第130話 それぞれのエルフ達~エルフじゃないのだわ、エルサなのだわ~



 最近よく寝られて良い気持ちなのだわ。

 リクの頭にくっ付いて寝るのも、リクとユノ様……ユノに挟まれて寝るのも両方、気持ち良過ぎて起きたく無いくらいなのだわ。

 でも、そんな安眠を妨害する奴らがいるのだわ。

 エルフの集落とやらを襲ってる魔物達なのだわ。

 奴らは二度、夜中に襲撃して来て私の安眠を妨害したのだわ。


「許せないのだわ……」


 リクの頭にくっ付いて、魔物達を倒す様子を見ていたのだわ。

 だけど、とある拍子にまたリクが魔力を溢れさせたのだわ。

 ……驚いて結界まで使ってしまたのだわ……。

 リクの魔力は心地良いのだけど、いきなりドラゴンの私ですら驚く量の魔力が溢れたら、心臓に悪いのだわ。

 ……攻撃されたのかと思ったのだわ。

 リクが気にしてた方を見て納得したのだわ。

 姉弟と見られるエルフが火の魔法に当たったようなのだわ。


「……仕方ないのだわ」


 多分、リクは記憶の奥底に眠ってる事を刺激されただけなのだわ。

 リク自身はわかって無さそうだけどだわ、これは仕方ない事なのだわ。

 ……この事を知ってるのは私と……多分ユノだけなのだわ。

 リクが自分で思い出さないのなら、悪戯につつく必要も無いのだわ。


「エルサ、その結界の魔法はどうイメージしてるんだ?」


 リクの事を考えてたら、私が張った結界の魔法をの事を聞いて来たのだわ。

 これは簡単なイメージだから、リクは使い方を教えるとすぐに実践出来たのだわ。

 ……規模が私が出来る結界よりも段違いなのだけどだわ。

 これなら魔物達が入って来る事も無いのだわ……空気も入れ替わらないけど……だわ。


「それじゃあエルサ、結界を一部薄くするから、そこから出てくれ」


 リクに結界から外に出て魔物達を倒してくれと頼まれたのだわ。

 ……断れないのだわ。

 まぁ、安眠の時間を邪魔した魔物達に恨みを晴らす良い機会なのだわ。

 リク達にキューを用意する事を条件に出しておいたのだわ。

 今回はキューに釣られたという事にしておくのだわ。


「うじゃうじゃと面倒なのだわー」


 リクが薄くした結界の一部から外に出たのだわ。

 外では中に入れない魔物達が群がって、ウロウロしていて気持ち悪いのだわ。

 蹴散らすのも面倒だったから、魔法を使う事にするのだわ。

 幸い、リクが結界を張ってるから、強力な魔法でも魔物以外に被害は出ないのだわー。


「ウインドブレイド」


 風を起こして、その中に不可視の刃が踊ってるイメージなのだわ。

 イメージを簡単にするために、口から出るようにするのだわ。

 ……口から吐きだすように見えるのが難点なのだわ……けど、本当に口から吐いてるわけじゃないのだわ。

 ちょっと本腰を入れて魔法を使ったら、あっさり魔物達は全部バラバラになったのだわ。

 たったこれだけで吹き飛ぶのに、私の安眠を邪魔しないで欲しいのだわ。


「……弱すぎて逆に腹が立つのだわ……」


 確か……リク達は魔物が森の端にある洞窟から来ると言ってたのだわ。

 そこが元凶なら、そこにいる魔物達を全て排除すれば安眠妨害察る事は無いのだわ!


「おーい、エルサ。もう良いから戻って来い」

「もうちょっと頑張るのだわー」


 後ろの方でリクが何か言ってたような気がするけど、今は安眠を確実にする事の方が重要なのだわー。

 久しぶりに誰も乗せずに飛んだのだわ。

 最近はリクやその知り合い達を乗せる事が多かったのだわ。

 飛ぶのは好きだから、誰が乗っていようと構わないのだわ。

 変な事をされるのは嫌だから、リクが許可した者だけ乗せる事にするのだわ。


「この辺りのはずなのだわ……」


 私は森を見下ろして、洞窟を探したのだわ。

 森の端っこ……少しだけ木々が開けた場所で見つけたのだわ。

 洞窟を潰すのは簡単だけどだわ……後々大きな影響を残しそうな事をするとリクに怒られるかもしれないのだわ……。


「さっきの魔法で良いのだわ」


 風を使った魔法なら、空気がある場所ならどこへでも届くはずなのだわ。

 これなら、洞窟内で勝手に吹き荒れて魔物達もイチコロなのだわ。

 ちょっと狭いけどだわ……なんとか顔が入ったのだわ。

 暗い洞窟だけど、ドラゴンの私なら中を見るのに困らないのだわ。


「案の定、隙間の方が少ないくらい魔物がいるのだわ……」


 洞窟の中に顔を突っ込んで中を観察したのだわ。

 中にはさっき蹴散らした魔物や、最初に私の安眠を邪魔した時の魔物を足したくらいの数がいるようなのだわ。

 洞窟の中なら、楽にバラバラに出来るのだわー。


「ウインドブレイド」


 さっきと同じ魔法を、洞窟の入り口から中に向けて放ったのだわ。

 壁に当たって跳ね返って来る風と刃は、顔の前に結界を張って防ぐのだわ。

 これで、洞窟の外に魔法が漏れる事も無いのだわ。


「……エルサ……何をしてるんだ……お前……?」


 わざわざリクが私を追い掛けて来たみたいなのだわ。

 ドラゴンの私を心配してくれる、優しい契約者なのだわ。

 とりあえず、もう少しで完了だからそこで待っててなのだわー。

 ……ちょっとユノ、魔法に集中出来ないから変なとこをつつくのは止めてなのだわ!


「まぁ……いいか。エルサ、偉かったぞ」

「……褒めるのならキューを用意するのだわ」


 洞窟内の魔物を全てバラバラにした事を探査の魔法で確認したのだわ。

 リクにも説明しながら、中を照らして見せると、褒められたのだわ。

 ……嬉しいのだわ……嬉しいのだわー……。

 けど、照れくさいからキューのためって事で誤魔化しておくのだわ。

 ……凄く恥ずかしいのだわ……。


「やっぱりここが一番落ち着くのだわー」


 森からの帰り道、私はいつものようにリクの頭で寛ぐのだわ。

 魔物もいなくなったし、これで安眠を邪魔される事も無いのだわー。

 私の平穏を勝ち取ったのだわ。

 森から出た後、何やらリク以外の人間やエルフ達が、リクがどうして魔力を溢れさせたのかを考え始めたのだわ。


「面倒な事を考え始めたのだわ……」


 どうしてなのか、私とユノは知ってるけど教える事は無いのだわ。

 でも、変にリクの記憶をつつかれるのも面白くないのだわ。

 リクの記憶は、契約者である私に流れて来た大事な物だわ。

 リクが自然と思い出すのなら良いけどだわ、他の人間達につつかれていい気はしないのだわ。

 ユノは元々のリクとの関りから知ってるから、仕方ない事にしておくのだわ。

 ……一応元神様だし、なのだわ。


「……リクの事なの。皆が考えなくても良い事なの……。これ以上詮索しないで欲しいの」

「……リクの事はリクと私に任せるのだわ。もういいから今日は寝るのだわ」


 ユノと目が合って頷き合った後、リクを含めた皆に言い聞かせたのだわ。

 幸い、下世話な詮索をして来る人間もいなかったのだわ。

 これでもうしばらくはこのままなのだわ。


「……どうせ、もうしばらくしたら強制的に奥底にある記憶を刺激されるはずだからなのだわ……」


 誰にも、くっ付いてすぐ近くにいるはずのリクにすら聞こえない声で呟いたのだわ。

 けど、ユノには何故か聞こえたのか、それとも私が考えてる事を察したのかだわ、苦笑して頷いていたのだわ。

 それから数日経ったのだわ。

 森の中に残ってたしぶとい魔物をリク達が倒すのを、頭にくっ付いたまま眺めるのだわ。

 途中で、ヘルサルとかって言う人間の街にいたリクの知り合いが来て、一緒に魔物を倒す事になったけど、どうでも良いのだわー。

 私は安眠出来て、落ち着くリクの頭にいられれば満足なのだわ。


「でも……洞窟の時みたいに、たまにはリクに褒められるのも悪くないかもしれないのだわ……」


 魔物達を倒し終わって、元居た場所に戻るためにリク達を乗せて、空を飛びながら……誰にともなく呟いたのだわ。

 今までドラゴンだからと、受動的しか動いてこなかったのだわ。

 長く生きてると、色々な事が面倒になるから仕方ないのだわ。

 だけど、初めてリクのために何かをするというのも悪くないかなと思ったのだわ。


「……褒められたいのだわ……」


 どんな事をしたら良いのだわ?

 答えは出ないけどだわ、まだまだ長いリクとの時間……たっぷりと考えるのだわー。

 リク達を乗せて、今までにない程晴れ晴れとした気分で空を飛んだのだわ。



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