第136話 クラウスさんからの褒賞
「話は派遣した兵士の報告と、冒険者ギルドからも聞きました。さすがはヘルサルの英雄ですな。見事にエルフの集落を救ってみせるとは……私としても鼻が高いです」
「ははは……」
そう言えばこの人、俺のファンだとか言ってるんだった……。
満面の笑みで俺の事を持ち上げるクラウスさんに苦笑しか返せない。
「クラウス様、そろそろ本題を……」
「おっと、これは失礼しました」
トニさんに注意されたクラウスさんは、テーブルの上で転がってるエルサを見て、起こさないように俺の向かいの椅子へ腰を下ろす。
いつものようにトニさんはクラウスさんの後ろで待機だ。
「本日お伺いしたのはですな、エルフの集落を救出した事に対する褒賞の話をしようと思ったのです」
「また褒賞……ですか?」
以前、ヘルサルの街を守った時に十分な褒賞を貰った。
騎士爵は断ったけど、お金と勲章は受け取る事にした。
勲章を受け取るために王都に行かなきゃいけないし、最高勲章とか言うのを受け取る事になってしまったけど……。
「今回の事は既に王都へ報告しております。救出成功の報を伝えた事による返答はまだですが、成功した場合の褒賞に関して王都からの指示は頂いています」
俺がエルフの集落に行っている間にクラウスさんは、王都と連絡を取り合って褒賞の話もほとんど済ませていたみたいだね。
ヘルサルから王都まで確か馬で2~3日だったっけ……それなら3週間以上街を離れてた間に連絡を取り合う事も出来るか。
「王都からは、エルフの危機を察知した事、その危機から集落を救った事は特に感謝されていますな。この国の魔法技術はエルフに頼る部分が大きいので、これは当然の事でしょう」
「王都はエルフの集落が危機的状況にあると知らなかったんですよね?」
「はい。王都から集落までは距離が離れすぎていますからな。話を聞く限りでは、王都が情報を得た頃にはもう間に合わない状況になっていたでしょう。それもあって、今回リク様が誰よりも早く情報を得て、救出に向かった事を評価しているようです」
王都と集落は急いでも1週間以上かかる距離だからね、情報が遅いのは仕方ないと思う。
この世界に携帯電話やネットなんかの通信技術は無いだろうから。
それに俺は、神様として情報を得たユノから聞いたから知る事が出来ただけだからなぁ……手段があっただけで、特別評価されるような事はしてないと思う。
「褒賞の方は、リクさんには既に最高勲章の授与が決まっています。これ以上は叙爵される事くらいしかありません。ですがリクさんは貴族になるつもりは無いとの事」
「そうですね。色々なしがらみがありそうな貴族になる気はありません」
貴族になったら面倒そうだからね。
これからも俺は冒険者として気ままに過ごしたい。
たまに獅子亭を手伝ったりとかもね。
「普通の民なら、貴族になる事は喜んで受けられるのですがね……まぁそれは良いとしましょう。叙爵を断るリクさんですので、今回は報奨金の方を重視致しました」
「報奨金……」
またお金が増えてしまう……。
「今回は叙爵されない分と勲章代わりも上乗せされておりますので、金貨240枚となります」
「こちらです」
「こんなに……」
トニさんが取り出した金貨がみっちり詰まった革袋を受け取る。
今回はモニカさんがいないので、俺がしっかり中身を確認。
少し時間がかかったけどね。
「ちょうど240枚、確認しました」
「はい。リクさんは今回、パーティで救出に向かったとの事なので、その分も入っています。必要なら、こちらで分けますが?」
「あぁ、大丈夫です。後でモニカさんに言って皆で分けますから」
「そうですか。わかりました」
モニカさんに言えば、しっかり数えて均等に分けてくれるだろうからね。
クラウスさんやトニさんに任せると俺の取り分が多くなってしまいそうだ。
あ、ユノの取り分も分けるように言っておかないと。
しかし4人で分けても一人60枚か……このうちどれだけが上乗せされたのかはわからないけど、十分過ぎる量だ。
お金の使い道……何か考えないといけないかな……?
「クラウス様、そろそろ」
「そうか……リク様、申し訳ありませんが時間が来てしまったようです。本当ならもう少し話をしたいのですが……」
「ははは。仕事、頑張って下さい」
トニさんの言葉で、クラウスさんは仕事のために椅子から立ち上がる。
名残惜しそうにしているクラウスさんだけど、俺は苦笑を返しながら仕事を頑張ってとしか言えない……。
初老のおじさんから熱烈な視線を送られてもね……どう対処したらいいのやら……。
トニさんに促されて、クラウスさんが獅子亭を出ようとしたところで、くるりと振り返った。
「忘れておりました。王都での勲章授与式ですが、後数日で準備が整うようです。その時は迎えが来るそうですが、それまでに王都に向かう準備をしておいた方が良いと思います」
「そうですか……わかりました。ありがとうございます」
伝えるべき事を伝えて、クラウスさんはトニさんと一緒に帰って行った。
王都の準備がもう少しか……旅支度をしておかないとな……モニカさんとソフィーさんは大丈夫そうだけど、ユノの支度も考えないと。
クラウスさん達が帰った後のテーブルで、冷めたお茶を飲んで一人考えた。
そう言えば、クラウスさん達にお茶を出し忘れたな……と考えつつ、熟睡しているエルサのお腹を撫でながら……。
「やっぱりエルサのモフモフは最高だなぁ」
しばらく後、特訓を終えて疲労困憊なモニカさんがソフィーさんとユノを連れてやって来た。
どうやらマリーさんの特訓はマックスさんの時よりかなり厳しかったみたいだ。
疲れてテーブルに突っ伏してるモニカさんには申し訳ないけど、クラウスさんが来た事と、褒賞の事を話して金貨の詰まった革袋を渡した。
さすがにこの状態のモニカさんに全部任せるのは気が引けたので、ソフィーさんと協力して4人で分けた。
ユノには、冒険者ギルドでもらった報酬の分も一緒に渡したけど、がま口の中に入りきらなかった分は俺が預かる事になった。
ユノは金貨数枚と銀貨や銅貨が詰まったがま口を見てニコニコしている。
子供の頃って、高価な紙幣よりも小銭で財布が大きくなるのが嬉しかったりするよなぁ、と微笑ましく見ながらユノから預かったお金をしっかりしまっておく。
「そろそろ夕方の営業だ、手が空いてる奴は手伝ってくれ」
「私は駄目かも……夕食まで休んでおくわ」
「それなら私が代わりに手伝おう」
「あ、俺も手伝いますよ」
「ユノも手伝うの!」
「……だわ?」
厨房からやって来たマックスさん、どうやら仕込みは終わったようだ。
疲労困憊なモニカさんは、無理せず休むようで部屋へ戻った。
代わりにソフィーさんとユノが手伝うようで、やる気を見せている。
ソフィーさんは大丈夫そうだけど、ユノはどうだろう……。
夕方の営業を終えて、夕食時、皆揃ってテーブルについている。
「しかしユノは客に人気だったな」
「頑張ったの!」
マックスさんがユノを見ながら言うと、胸を張って答えるユノ。
確かにユノはお客さんに大人気だった。
特にお爺さんお婆さんからはお菓子を貰うくらいだ……多分、孫を見る心境なのかもしれないね。
初めて手伝ったユノは、簡単に料理を運ぶくらいしかしていないけど、それでも人が入り乱れる店内をスイスイと移動し、料理を落とす事も無く運んでいたのはすごいと思う。
一部、怪しい視線を向けてた客もいたが、そういう客はマリーさんと俺でシャットアウト。
うちのユノを変な視線に晒すわけにはいかないからな!
最近……ユノが可愛い妹のように思えて仕方ない俺だった。
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