第137話 新しい武器を求めて武具店へ



 翌日からは、それぞれ王都に行くための準備を開始した。

 マックスさんとマリーさんは、ルディさんとカテリーネさんに店の事を教え込み、留守にする間の獅子亭を完全に任せるようだ。


「まぁ、全てが出来るようになったわけじゃないから、料理は限定するがな」

「お昼の営業と、夕方の営業を少し短めの時間にしたから多分大丈夫よ。常連さんには説明してるしね」


 という事らしい。

 その合間、暇な時間が出来たらモニカさんの魔法特訓と、ソフィーさんの剣の特訓もしていた。

 ソフィーさんは平気そうだったけど、モニカさんは毎日疲労困憊で店を手伝う事も出来ないくらいだったね。

 それでよく王都に行く準備のための買い物とか出来るなぁと思ってモニカさんを見てた。

 ユノは特に何をするでもなく、ヘルサルの街を見て回って楽しんでる。

 大通りでの屋台巡りがブームなようだね。

 たまにアクセを買った露天商のお婆さんの所へ行って可愛がってもらってるみたいだ。


「お婆ちゃんにお菓子もらったの!」


 たまにお菓子を貰って帰って来るから、王都に行く前に一度挨拶しておいた方が良いかもしれない。

 ……完全にユノの保護者になってるな俺……まぁ良いんだけど。

 俺の方は、皆に色々と聞きながら旅に必要な物を買い揃えたり、獅子亭の手伝いをしてる。

 モニカさんが手伝えない分、俺が頑張らないとね。

 買う物は、服関係が多いかな。

 寒さや風を防ぐための外套だったり、旅の間の着替えだったりだ。

 エルフの集落の時は着替えが少なかったから大変だった……一応洗濯は毎日してたんだけどね。


「このマント……格好良いな……」


 並んでる商品の中で、外が黒くて中が赤い……吸血鬼が羽織ってそうなマントに目を奪われつつも、旅に使えそうな実用性のある外套を買う。

 茶色の地味な物だけど、丈夫そうな生地で体を覆ってくれるから、もしもの時はテントが無くてもこれにくるまって寝られそうだ。

 それと、モニカさんとソフィーさんが装備を新調した事を羨ましく思ったわけじゃないけど、何か良い物があるかもしれないと、武具店にも行く事にした。

 今使ってる剣は安物だからね、集落を守るためにつかって結構刃こぼれしてるのがわかるから、そろそろ折れてしまいそう。

 高ければ良い物とは言えないかもしれないけど、マックスさんからもっとまともな剣を買えって言われてしまった。


「すみませーん」

「お邪魔しますなのー」

「はーい、いらっしゃいませ」


 俺は武器に興味深々なユノを連れて、ヘルサルにある武具店へ来た。

 店に入ってユノと一緒に奥へ声を掛けると、女性の声と一緒に店員がやって来る。

 この武具店はマックスさんお勧めの店。

 以前、集落に行った時もここで剣を買ったけど、あの時は時間があまりなくてじっくり見れなかった。

 ユノが色々興味を持ったのを振り回そうとして、止めるのに時間が取られたのもあるけど……。

 その時はちょっと高めだったけど、お勧めされるがままに剣を買っただけだから、今回は色々見てみようと思う。



「あら、英雄リクさんじゃないですか。今日はどういったご用で?」

「……英雄は止めて下さい……今日は新しい剣を買おうと思いまして。以前買ったのがこうなってしまったので……」


 奥からやって来た女性はイルミナさん。

 短髪にそばかすが特徴で、いつもニコニコ明るい笑顔は店に来るお客さんの癒しだそうだ……マックスさん談。

 年齢は20代中盤かな……ちょっと色気も感じるイルミナさんに、持って来ていた剣を鞘から抜いて見せる。

 しかし、英雄視されるのはヘルサルじゃいつもの事だけど、やっぱり慣れないね……。

 ユノはイルミナさんに構わず、店に置いてある剣に興味深々なようで、さっきから色々と見て回っている。


「あらー、これは結構ひどいですねぇ……。これを見る限り、随分無茶な使い方をしたみたいですね。いつ折れてもおかしくないわ」

「すみません……オーガやオークなんかの魔物達と戦いまして……」

「リクさんの事だから、この街のように大変な事を解決して来たんでしょうけど……オーガやオークですか……どう戦ったの?」


 イルミナさんは剣を一目見て酷い状態だと見抜いたようだね……さすが武具店の娘。

 イルミナさんに剣を見せながら、どう使っていたかを説明する。


「えっと、オーガが持ってる棍棒ごと切り裂いたり、オークの体を真っ二つにしたり……ですかね」

「……そんな使い方してたらこうなるのも納得しますね……その前にこの剣でそんな事が出来る事に驚きました……」


 力任せに振ってる事が多いからね……マックスさんに習ってもっと剣の技術を習得しないといけないかな?

 俺の使い方を聞いたイルミナさんは、剣を見ながら悩んでる。


「リクさんには、丈夫で刃こぼれしにくい剣がいいのか……それとも、鋭さを優先した剣の方がいいのか……」


 どういう剣が俺に合っているのかを真剣に悩んでいるようだ……イルミナさんに任せっきりじゃなくて俺も考えないとな。


「……あ、モニカさんやソフィーさんが魔法具の武器を買っていましたけど……」


 モニカさんやソフィーさんも、新しく買った装備はここで買ったと聞いた。

 魔法で何か強化された武器というのは無いのだろうか?


「魔法具ねぇ……あれは確かに使い方によっては便利なんですが、魔法が込められてる分もろい所もあるから、リクさんのような使い方をしたらすぐに折れてしまいそうですね」

「……そうですか」


 剣から火を出しながら魔物を斬るとか、格好良さそうだったのになぁ。

 魔法が掛けられてるから、魔力が作用して剣身が普通よりも耐久性が低いんだろうか……。

 イルミナさんと二人で、どういった剣が良いかを悩んでいると、店に置いてある武器を興味深そうに見ていたユノがいくつか持ってはしゃいでる。


「リクー、これ格好良いの!」

「ユノ、勝手に振り回したりしちゃ駄目だぞー」

「ユノちゃん、相変わらず可愛いわー……妹にしたい……んんっ! それよりユノちゃん、お目が高いわね」


 柄の両端に斧が二つ付いてる物を持って、くるくる回転させてるユノに注意をする。

 斧を二つくっつけたような武器って、実用性があるんだろうか……重くて扱いにくそうだね。

 確か、両剣とか双刃刀とか言うんだっけ……この場合は斧だから両斧とか双刃斧かもしれないけど。

 イルミナさんの方は、以前来た時と同じくユノにメロメロなようだ……可愛いのはわかるけど、ちょっと怪しい目をしてるのは気のせいだろうか……。


「その斧は、重くて振り回すのも一苦労な事を考えて、手数を増やすために作られた物なの。斧を二つ付ける事によって、使い方次第で1.5倍……いえ、2倍の数相手に斧を叩きつける事が出来るわ!」


 ……手数を増やすためだけに斧を二つくっつけたんだ……。

 でも、さらに重くなって動きが鈍くなりそうなんだけどなぁ……使い方次第では手数が半分になりそうだ……。

 取り扱いを間違えると、自分や味方を切りつける事にもなりそうで危ないと思う。


「こっちも格好良いの!」


 イルミナさんの説明を聞いたからじゃないと思うけど、斧を回転させる事に飽きたユノが別の武器を持って構える。

 それは三叉の槍で、さっきの槍よりは実用性がありそうだ。



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