第134話 首から下げたがまぐち財布



「済まない、ユノ。さっき出した財布も貸してくれるか?」

「ん? 良いけど、どうしたの?」

「ちょっと待ってな」


 がま口財布もユノから受け取って調べる。

 ふむふむ、思った通りだ……ここをこうして……。

 革のアクセをがま口財布に取り付ける。

 これで、ユノが激しく動いても落とす事は無いだろう。


「ほらユノ、出来たぞ」

「すごいの! 一つになったの!」


 俺からアクセとがま口が繋がった物を受け取ると、それを見たユノははしゃいで喜んだ。


「これはなユノ、こうして服に取り付ける事で……ほら、これで落とさなくなるだろ?」

「おー、リクすごいの。これで魔物と戦うのに気を付けなくても良いの! エルフの集落の時は落とさないように動くのが大変だったの」


 ユノ……集落で魔物を倒す時、そんな事を気にしながら戦ってたのか……。

 もしかして、動きが制限されてあの強さなのか?

 ……これはモニカさんやソフィーさんには言わないでおこう……自信を無くしそうだ。


「……ユノの好きな所に付けて、持っておくと良いよ」

「んー……それならこうするの!」


 ユノは俺が見本として取り付けた、服の腰部分から外して、首から下げた。

 確かに元々アクセの方はネックレスだから、正しい使い方なんだろうけど……少し前に考えた通りの姿になってしまった……。

 ユノの見た目と相俟って、がま口をぶら下げたまま一人で買い物とかしたら……初めてのお使いっぽくなってしまうな……まぁ、ユノがそれが良いと言ってるんだから、これでいいんだろう。


「そろそろ帰るか、ユノ」

「わかったの」


 頭に浮かんだ変なイメージを振り払うように、空を見上げると、日が傾いて来ているのに気付いた。

 大通りをゆっくり歩いて色々見ていたから、結構時間が経っていたようだ。

 ユノに声を掛け、獅子亭に向かって歩き始める。

 帰る頃には、ちょうど良い感じにお腹が減ってるかな。

 大通りくらいしか見て回れていないけど、またユノとこの街を色々見て回るのも楽しそうだな、なんて考えながら獅子亭への道のりを歩く。

 ユノの方は、終始嬉しそうに首から下げたがま口を揺らしながら歩いてた。

 


 獅子亭へ帰ると、ちょうど夕食時で店が混んでいたので、ユノを部屋に置いてマックスさん達の手伝いに入る。

 しばらく店の中を動き回って店を手伝う……客もまばらになり落ち着いて来たと思った頃にモニカさんとソフィーさんが両手いっぱいの荷物を抱えて帰って来た。


「ただいまー」

「帰りました」

「お帰り、モニカさん、ソフィーさん」

「おう、お帰り」


 客の少なくなった店内で、それぞれに挨拶を交わす。

 おっと、あのお客さんはお代わりか……。

 モニカさんとソフィーさんは、挨拶をしてすぐに部屋へと向かった。

 お客さんがまだいる事と、荷物をいっぱい持ってたから、それらを置いて来るんだろう。

 しばらくして、お客さんも完全にいなくなって獅子亭が閉店。

 マックスさんとルディさんが、皆の夕食を作り始める。

 その頃になってモニカさんとソフィーさん、ユノが部屋から出て来てテーブルについた。


「リクさん、お店の手伝いありがとう」

「俺の方が先に帰って来たからね。それにマックスさん達も大変そうだったし」

「今日はいつにもまして客が多かったからな」


 モニカさんにお礼を言われて、それに返しつつ俺もテーブルにつく。

 マックスさん達も厨房から料理を持ってテーブルへ。

 皆が揃ったところで、夕食を食べ始めた。


「モニカ、リクと一緒じゃ無かったのか? リクとユノだけが先に帰って来たが」

「リクさん達とはギルドを出てから別れたの。私達だけで買いたい物もあったしね」

「何を買ったの?」

「王都に行くために必要な物ですね。あと、ギルドから予想以上の報酬がもらえたので、装備の新調もしていました」


 マックスさんは自分で作った料理を食べながら、モニカさんに問いかける。

 マリーさんの方はソフィーさんに何を買ったのか聞いてるようだ。

 両手いっぱいの荷物を持って帰って来たから、何を買ったのか俺も疑問だったけど、装備を新調したんだ……武器や鎧だろうから、荷物が多くなるのも当然かな。


「予想以上の報酬か……エルフの集落を助けたんだからそれなりにもらったんだろうな」

「正直、Cランクでもらえる報酬では無いと思いますが……リクが山分けと言うので」

「リクはそう言う所で欲が無いわよねぇ」

「……いえ、報酬をもらい過ぎても、使い道も無いですし……」


 パーティだし、皆で頑張った事だから報酬は均等に分けるべきだと思うんだけどなぁ。


「まぁ、リクだからな……装備を新調したと言ったが、どんな物を買ったんだ?」


 マックスさん……リクだからで済ませないで欲しいんですけど……。

 まぁ、これ以上色々言われても何と返せばいいのか困るんだけどね。

 それはともかく、マックスさんが聞いたようにソフィーさん達の新しい装備だ。

 どんな物を買ったのかな?


「私は槍の穂先から火の魔法が出る槍ね」

「そんな物があるんだ?」

「そういやリクには魔法具の事を教えて無かったな」


 マックスさんがモニカさんの持って来た槍を見ながら言ってるけど、確かに魔法具と言う物の事を聞いた事は無かった。

 魔法具……という事は、魔法がかかった道具の事かな。


「魔法具はその名の通り魔法がかかった物の事よ。この槍なら、持っている人の魔力を使って火の魔法を代わりに出してくれるの」

「へぇー、そんなのがあるんだ」


 代わりに魔法を使ってくれるのは便利で良いね。

 モニカさんの持ってる槍は、魔法がかかってるからなのか穂先がほんのり赤くなってる。

 火の魔法だから赤いのかな。


「でも、最初にかかってる魔法しか使えないから、使う場面は限定されるわ」

「一つしか使えないんだね」


 それでも、いつもは使えない魔法を武器が代わりに使ってくれるだけでも助かると思う。


「しかし、高かったろう」

「まぁね。でもギルドからもらった報酬があったから思い切って買ったの」

「魔法具はそんなに高い物なんですか?」


 槍に関しては、モニカさんが以前使っていた槍とほぼ変わらない見た目だ。

 ただ穂先が赤くなっていて、魔法が使えるというだけ。

 便利な道具なんだろうけど、それだけで高くなるんだろうか?


「魔法具は作れる人が限られているからな。それこそ、この国だとリク達がいった集落のエルフくらいじゃないか?」

「そうね。エルフ達にその話を聞いてみたけど、エルフの中でも作れる人は少ないらしいわ」

「エルフは魔法に長けた種族だからな。単純な魔法しか使えない道具でも、何の変哲もない槍の数倍の値段がしたぞ」

「そうなんですね……」


 作れる人が少ないから、数も当然少ない。

 だから価値も上がってしまうのか……もし今回エルフの集落を守る事が出来なかったら、その価値はさらに上がってしまったのかもしれないな。

 作れる人がいなくなるって事だからね。


「今回の報酬が予想以上に多かった事と、リクさんが分けてくれたおかげで買えたわ」

「成る程な……。ソフィーの方は何を買ったんだ?」

「私は、胸当てと剣を買いました。どちらもモニカと同じく魔法がかかっている物ですね」


 モニカさんが買えたのは、今回の報酬のおかげかぁ……まぁ、皆が強い装備を持つ事は良い事だよね。

 マックスさんはソフィーさんの方にも何を買ったのか聞いている。

 ソフィーさんは胸当てと剣か。

 こっちも魔法がかかってるのかな?


「どちらも氷の魔法がかかってるぞ。剣の方は相手を凍らせる魔法。胸当ては火の魔法等から身を守るためだな」



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