第132話 冒険者ギルドで報酬の受け取り



 翌日、俺達は皆で冒険者ギルドへ向かう。

 昨日ヤンさんと別れる前に、報酬の事があるので冒険者ギルドに来て欲しいと言われてたからね。

 久しぶりと感じる冒険者ギルドに入り、受付に進む。

 その途中ですれ違った他の冒険者さん達は、俺が以前見た覚えのある人もいれば、見た事の無い人もいた。

 まぁ、冒険者は自由に拠点とする場所を変えられるからね、入れ代わりも多いんだろうと思う。


「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのような御用ですか? 依頼受け付けはこちらへ、登録であればあちらになります」


 受付にいた人は、以前いた人とは違うお姉さんだ。

 俺達とは初めてのお姉さんは丁寧に案内してくれるけど、用があるのはヤンさんだからね。


「副ギルドマスター……ヤンさんはいますか?」

「副ギルドマスターですか? ……少々お待ち下さい」


 受付のお姉さんは、俺がヤンさんに用があると聞いて訝しそうにしつつも、カウンターを離れて奥へ行った。

 まぁ、頭に犬(エルサ)をくっつけた男がいきなりギルドの副マスターを呼び出そうとしたらそうなるのかもね。

 数分程、カウンターの前で待つと、奥からヤンさんが先程のお姉さんに連れられてやって来た。


「リクさん、ご足労ありがとうございます。こちらへどうぞ」

「はい」


 本当にヤンさんと知り合いだった事に驚いてる受付のお姉さんをその場に置いて、俺達はいつもの会議室のような部屋へと通された。


「まずは皆さん、この度のエルフの集落での活躍、冒険者ギルドを代表してお礼致します」

「はい……ですが、ヤンさんも最後は参加しましたけどね」


 頭を下げるヤンさんに、俺は苦笑しながら返す。


「ははは、私は少しだけ魔物を討伐したくらいですよ。ほとんどはリクさん達の功績でしょう。……では、報酬になりますが」

「依頼達成扱いになるんですか?」

「そうですね。魔物の討伐に関しては部位も無く確認は出来ませんが、集落やギルドからの依頼という形で追加報酬として加えました」


 集落を守った事の他に、魔物を討伐した報酬も加味されるみたいだ。

 お金には困ってないから、そこは気にしてないんだけどね。


「えーと……まずはこちらがギルドからの報酬となります」

「……すみません、モニカさん……お願いします」

「わかったわ。お金に関しては私が管理した方が良さそうだものね」


 俺に出来ないわけじゃない……と思いたいけど、モニカさんの方が確実で安全だと思う。

 獅子亭でお金の管理を経験してるからね。


「……一人当たり金貨100枚の計300枚……ですね。確認しました」

「はい。リクさん達はパーティを組んでいらっしゃるので、個別に用意させて頂きました」


 そう言えば、ソフィーさんがパーティを組む時に言ってたっけ……報酬が全部一緒にじゃなくて、あらかじめ決めておいた分け方で報酬が支払われるようだ。

 俺達はそれぞれ、ずっしりと重いお金の入った金貨を受け取る。


「私はリク程の活躍をしていないのだが……こんなに報酬をもらって良いのだろうか……」

「そうね……簡単にこんな大金が手に入るなんて、金銭感覚が狂いそうだわ」

「俺達はパーティだからね、それで良いんだよ」


 山分けで良いと思う。

 俺が報酬の大半を貰ったとしても、使い道が無いからな……。

 あ、冒険者じゃないユノは俺の報酬を半分あげる事にしよう、ユノも色々頑張ったからね。

 おとなしく隣で座ってるユノをチラリと見ながら、そんな事を考えた。


「次に、こちらがエルフの集落からの報酬になります。一人あたり金貨40枚ですね」

「確認します」


 三つの革袋をモニカさんが受け取り、それぞれ確認を始める。

 やっぱりモニカさんってお金を数えるのが早いよね。

 こんな事を考えてる間にも2袋目に入った。


「……確認しました」

「エルフの方達……特にエヴァルトさんからは報酬が少なくて申し訳ないと伺っていますが、大丈夫ですか?」


 エヴァルトさんは報酬が少ない事を気にしているようだ。

 元々報酬に期待して集落に行ったわけじゃないから、気にしなくても良いんだけどなぁ。

 それに、少なかったとは言え集落に被害が無かったわけじゃない。

 お金はそちらに使って欲しいというのもある。


「大丈夫ですよ。むしろ報酬が無くても良かったんですけどね」

「そこはエルフの方達からの感謝の気持ちという事でしょう」

「集落では歓迎されて食事等も用意されていたからな、私もそれで十分だと思っていた」

「そうね。まぁ、感謝の気持ちと言うのなら、断る方が失礼かもしれないわ」


 確かにモニカさんの言う通り、断るのも失礼かもしれない。

 ありがたく受け取る事にして、それぞれヤンさんからお金の入った革袋を受け取った。

 えっと……合計金貨140枚だから……ユノには70枚渡せば良いな。


「報酬に関してはこれで終了ですね」

「はい、ありがとうございます。それで、依頼なんですが……」

「リクさん、私達はまだヘルサルに帰って来たばかりなのよ? 少しは休んでも良いんじゃないかしら?」

「そうだな。王都へ行く準備もしないといけないしな」

「王都に行くのー」

「ギルドとしても、依頼をこなしてもらえるのはありがたい事ですが、ここは他の皆さんが言うように少し休んだ方が良いと思いますよ?」


 そんなものなのかな……集落ではちゃんとした家で寝泊まりしていたし、昨日はマックスさん特製の料理を食べて早めに休んだから、疲れとかは感じてないんだけど……。

 でも皆は休みたいようだから、しばらくは依頼を受けずに休んでおこうかな。


「わかりました。しばらく獅子亭の方で休む事にしますね」

「はい、それが良いかと思います」

「ホッ」


 モニカさんがあからさまに安心した息を吐いてるけど、そんなに疲れてるのかな?

 俺一人だけじゃなく、皆の疲れとかもちゃんと考えないといけないな……。

 反省。


「それではヤンさん、俺達はこれで」

「はい。何かありましたらまたギルドまでお越し下さい」


 ヤンさんに挨拶をして、俺達はギルドを出る。

 ギルドの外へ出る前に、通りかかったカウンター前で受付のお姉さんから訝し気な表情で対応した事を謝られたけど、気にしなくて良いのになぁ。

 その時、ついでにと冒険者カードを出して今しがたもらった報酬のうち、金貨70枚を預けておいた。

 簡易的な銀行システムの利用だね。

 報酬をもらうのは良いけど、まだ以前もらったお金が減らずに残ってるからなぁ……持ち歩くのも手間だから、預ける事にした。


「私も預けておくわ」

「そうだな。こんなに持ち歩いても仕方がない。私もそうするか」


 モニカさんやソフィーさんも俺に続いて、お金をギルドへ預けた。

 ユノがそんな俺達の行動を不思議そうに見ていたので、後で説明しておこう。

 ついでにお金も渡さないといけないからね。


「それじゃ、リクさん。また獅子亭で」

「それではな」

「はいはーい」


 ギルドを出てすぐ、王都に行く準備のためや買い物、久しぶりにヘルサルの街を見回りたいと言うモニカさんやソフィーさんと別れる。

 俺はエルサを頭にくっ付けて、ユノと一緒にヘルサルの街一番の大通りを歩く。

 そう言えば、最初にこの街へ来た時に辿り着いたのもこの大通りだったなぁと思い出してると、ユノがキョロキョロと辺りを見回しながら歩いてる事に気付く。


「珍しい物でもあったか、ユノ?」

「初めて見る物ばかりなの!」


 そう言えば、ユノは俺の所に来てからヘルサルの街を見て回る余裕も無く、すぐにエルフの集落に向かったんだったね。

 行ったのはせいぜい武具屋くらいだ。

 ユノとこの街を見て回るのも楽しいかもしれないな……モニカさん達と一緒に行動しても良かったかなとも思った。



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