第141話 センテの冒険者ギルドへ



 センテに行くメンバーは、ソフィーさんとユノとヤンさんだ。

 モニカさんは獅子亭の手伝いと、魔法の特訓のためとマリーさんに止められた。

 ドナドナされていつも特訓している店裏に連れて行かれるモニカさんの悲しそうな顔は忘れないよ……。

 ヤンさんはセンテのギルドに伝える事が出来たと便乗する形だ。

 ついて来るなら使いの人じゃなくヤンさんが直接獅子亭に来たら手間が省けたんじゃないかと思うが、センテに用が出来たのが俺に使いを出した後らしいから、仕方ない。


「相変わらず、この移動は速くて良いですね」

「そうですね。おかげでセンテに行くのもすぐですからね」


 初めてセンテに行くのに、馬車に乗っていた頃が少し懐かしい……そういえば、あの時初めてソフィーさんと会ったんだったなぁ。


「着いたのだわー」


 エルサが俺達に声を掛けて、センテの街から少し離れた場所に降りる。

 衛兵さんや街の住民に大きくなったエルサが見られないようにだ。

 ヘルサルの街と違って、エルサを見た事が無い人が多いだろうから無用な混乱は避けないとね。

 見た人が多いヘルサルでも出来るだけ見られないようにしてるけど。


「さて、まずは冒険者ギルドですね」

「はい。昼を食べるにもまだ早いですからね」

「センテのギルドか……久しぶりだな」

「初めての街なのー」

「キューの匂いがするのだわ!」


 センテの街に入って、ヤンさんの言葉で俺達は冒険者ギルドに向かう。

 ヘルサルを出たのが朝食後だったから、まだ昼には早い……ベリエスさんとの話が終わってからで良いだろうな。

 ソフィーさんは元々センテにいた冒険者だから、懐かしそうに街並みを見渡してる。

 ユノはそんなソフィーさんの隣で、珍しい物を見るようにキョロキョロしてるけど、街並み自体はヘルサルとそう大差は無いんだけどね……まぁ、初めての場所だからなんだろう。

 しかしエルサは……相変わらずキューの事しか頭にないような様子で、俺の頭にくっ付いて上機嫌だ。

 初めてエルサに食べさせたキューは、センテで買った物だったなぁ……野菜を多く取り扱ってる街だけど、ドラゴンのエルサにはキューの匂いが判別出来るのかもしれない。


「冒険者ギルドへようこそ。本日はどういったご用件ですか?」

「お久しぶりです。ベリエスさんはいますか?」


 ギルドに入り、受付の女性が定例の挨拶をするのに、ヤンさんは声を掛けた。

 以前にも来た事があるみたいで、女性はヤンさんを見るとすぐに奥へと向かった。


「おぉ、ヤン殿。ヘルサルの防衛戦以来ですな。今回はどういった用件で?」

「ヘルサルのギルドから伝える事がありましてね……それと」

「ベリエスさん、お久しぶりです。ヘルサルでは、ありがとうございました」

「リク君か!? よく来てくれたな!」


 奥から受付の女性に連れられてベリエスさんが姿を現す。

 ヤンさんが挨拶を交わしつつ、俺を示したので会釈をして挨拶とお礼をしておく。

 ヘルサル防衛後の事もちゃんとお礼を言っておかないとね。


「成る程……わかった。センテのギルドでも検討しよう」

「よろしくお願いします」


 ベリエスさんにギルドの奥へ通され、そこでヤンさんとベリエスさんが相談を開始した。

 俺達もここにいて良いのかと思ったけど、話の内容が俺にも関わる事だったらしく、同席をしても構わないとの事だ。

 何でも、今回エルフの集落での事をきっかけにして、アテトリア王国内のギルドで連携を強めようという事らしい。

 情報の取り扱いや、冒険者に依頼を出しての派遣等を話し合っていた。

 俺はユノの情報でエルフの集落が危険な事を知ったけど、ギルドにはその情報が来ていなかった。

 まぁ、まだ外に助けを求める前だったから仕方ない事だと思うけど、今後連携を強化して情報を行き交わせる事で、少しでもそういった危機の察知を早くしようという目論見があるらしい。


「さて、リク君の方だな。……まぁ、ここにこうしている時点で大丈夫だとはわかっているんだが……」

「エルサの事ですよね?」

「それもあるんだがな……リク君の事もでもあるんだ」


 俺が予想していたのは、ベリエスさんがエルサを見て危険かどうかを判断するという事だと思ったんだけど……。

 どうやらそれだけじゃ無いみたいだ。


「伝え聞いた話だと、リク君はドラゴンであるエルサ様の契約者だとか……それは一体何なのだ? いや伝わって来る話で聞いてはいるのだが、要領を得ない部分もあってな」

「そうですか……それじゃ、エルサの事と一緒にその事も話しますね。エルサ」

「はーい、なのだわ」


 エルサを頭から持ち上げ、机の上に下ろす。

 喋った事を驚いた表情で見ているベリエスさんに対して、エルサは机の上で挨拶をするように手を挙げた。

 ……そんな仕草、いつの間に覚えたんだ。


「成る程……つまり、エルサ様も危険は無く、リク君は冒険者として活動して行くつもりだと」

「ええ、そのようです。実際私もリクさんが冒険者活動をしているのを見ていますし……エルフの集落では大活躍だったようですよ。エルフ達から謝礼としてギルドへリクさんの報酬を上乗せさせたくらいですから」

「あの人間嫌いで有名なエルフ達が……」


 ベリエスさんにエルサが人間に害を成す事はしない事、俺は普通の冒険者として活動する事が目的である事等を話した。

 しかし、ベリエスさんはエルフが人間嫌いだと思っているようだけど、集落にいたエルフ達はほとんど友好的だったと思う。

 一部、長老と呼ばれるエルフがいたにはいたけどね……それに、俺が契約者でドラゴンのエルサが一緒にいた事も大きいのかもしれないけど……。


「エルフが信頼を寄せ、ヘルサルのギルドが認めているなら、特にいう事は無いな。エルサ様やリク君が人間の脅威になるような存在なら対処を考えなければならないだろうが……」

「ベリエスさん……対処と言っても、相手はドラゴンと契約者ですよ? どう対処するんですか?」

「……それについては……どうもしようがないな……色々と諦めるしかないか」


 エルサを見ていたベリエスさんが、ヤンさんの言葉で気が抜けた表情になった。

 諦めの表情なのかな?

 それはともかく、俺やエルサを対処するのは諦めなきゃいけない事なのかなぁ……まぁ、対処されるようなおかしな事をするつもりは全然ないけどね。


「今日は済まなかったな。わざわざセンテまで来させてしまって」

「いえ、お礼を言いたかったのも有りますから、ちょうど良かったですよ」


 冒険者ギルドから出て、外まで見送りに来てくれたベリエスさんと話す。

 ここまで来るのにエルサに乗って来たから、大して時間もかかって無いから、手間とも思わない。

 それにいい機会だから、センテの街をまた見て回るのも良いかもしてないしね。


「ソフィー君。君がセンテから離れるのはここのギルドとしては痛手だが、冒険者は自由を尊重するからな。これからもしっかり活動してくれ」

「はい。お世話になりました」


 ソフィーさんとベリエスさんは面識があるようだね。

 ここを拠点にしていたんだし、あってもおかしくないか。


「有望な人物ではあるが、ソロでしか活動していなかったから心配していたが……まさかリク君という、とんでもない人物とパーティを組むとはな」


 ベリエスさんの言葉に、ソフィーさんは苦笑して答えてるけど……そんなとんでもない人物と言われるのは心外だなぁ。

 ソフィーさんは、俺と出会うまでずっとソロで冒険者をやっていた。

 ソロだと、全部一人で対処しないといけない事が多く、危険も多いからベリエスさんも心配だったんだろう。

 俺やモニカさんとパーティを組んだ事で、安心したようだ。



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