりに入って来てお茶を用意してくれた。

 女性にお礼を言いつつお茶を飲んで、寝ているエルサを撫でながら過ごす事数分。


「お待たせしました」


 エルサのモフモフで良い感じに癒されていたところに、ヤンさんが帰って来た。

 ……何やら筒のような物を持ってるけど……?


「リクさん、お手数をお掛けして申し訳ないのですが……こちらを王都の冒険者ギルドのギルドマスターに渡してもらえますか?」

「はぁ、これをですか?」

「はい。それと、こちらを。それを見せれば、ギルドマスターに直接会える手筈になっています」

「……わかりました」


 ヤンさんは、今持って来た筒を俺に渡し、それと一緒にギルドのマークが入ったバッジのような物も受け取る。

 バッジのような物が身分証明と言うか、ヤンさんからの使いという証明なのかな?


「この中は何が入ってるんですか?」

「王都のギルドにヘルサル支部から伝える内容です。決して、中は見ないで下さいね」


 中を見てはいけない物を運ぶというのは、ちょっと怪しい気もするけど、冒険者ギルドのような大きな組織になると当然、機密事項とかもあるだろうから、仕方ない事だと思う。


「それと……必ず、リクさんがギルドマスターに渡して下さい。他の方に任せてはいけませんよ?」

「俺が、ですか……わかりました」


 まぁ、俺に任された物だからちゃんと俺が渡しに行こうと思うけど、そこまで念を押されるのは何でだろう?

 疑問には思ったが、ヤンさんの事だから何か考えがあるんだろうと考えた。


「それでは、リクさん。王都でのご活躍を期待しています」

「ははは、王都で活躍するような事なんて無いでしょう。勲章をもらって終わりだと思いますよ」


 最後には、ヤンさんと笑い合って別れ、冒険者ギルドを後にした。

 王都へ出発まで後5日……何をしよう……?

 準備をする事ももう無いし……残りの日数をどうヘルサルで過ごすかを考えながら、獅子亭へと帰った。



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