第131話 ヘルサルの街へ帰還



「ただいまー」

「遅くなりました、今帰りました」

「ただいまなのー」


 モニカさんが獅子亭のドアを開け中に入りつつ声を掛ける。

 俺もそれに続いて帰りの挨拶をしながら中に入る。

 ちなみに、兵士さん達はクラウスさんへ報告すると、街へ入ってすぐに別れた。

 ヤンさんを含めた冒険者さん達は、ギルドへの報告と俺達への報酬を纏めるために冒険者ギルドへ。

 獅子亭に帰って来たのは、俺とモニカさん、ソフィーさんとユノ、それにエルサだ。

 昼を大分過ぎた時間だから、獅子亭が込み合ってる時間じゃない。

 俺達の声にすぐマックスさんかマリーさんが応えてくれると想像してたけど、それが無い。


「あ、お帰りなさい。随分遅かったのね」

「お帰りなさい」


 代わりに店の奥から答えてくれたのは、カテリーネさんとルディさんだ。


「あれ、カテリーネさん達だけ? 父さんや母さんはどうしたの?」

「あぁ、マックスさん達なら新しい料理を開発すると意気込んで市場に行ってるわ」


 モニカさんがカテリーネさんにマックスさん達の事を聞くと、そう帰って来た。

 マックスさん、以前言っていた新しい料理をしっかり考えてるんだね……ちょっと楽しみだ。


「とりあえず、部屋に荷物を置いてきたらどうだい?」

「そうですね」


 ルディさんの言う通り、俺達はまず荷物を置いて来る事にした。

 エルフ達からもらった食材や装備等も含めて、結構な荷物だからね。

 少しして、俺達はそれぞれ部屋に荷物を置くだけ置いて戻って来た。

 カテリーネさんがお茶を淹れてくれるのを飲んで、とりあえず一息。


「どうしてもリクのようには淹れられないわね……」

「特別な淹れ方はしてないんですけどね」


 カテリーナさんはお茶の味に少し不満な様子。

 これでも美味しいんだけどなぁ……。

 俺は特別な淹れ方をしてるわけじゃない、ただ地球にいた頃に聞きかじった知識で淹れてるだけだ。


「それで、エルフの集落の方はどうだったの?」

「楽しかったわよ。色々な事があったけど」


 興味津々なカテリーネさんの言葉に、モニカさんがお茶を飲みながら返していると、獅子亭の入り口が開いてマックスさんとマリーさんが入って来た。


「帰ったぞー」

「あら、リクとモニカ? 帰って来たのね」


 市場で買い込んで来たんだろう、色々な食材が溢れてる麻袋を抱えている。


「さっき帰って来ました」

「ただいま、父さん、母さん」

「お久しぶりです」

「帰ったのー」

「おう、お帰り。随分遅かったんだな」


 皆それぞれに挨拶をし、マックスさんは麻袋をルディさんに渡しながら迎えてくれる。

 マックスさんの声を聞いて、ようやく帰って来た実感が湧いて来たなぁ。


「ヤン達が向かったと思うけど、エルフの集落はどうだったの?」

「ヤンさんとは集落で合流して、一緒に帰って来ました。エルフの集落は無事です」

「結構時間がかかったようだが、難しい魔物でもいたのか?」

「それなんだけどね」


 皆で店にあるテーブルにつき、カテリーネさんの淹れてくれたお茶を飲みながらエルフの集落であった事を話す。

 ルディさんやカテリーネさんも興味深そうに聞いてくれた。

 エルフの話というのが珍しいからかもしれないね。


「……サマナースケルトン、か」

「私達が冒険者をしている時に見た事は無いわね。話は聞いた事があるけど」


 マックスさんとマリーさんは、サマナースケルトンに興味を持ったようだ。

 ……興味というより、元冒険者としての警戒心からかもしれない……サマナースケルトンは単体なら何でもない魔物だけど、数を増やす事で脅威になるからね。


「ゴブリン達程じゃないけど、かなりの量の魔物がいました」

「厄介な魔物だな……魔物を呼び寄せるとは……」

「森に魔物が散らばってるので、移動しながら討伐するのに時間が取られてしまいましたね」

「向かって来る魔物を討伐するだけなら時間はかからないだろうが、探しながらだとどうしてもな。良い経験になったようだな」

「はい。森に詳しいエルフに案内してもらいながらですが、良い経験になりました」


 森の中を移動する方法や、今いる位置を確認する方法等、森と一緒に暮らすエルフの知識は今後の役に立つだろうと思う。


「私達の事じゃなくて、父さん達はどうなの? 店を放り出して市場に行くなんて」


 モニカさんが、帰って来た時マックスさん達がいなかった事を聞く。

 確かに俺が来てから今まで、マックスさんが誰かに店を任せてどこかへ行くなんて事は無かったからね。


「お前達が集落に向かってから、ルディを鍛え上げてな。まだまだ未熟だが、試験的にここ数日、昼の時間をまかせてみてるんだ」

「私達がずっと見張っててもと思って、今日は市場に出かけたのよ」

「……何とか、営業出来てます」

「いきなりこんな評判の店を任されるのは緊張したけどね」


 俺達がエルフの集落へ行ってる間にそんな事になっていたらしい。

 そう言えばマリーさんが、ルディさん達に店を任せて王都に行くとか言ってたから、その準備のためのお試しという事なのかもしれない。


「まぁ、いつもよりは料理を限定させてるがな」


 マックスさんが集中して鍛えたと言っても、全ての料理を完全に再現は出来ないだろうと思う。

 何品かだけでも、獅子亭の味を守って店を任せられるのはすごいと思うよ。

 ルディさんは厨房で、カテリーネさんはウェイトレスとして頑張ったんだろう、以前より少しだけ自信が付いたようにも見える。


「まだまだだが、これなら俺達も王都に行く期間くらいは任せられると思うぞ」

「そうね。二人共頑張ってくれてるわ」

「ありがとうございます」

「……そういえば、父さんも母さんも王都に行きたがってたわね」


 マックスさんとマリーさんの言葉に、ルディさんとカテリーネさんは感動してる様子。

 モニカさんは今マックスさん達が王都に行こうとしてたのを思い出したようだ。


「まぁ、まだ色々話したい事はあるが、疲れただろう。今日はもう休め。ルディ達は俺と一緒に夜の準備だ」

「「はい!」」

「そうね、今日はゆっくりする事にするわ」

「わかりました」

「……お肉が食べたいの」


 マックスさんの言葉で、店の準備や休むために解散となろうとしたところで、ユノがポツリと呟いた。

 確かにエルフの集落では肉料理が少なかったからね……モニカさんが料理をしてくれた事もあったけど、やっぱり獅子亭に帰って来たら特製の肉料理を食べたい。

 ユノの言葉を聞いたソフィーさんも、近くで涎を垂らしそうにしながら頷いてるしね。


「父さん、特別美味しいお肉の料理をお願い。エルフの集落じゃお肉料理があまり無かったから」

「そうか……わかった。今夜の飯は腕によりをかけて特製の肉料理を作ろうじゃないか!」

「ユノちゃん、良かったわね」

「やったのー、お肉なのー!」

「ちゃんとキューも用意してくれなのだわ」


 マックスさんが腕によりをかけて……今夜は期待出来そうだ。

 無邪気に喜ぶユノを見て、皆が微笑んでいた。

 ……エルサにもちゃんとキューを用意してやらないとな……移動も含め、今回は色々頑張ったから労いの意味も兼ねて。

 その日の夜、マックスさんの作った絶品の料理をたらふく食べて満足した皆は、旅の疲れを癒すように早めに床に就いた。



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