第138話 掘り出し物の剣
「おぉ、ユノちゃん。それを見付けるとはさすがね! それは3つの刃それぞれに魔法が掛けられてるのよ。その槍を持てば火と水、氷が使えるようになるのよ」
槍の三叉になってる穂先を見ると、確かに魔法が掛かってるようで、刃の部分はそれぞれ薄く色が付いている。
真ん中が赤く、左右の刃が青色だ。
「へー、凄い槍なのー」
「でもね、その槍に魔法を掛けた人が未熟だったのか、それぞれの魔法が干渉するの」
「干渉したらどうなるんですか?」
「三つの魔法が同時に発動してしまうの」
同時に発動……火も水も氷もって事かぁ……。
もしかして……。
「火の魔法が氷の魔法を溶かして、水の魔法が火の魔法を消してしまうのよ。火の魔法を消す事で水の魔法も効力を失って……」
「失って……?」
「暖かいお湯が出るだけになるわ」
役立たずじゃないか!
あぁ、でもお湯が欲しい時には使えるのか……でもわざわざ魔法具の槍を使ってお湯を出す必要は無いよな……。
その後もしばらく、ユノが興味を持った武器を持って来て、イルミナさんによる解説が続いた。
役に立つのか立たないのかわからない物が多かった……面白いけどね。
前回も同じようにイルミナさんの解説があったけど、あの時は時間が無かったからあんまり聞けず終いだったからね。
ただ、武器マニアっぽいイルミナさんが、目を爛々と輝かせて解説をするのが少し怖い……。
でも、こんな武器ばかりでこの店は本当に良いのだろうか?
というか、マックスさんはこの店の何をお勧めしたかったのか……そんな疑問も湧き出て来る。
さすがにそろそろ本題に入ろう。
今日は良い装備があるかを見に来たわけだからね。
また今度、暇な時にでもじっくりイルミナさんの解説を聞いて色々な武器を見る事にしよう。
「イルミナさん、そろそろ俺の武器を……」
「はっ!……そうだったわ……失礼しました。リクさんに合う武器ですか……」
俺がイルミナさんに声を掛けると、正気を取り戻して武器について考え始める。
ユノの方はお構い無しで、置いてある武器を見たり手に取ったりしてるけど、あんまり変な事はしちゃ駄目だぞー。
「……ここに役に立つ物はあるのだわ?」
俺の頭にくっ付いていたエルサは、さっきまでの武器解説を聞いていたらしい。
頭の上で溜め息を吐きつつ、この店に対する疑問を出した。
まぁ、その疑問はわかるけど……俺の集落で使ってた剣はここで買った物だからね、一応はちゃんと使える物もあると思う
「……エルサ、失礼な事を言っちゃ駄目だよ。これだけ色んな武器があるんだから、良い物もきっとあると思う」
「……はぁ……なのだわ」
イルミナさんに聞こえないよう、エルサを注意する。
エルサの方は溜め息を吐きながら、色々諦めたように寝始めた。
微妙な武器の解説を聞くよりは寝ていた方が良いと考えたんだろう。
イルミナさんの方は、エルサが言った事が聞こえて無かったのか、気にしない様子で俺の武器について考えてる。
と、何かを思いついたのか、顔を上げて俺を見た。
「そうだわ……あの剣があったのを忘れてた……リクさん、大き目の剣でも使えますか?」
「え? ええ、使えると思いますけど……」
今まで俺が使って来たのは全部ショートソード。
使いやすさを優先して選んでたからね。
今まで剣を使った事が無かったというのが、選んだ理由でもある。
けど、今はエルサとの契約のおかげで、剣に軽さを求めなくても扱えるようになってると思う。
……特殊な武器は駄目だろうけどね。
「では、少々お待ち下さいね」
「わかりました」
イルミナさんはそう言って、店の奥へと引っ込んだ。
俺は、ユノが置いてある武器で無茶な事をしないよう見張りつつ、寝ているエルサのモフモフを撫でて待つ。
やっぱりエルサのモフモフは癒されるなぁ……。
「お待たせしました」
数分くらいで、奥からイルミナさんが戻って来た。
その手には、今まで俺が使って来たショートソードの倍以上ある大きさの剣を持っている。
「これなんてどうでしょうか?」
「イルミナさんのお勧めですね」
イルミナさんからその剣を受け取り、鞘から抜く。
柄や鞘もそうだったけど、剣身も黒く分厚い。
刃の長さは、80cm~90cmくらいだろうか……厚みも今まで見たどの剣よりも厚く丈夫そうだ。
ロングソードより大きく、ツーハンデッドソードより小さい、間くらいの剣だ。
「剣が黒いのは何かあるんですか?」
俺は剣を持ちながら、説明をしたそうにしているイルミナさんに聞いてみた。
詳しい人に聞いた方が良いからね。
「この剣は魔法が掛かっていて、そのせいで刃が黒くなっています」
「魔法が……でも、魔法が掛かってるともろくなるってさっき言っていませんでしたか?」
魔力が干渉するぽいからね。
刃が分厚くても、魔法でもろくなっていたんじゃいつ折れるかわからない……。
「この件に掛けられているのは、鋭剣(えいけん)と頑剣(がんけん)という魔法です。何でも高名なエルフがこの剣に魔法を掛けたと伝わっています。本来一つの道具には一つしか魔法が掛けられないはずなんですが、これには二つ掛けられています」
「二つの魔法……鋭剣と頑剣ですか」
本来できない魔法二つの付与を一つの道具にする……そのエルフはよっぽどすごい魔法の使い手だったんだろうね。
もしかしたら、フィリーナさん達に聞いたら知ってるかな?
あれ、でもさっきの槍は三つの魔法が掛かってたよね?
「でもイルミナさん、さっきユノが持ってた槍は三つの魔法が使えたみたいですけど……?」
「あれですか? あれは、それぞれの刃の部分に魔法が掛かけられてるんです。一つの刃に魔法が掛けられてるわけじゃないので辛うじて機能してるみたいですね……それでもすごい技術なんですけど……でもその代わり、別々に発動させる事が出来ないので互いに干渉してしまうんです」
それぞれの刃に魔法が掛かってるから出来た事なんだね……でも、一緒に発動するから最終的にお湯になってしまう……と。
すごい技術かもしれないけど、結果役立たずになてしまったのかもしれないな。
考えてる俺をよそに、イルミナさんは俺が持つ剣の解説を続けてる。
「見てわかる通り、その剣の刃は厚くなっています。当然剣としての切れ味は落ちます。ですが、それを補うために鋭剣という魔法が掛けられており、使用者の魔力で通常の剣より鋭くなるみたいです」
魔力を使って鋭く……ね。
それなら刃が分厚くてもしっかり斬れるんだろう。
「さらに、頑剣の魔法が掛かってる事で、分厚い刃がさらに丈夫になり、どんな扱いをしても折れるどころか刃こぼれする事が無いそうです。……当然、こちらも魔力を使用するみたいですけどね」
「折れないし刃こぼれもしない……」
これはすごく良い剣かもしれない……。
「ただ、今までその剣を使いこなした人はいないそうです」
「それは何でですか?」
「必要な魔力が高いみたいですね。人間の魔力では使い始めて数秒持つかどうからしいです。エルフの魔力ならそれなりに扱えるでしょうけど、エルフで剣を使う事が少ないですからね……」
「成る程……」
まぁ、確かに集落でも剣を使う人を見る事はほとんど無かった。
一応、魔物が近づいた時の自衛用に持ってるエルフは多数いたけど、ほとんど魔法を使って距離を離して戦ってたからね、あのマッチョなエヴァルトさんすら使ってなかった。
……だからソフィーさんが集落のエルフに剣を教えてたんだろうけど。
「誰も使えない剣なので、誰にも買われずずっと倉庫に眠ったままでした。元々王都で売ってた剣なんですが……仕入れたはいいもの、どうしようか困っていたんです」
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