第140話 獅子亭のお手伝い
「マックスさん、仕込み……終わりました」
「おう、そうか。それじゃあリク、これから夕方の営業だから……また後でイルミナの店での事を聞かせてくれ」
「はい、わかりました」
厨房の方からルディさんが仕込みを終えて出て来ると、マックスさんは仕込みの最終確認に行った。
剣の説明は終わったけど、お店での話は途中だったから夕食……時間的には夜食と言えなくも無いけど……の時にでも話そう。
ソフィーさんあたりも興味を持ちそうな内容だからね。
……特に両斧のあたりとか……。
「モニカさん、夕方の営業が始まるそうだからそろそろ部屋に戻らないと」
「うーん……もう少しこのまま……」
モニカさんは特訓で随分疲れてしまったみたいだ。
ユノがツンツンしてるのに加えて、俺が体を揺さぶって声を掛けてもテーブルに突っ伏したまま動かない。
でも、このままここにいると夕方の獅子亭に来たお客さん達の邪魔になっちゃうからなぁ……。
どうしようかと困っていると、奥からマリーさんが来てモニカさんの頭をはたいた。
「まったく、あれくらいの事で動かなくなるなんて……もっと厳しい特訓にしようかね?」
「はっ! 母さん!? 大丈夫よ、動けるから!」
頭をはたかれて顔を上げたモニカさんは、マリーさんの言葉にこれ以上特訓を厳しくされたらたまらないとばかりに立ち上がる。
「それならそこで寝てるんじゃないよ。さっさと店を手伝いなさいな」
「……わかったわ」
「私も手伝うのー」
ここ最近、特訓で疲労困憊になったモニカさんは獅子亭を手伝わずに休んでいたんだけど、マリーさんの一言で手伝う事になってしまったようだ。
まぁ、疲れてるだろうから少しでも楽になるように俺も手伝おう。
ユノも一緒に手伝うみたいだしね。
「ユノちゃんは偉いねぇ。ほらモニカ、しっかりなさい」
「わかったわよ……まったく……これまで私もずっと手伝って来たのに……最近は手伝えなかったけど……」
マリーさんがユノを褒めるように言った言葉に、モニカさんの方は不満そうにブツブツ言ってる。
けど、獅子亭を手伝う事は異論はないようで、重そうな体を引きずりながらも手伝いに動き始めた。
俺も準備を始めよう……と、その前に剣を置いてこないとな。
こんな大きな剣を持ったままで接客なんて出来ないからね。
「いらっしゃいませー」
夕方、獅子亭の営業が始まったと同時に、お客さんが押し寄せて来る。
さっきまで特訓の疲労でぐったりしていたモニカさんも、慣れた獅子亭の手伝いにちゃんと動いてくれてる。
俺も頑張らないとな。
ちなみにユノは今日もお客さんに大人気だった。
危なげなく料理を運んでいるのだけど、小さな女の子が料理を大量に載せた大皿を運ぶのはハラハラするらしい。
ユノが店内で物を運ぼうとすると、半分くらいのお客さんが固唾を飲んで見守る様子が見て取れた。
たまにある、ユノに対する怪しい視線はマリーさんと協力してシャットアウト。
今日はモニカさんもいたから、楽だったね。
「皆、お疲れさん」
夕方の営業も終え、お客さんが完全にいなくなった店内でマックスさんが皆に声を掛けた。
テーブルの上には美味しそうな料理、これからようやく夕食だ。
マックスさんの言葉を皮切りに、夕食を食べ始める皆。
「ルディにはそろそろ店を任せても大丈夫そうだな」
「本当ですか!?」
料理を食べながら、ルディさんに声を掛けるマックスさん。
それを聞いたルディさんは嬉しそうに聞き返してる。
「今日の仕込みも十分な出来だったからな。それに、しっかり料理を作る事も出来ている。……まぁ、全部ではないがな」
「ありがとうございます」
マックスさんから認めれられたルディさんは、本当に嬉しそうだ。
料理人が尊敬する人に認められたんだから、嬉しくなるよね。
「カテリーネの方はもう少し教育が必要ね……客が詰まって来た時に慌てる癖を何とかしないとね」
「……頑張ります」
一方カテリーネさんの方は、マリーさんに注意を受けている。
確かにお客さんが多く来て、注文が殺到した時に慌ててたね。
今日は一回、注文を間違えるミスもあったから、反省しきりだ。
冷静に対処出来るようになれば、獅子亭の新しい看板娘になってくれるんだろうけどなぁ。
……元々の看板娘だったモニカさんは、最近冒険者として俺と一緒に活動してるからね。
「私も頑張るの!」
「ユノちゃんは今のままでいいのよ。お客さんにも人気だしね」
ユノとモニカさんは笑いながら話してる。
ユノのやる気は良いんだけど、神様が飲食店で働く事に疑問は無いんだろうか……まぁ可愛いから良いか。
その後は、俺が行ったイルミナさんの店での出来事を話したり、ユノが武器を見た感想を話しながら夕食は進んだ。
モニカさんとソフィーさんもイルミナさんの店で新しい装備を買ったみたいだ。
ヘルサルの街では珍しく、魔法がかかってる武具を売ってる店で評判なんだそうだ。
「まぁ、役に立たない物も多いけどね」
「お湯が出る槍とか……何に使うんだろうな……」
モニカさんやソフィーさんも、ユノが興味を持ったお湯が出る槍を見せられたようだ……。
イルミナさんってもしかして、来た客全員にあの槍や両斧を解説してるんじゃないだろうか……?
あの武器が倉庫の肥やしにならずに売れれば良いんだけど……役に立てられる人はいるかはわからないけどね。
その日は他に何事も無く、新しい剣を買えた満足感のまま就寝した。
明日は試しに剣を振ってみても良いかもなぁ……。
――――――――――――――――――――
翌朝、朝食後にお茶を淹れてまったり今日の予定を考えていると、冒険者ギルドからヤンさんの使いと言う人が獅子亭に訪れた。
「ヤンさんから何か?」
「重要な事というわけではないのですが」
その人が言うには、センテの街にあるギルド支部のギルドマスターが、俺に会いたいと言って来てるらしい。
冒険者ギルド内では、俺がヘルサルを守った事を始め、エルフの集落を救出した事も知れ渡っているとの事だ。
センテのギルマスター……確か、ベリエスさんだったかな。
ベリエスさんは俺に何かを頼むわけでは無いのだけど、一度会って話をしたいのだそうだ。
ヤンさん達ヘルサルの冒険者ギルド経由であちらに俺の話が行ってるとは言え、直接話を聞いてみたいからというのが理由らしい。
「ベリエスさんは、人づての事よりも直接聞いた事を重要視する人でしてね」
伝わって来る俺達の情報だけでなく、直接聞いて色々判断したいんだそうだ。
まぁ、エルサの事とか知られてるだろうしね、ドラゴンが危険なのか直接見て判断したいんだろうと思う。
ベリエスさんには、ヘルサルの街を防衛する時に会って以来だから結構久しぶりだ。
防衛戦後に俺を王都軍に引き渡せと言われた時に、冒険者である事を理由にして、ヤンさん達と獅子亭に留まる事を手助けしてくれたらしいから、お礼を言うのにもちょうど良いね。
それに、エリノアさんやハンスさんとか、センテの街にいる人達に久しぶりに会ってみるのも良いかもしれない。
「わかりました。ベリエスさんに会って見ますね」
「お願いします」
使いの人を見送って、1時間後……俺達はヘルサルの東門から出て、最初に俺がこの世界に来た時に立っていた草原に来た。
……考えてみれば、あれから色んな事があったなぁと、感慨に耽る暇も無く、大きくなったエルサに乗ってセンテに向かった。
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