第143話 ハーロルトさん訪問



「ユノ、そろそろやめなさい。エリノアさんが困ってるだろ?」

「わかったの」

「はぁ……はぁ……」


 ちょっとだけ、ユノに追いかけられるエリノアさんを眺めてから止めるために声を掛ける。

 ユノは素直にいう事を聞いて止まり、エリノアさんは乱れた息を整えている。


「すみません、エリノアさん。ほら、ユノも。勝手に人の尻尾を触っちゃだめだぞ」

「はーい。ごめんなさいなの」

「はぁ……はぁ……尻尾はむやみに触らないで下さいね」


 ユノとエリノアさんを楽しく眺めていた自分を棚に上げ、ユノと一緒に謝る。

 エリノアさんは尻尾が弱いみたいだ……他の獣人もそうなのかな?

 ……獣人じゃないけど、今度エルサにも試してみよう。


「不穏な気配を察知したのだわ!?」

「何でも無いから、そのまま寝てて良いぞ」


 俺が考えている事を察したのか、昼を食べて満腹になってからずっと寝ていたエルサが起き出した。

 エルサを誤魔化しつつ、エリノアさんの店を色々見て回って外に出る。

 今回は特に買い物をしに来たわけじゃ無いから、店にとっては迷惑な客だったかな?


「それではな、エリノア」

「はい。頑張って下さい、ソフィーさん」


 センテからヘルサルに拠点を移した事をエリノアさんに伝え、別れを済ませる。

 とは言え、隣の街だからまたここに来る事もあるだろうね。


「そろそろ帰りましょうか」

「そうですね。時間に余裕はありますが、わざわざ遅く帰る事もありませんからね」

「私は構わないぞ」

「楽しかったのー」


 エリノアさんの店から離れた後、空を見上げるとそろそろ日が傾き始めていた。

 皆に声を掛けると、他に寄りたい場所も無いようで帰る事になった。

 ユノは初めてのセンテを楽しめたようだね、何よりだ。

 和やかに談笑しながら、センテの街を出て、離れた場所まで歩く。


「それじゃエルサ、頼むよ」

「わかったのだわー」


 エルサに大きくなってもらって、そこに皆で乗り込む。

 飛び立って少しの時間、体感だと30分くらいでヘルサルの街へ到着だ。

 馬車だと数時間かかる距離が、こんな短い時間で行けるのはありがたいね。


「それでは、リクさん。これで。今日は有意義でした」

「はい、ヤンさん。また」


 ヘルサルの街に入り、ギルドと獅子亭の分かれ道でヤンさんと別れる。

 これからまだヤンさんは、ギルドで報告等の仕事があるようだ。

 副ギルドマスターも大変だね


「帰りましたー」

「おう、お帰り」

「……お帰りー」

「モニカさん、またですか……」


 獅子亭に着いて、中に入りながら挨拶をする。

 テーブルについて、休憩していたマックスさんが迎えてくれるが、一緒に声を出したモニカさんの方はテーブルに突っ伏したまま、疲れ果ててる様子だ。

 また、マリーさんと厳しい特訓をしたんだろう……声を出せるくらいだから、最初の頃よりは慣れて来たのかな?


「疲れたわ……そっちは楽しかったようね?」

「ええ。センテを色々回って楽しかったですよ」


 テーブルに突っ伏したままのモニカさんに答えて、俺達はそれぞれ部屋に荷物を置きに戻る。

 その後は、ソフィーさんがモニカさんを部屋に運んで、俺とユノは獅子亭の手伝いだ。

 夕方の営業が始まる前に帰って来れて良かった。

 手伝いが終わって、皆で遅めの夕食。

 センテに行った事の話が主だったけど、ユノが終始楽しそうに話していた。

 初めての街だった事や、色々な武器が見れた事が楽しかったんだろう。

 広場で露店に積まれてた野菜も、楽しそうに見てたしな。


「おやすみなさい」

「おやすみなのー」

「……だわー……だわー」


 俺のドライヤーによって既に寝ているエルサを挟んで就寝。

 エルフの集落から帰って来て、結構のんびりしたからそろそろ、冒険者としての活動を再開しないとなぁ。

 明日にでも冒険者ギルドで聞いてみるか。


――――――――――――――――――――


 翌日、朝食を終えて冒険者ギルドへ行こうとした俺に、王都からの使者が訪ねて来た。


「失礼します。……おぉ、リク殿」

「ハーロルトさん」


 獅子亭に来たのは、以前も使者として会った事があるハーロルトさんだ。

 確か……情報部隊長……だったかな。


「リク殿、後数日で勲章授与式の準備が整いますので、お迎えに参りました」

「そうですか、わざわざありがとうございます。あ、こちらにどうぞ」


 ハーロルトさんに座るよう勧めて、俺もテーブルにつく。

 同じテーブルには、ソフィーさんとユノがいる……モニカさんは朝食を終えてすぐ、マリーさんに連れて行かれた……また魔法の特訓だろう。


「では、失礼して」

「勲章授与式の準備が整ったのですか?」

「正確には、もう数日……2、3日程ですな。リク殿が王都に着く頃には終わっているはずです」


 俺が移動する時間も考えて迎えに来てくれたようだ。


「それでしたら、まだ数日ここでゆっくりしていられる時間がありますね」

「……リク殿? 王都までは早馬で2日程です。リク殿一人で行くわけではありませんので……3日~4日は見ていた方がよろしいかと思いますが……」


 ハーロルトさんは、俺達が馬や馬車で移動すると考えてるようだね。

 確かに馬でなら、そのくらいかかるから、明日にでも出発しないといけないんだろうけど。


「問題ありませんよ。俺達はエルサがいますから。な?」

「軽く飛んで行くのだわ」


 エルサに飛んで行けば、馬で数日かかる道のりも半日程度で移動できる。

 まぁ、迎えに来てくれたハーロルトさんには申し訳ないけどね。

 俺から声を掛けられたエルサは、くっ付いていた頭からふわりと浮かび上がって、テーブルの上に降りながら声を出した。

 途中、一回転しながら降りたので点数を上げたかったが、今は一応真面目な話の最中なので止めて置く……ソフィーさん、横から手を出してエルサを撫でないで下さい。


「こちらは……以前来た時も、リク殿の頭にくっ付いていましたが……?」

「エルサはドラゴンなのだわ」

「聞いていると思いますが、これが俺と契約を結んだドラゴンです。このエルサに乗って行けば、王都までその日のうちに行けますよ」


 ハーロルトさんは、テーブルに降りたエルサを凝視している。

 そう言えば、前回来た時ってエルサの事を紹介してなかったね。


「ドラゴンの話は聞いていたのですが……このような姿だとは……。しかし、まだ子供ですか? これだと乗って移動など……」

「ああ、エルサは体の大きさを自由に変えられるんですよ。大きくなれば人間を乗せる事も出来ます」

「人間の10人や20人、軽いものなのだわ」

「……成る程……本当にそんな事が出来るのですね。話には聞いていましたが、実際にドラゴンを見ると驚きを禁じ得ませんね」


 人間の前に姿を見せたのって、確か数百年前とからしいからね。

 それくらい経つのなら、見た事がある人間が生きていないから、見て驚くのも無理は無いと思う。

 エルフなら別だろうけど。


「なので、3日後か4日後にヘルサルを発とうと思います」

「わかりました、でしたら私は先に王都へ戻っておきましょう。授与式に大幅に遅れる事が無いのであれば問題ありません。……出来れば、大まかな日程だけでも教えてもらえれば助かるのですが……」


 迎えに来たはずのハーロルトさんだけど、先に王都へ帰るようだ。

 授与式の準備の他に、俺達を迎える準備なんかもあるのかもしれないね。

 それなら、漠然と日にちを言うよりも、この日に行くと伝えておいた方が良いかもしれないね。


「王都へは……そうですね……」

「5日後に行くと伝えてくれ」

「マックスさん?」


 俺がいつ王都に行くか考えていると、朝食の片付けをしていたマックスさんが厨房から出て来ながら、日程を決めた。


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