第133話 ヘルサルの大通りをぶらぶら歩く



「そうだな……何か欲しい物でもあるか?」

「んー……あれが欲しいの!」


 ユノが指を指した先には、串に刺されて野菜と肉が焼かれた物が並んでる屋台だ。

 やっぱり食欲が一番なのかな?

 さっきもらった報酬が入ってる革袋を取り出し、中から銀貨を取り出してユノに渡す。

 ギルドにお金を預ける時に両替しておいた物だ。

 金貨ばかりだと、買い物しづらいからね。

 それに子供の見た目なユノが金貨をじゃらじゃら持ってるのも危ないだろうから。

 ……ユノなら強盗とかに狙われても大丈夫だろうけど。


「ほらユノ、これで買っておいで」

「ありがとうなの! エルサやリクの分も買って来るの!」


 そう言って嬉しそうに屋台へ駆けて行くユノ。

 俺やエルサの分は自分で買うから良いんだけどなぁ……ユノは優しいな。

 兄の気分になってユノが屋台で買い物をするのを見守る。

 初めてのお使いを見ている気分……というのはユノに失礼かな?


「買って来たの!」

「ありがとう、ユノ」

「食べ物なのだわ!」


 屋台から帰って来たユノの手には、俺の顔以上の大きさがある串に刺さった肉と野菜が三つ。

 さっきまで俺の頭で寝ていたエルサが、食べ物の匂いで起きた。


「ありがとうなの、リク」


 そう言って串と一緒に、お金の残りを渡そうとするユノ。

 だけど、俺はそれを止めながら、代わりに串を二つ受け取った。


「ユノ、それはユノが頑張った事に対する報酬だよ」

「そうなの?」

「ユノはエルフ達の所で頑張ったからね。残りの報酬は後で渡すからな。まぁ、お小遣いと思えば良いよ」

「わかったの、ありがとうなの」


 お金の残りをがま口みたいな財布に入れるユノ。

 いつのまにそんな物を持ってたんだ……ユノがそれを首から下げてお使いというのは絵になり過ぎないか……?

 首ではなく服の中にしまったユノは、買って来た串焼きを美味しそうに頬張り始める。

 変な事を考えて無いで、俺も食べるか。


「ほら、エルサも」

「食べるのだわ!」


 右手で自分の串を持って食べつつ、左手に持った串を頭に近付けてエルサに食べさせる。

 食べる時くらいは俺の頭から離れてもいいんじゃないかと思ったけど、モフモフがくっ付いてる感触が気持ち良いのでそのままでいいか。


「おいしいの」

「良かったなー」


 笑顔でモリモリと買って来た串焼きを食べるユノ。

 この串焼きは、獅子亭の特製肉とは違う肉を使ってるみたいだね。

 タレを付けて焼いてあるから、味が染みてて美味しい。

 串焼きを食べながらユノと一緒に大通りを見て回る。

 色んな事に興味を示しながら、キョロキョロと辺りを見回しながら歩くユノは楽しそうだ。

 こっちに来てから街を楽しむ事も無く、すぐにエルフの集落に向かったからな。


「あ、リク。あれは何なの?」

「ん? あれは……」


 大通りの端に着こうかという時、ユノが一軒の屋台に興味を持った。

 その屋台は食べ物屋では無く、店先に色んなアクセサリーが並んでいる。

 屋台というより、露店商か。


「アクセサリー屋か……見てみるか、ユノ?」

「うん!」

「私は興味無いから寝てるのだわー」


 興味津々なユノを連れて、アクセサリー屋の前に移動する。

 エルサはアクセサリーには興味がないから、頭にくっ付いたまま寝始めた。

 ……色んな屋台を回って結構な量を食べてたから満腹になったんだろうな。


「こんにちは。アクセサリーを見せてもらって良いですか?」

「いらっしゃい。おや、可愛いお嬢ちゃんだ。好きなだけ見て行っておくれ」

「ありがとう、お婆ちゃん」


 アクセサリー屋をしているのは、腰が曲がった品の良いお婆さん。

 ユノにお婆ちゃんと呼ばれて嬉しそうに頷いてる。


「革製品……ですか」

「ここにあるのは魔物の革を使ったアクセサリーだよ」

「これ可愛いの!」


 店に並んでるのは革で作られたアクセサリーや、財布っぽい革袋、帽子なんかもあった。

 色々な物があるんだな。

 革が何の魔物から取れるのかは知らないけど、地球にいた時見たレザーアクセと似たような感じだ。

 ユノが可愛いと言って手に取ったのは、革で作られたネックレスのような物。

 先の方に金具が付いていて、何かを取り付けられるようになってる。


「可愛いお嬢ちゃん、お目が高いね。それは私が魔物の革を使って作ったアクセサリーだよ」

「これらは全部手作りなんですか?」

「そうだね。私だけじゃないけど、どれも人が手を使って作った物だよ」


 手作りのレザーアクセかぁ、人の温かみがあってそう言う物も悪くないよね。

 ……というかこの世界で人の手作りじゃない工業製品ってあるんだろうか……?

 機械とかは無さそうだけど……。


「お嬢ちゃんが手に取ったそれは、珍しい魔物の革を使った物だ。特別性だから耐久性もあるし、長持ちするよ」

「珍しい魔物とはどんな魔物なんですか?」

「お兄さんは魔物に興味があるのかい?」

「あぁ、すみません。俺は冒険者をやっているので、魔物の情報を知っておきたいな、と思いまして」


 魔物の情報は冒険者にとって大事な事だ。

 その魔物を知っていれば遭遇しても対処がで出来る可能性が広がるからね。


「そうかい。こんな可愛いお嬢ちゃんがいるのに、危ない職業をしてるんだね」


 お婆さんは、手に取ったアクセサリーを色んな角度から見てニコニコしてるユノを見ながら呟いた。

 ……まぁ、確かに安全な職業では無いだろうね……けど、ユノも俺も最低限自分の身を守るくらいは出来ると思う。


「その革は、ワイバーンの革だよ。大型の魔物だけど、遠方で討伐されたらしくてね。空を飛ぶ魔物相手に良くやったもんだ。ワイバーンは硬い皮膚を持ってるから、それを使って作った物は剣を弾く物もあるくらいだ」

「ワイバーン……」


 亜竜や飛竜とか、そういう呼び方もされる魔物だったけか…これは地球での知識だった……。

 お婆さんの言う通りなら、ワイバーンも飛ぶらしいから想像してる姿とそんなに離れていないだろうとは思う。

 まぁ、実際に見ないとわからないけどね。


「ワイバーンの皮膚は硬いだけじゃなくて、火も通さないからね。加工するのも一苦労だけど、その分丈夫さは保証するよ」

「成る程」

「これ欲しいの!」


 ユノは手に持って見ていたアクセサリーが欲しいようだ。


「えっと、いくらですか?」

「そうさね……可愛いお嬢ちゃんに免じて、銀貨5枚にしとこうかね」


 ワイバーンで作られた革製品がいくらくらいの物なのか、俺にはわからないけど、お婆ちゃんのユノを見る目が優しいから、多分安くしてくれてるんだろう。


「それじゃぁ、これで」

「はいよ、ありがとさん」

「お婆ちゃん、ありがとうなの!」


 革袋から銀貨を取り出し、お婆さんに払ってアクセサリーを買う。

 ユノも気に入った物が手に入って嬉しそうだ。


「お嬢ちゃん、また何か欲しい物があったらここにおいで。私は毎日ここで店を開いてるからね」

「うん。またね、お婆ちゃん」


 お会計を終え、俺達はアクセサリー屋から離れる。

 ユノはお婆さんにお礼を言いつつも、視線は今買ったアクセサリーに釘付けだ。

 よっぽど気に入ったらしい。


「ユノ、良かったな」

「うん!」


 元気良く返事をするユノを連れて、大通りから離れる。

 少し離れた人通りの少ない場所まで来て、思いついた。


「ユノ、ちょっとそのアクセサリーを見せてくれるかい?」

「うん、どうぞ」


 ユノから革のアクセを受け取って、先に付いてる金具を見る。

 ……これなら大丈夫そうだな。


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