第128話 それぞれのエルフ達~フィリーナ編・前編~



 驚いたわ。

 ドラゴンの契約者が特別だという事は伝え聞いていたけれど、ここまでの戦闘が出来るとは考えていなかったの。

 大きくなったエルサ様が、魔物を軽く蹴散らしてるのにも十分驚いたけど、リクの戦いにはさらに驚かされたわ。

 剣の扱いは詳しくないけれど、あんな振り方でオーガが棍棒ごとスパスパ斬られるなんて、普通出来る事じゃないわよね。


「凄さまじいわね……リク一人でも魔物の集団を倒せるんじゃないかしら……?」

「ああ……だが、それでは俺達エルフの面目も保てないだろう。足元にも及ばないかもしれないが、出来るだけ俺達も魔物を倒すぞ」


 リク達が戦っている少し後ろで、魔法を使って援護をしながらアルネと話す。

 アルネは私の兄なんだけど……産まれた時から、何故かアルネに頼りがいを感じなかった。

 だから今でも兄とは呼んでいないんだけど、別に嫌っているわけじゃないの。

 今では兄弟というより、親友みたいな感じになってるわね。

 そんなアルネと話しつつ、モニカの援護のために魔法を放つ。


「カッター!」


 風を圧縮して、不可視の刃を放つ魔法。

 モニカを襲おうとしていたオークの手が魔法で千切れ飛んだ。

 私に出来るのはこれくらい。

 アルネも私と同じくらいの威力の魔法が精一杯ね。

 油断しないように注意しながらリクの方を盗み見ると、あっちの方は簡単そうに放った魔法で魔物を一度に凍らせたりしてる……。

 エルフのプライドみたいなものが砕け散るような気がしたわ。


「ちょっとリク! 危ないわよ!」

「ゴメンナサイ……」


 魔物達との戦いに集中していると、リクのいる方から氷の槍が飛んで来たわ。

 ……もう一歩横に体をずらしていたら当たってたわね……。

 リクの魔法に貫かれた魔物を見て、冷や汗を流しながら怒鳴る。

 簡単に放ったように見える魔法であんな威力だなんて、どういう魔力をしているのかしら……。

 一つの魔法で体を簡単に貫かれた、数体の魔物達みたいにならないように気を付けながら、魔法で魔物達の数を減らして行く。


「アンタたち、よくそんな話をしながら戦えるわね……」


 ユノとリクが魔物と戦いながらも話している姿を見ながら呟いた。

 後ろで援護してる私やアルネと違って、魔物達と接近して剣を振りながらあんな会話が出来るってどういう事なのかしら……。

 しばらく魔法を使う事に集中していると、魔物達の動きが明らかに鈍っているのがわかって来たわ。

 どうやら、後ろから怒涛の勢いで魔物を倒してる私達……主にリクとエルサ様だけど……と、攻め入ろうとしている集落に挟まれて、どちらへ向かえば良いのか迷っているみたいね。

 エヴァルトは、魔物を無理に押し込むのではなく、時間稼ぎに注力しているようね……良い判断だわ。

 エルフにしては珍しく、筋骨隆々とした体躯のエヴァルトだけど、こういう事には頭が回るのよねぇ。

 ……好みじゃないけど……。


「リクは何をするの?」


 私と同じく、魔物達の戸惑いに気付いたリクが、何かをしようとしてエルサ様に声を掛けてるわ。

 一体何が始まると言うのかしら?

 魔法を使うのも忘れてリクの様子を窺っていると、リクから人間とは思えない凄い量の魔力が見えたわ。

 エルフでもあんなにはっきり魔力が見える事なんて無いわよ……一体どこまで規格外なのかしら、契約者って……。


「…………フリージング!」


 リクが魔法を放ってからは私がやる事は無くなったわ。

 まさか魔物達を一斉に凍らせるなんてね……。

 魔物達を一纏めに凍らせてからは簡単だった。

 巨大なエルサ様が火を放って魔物達を駆逐しただけだからね。

 集落に向かう方向だったけど、入り口の手前に結界が張られてるのが見えたわ。

 あの分厚い結界を張って、さらにこれだけの規模の火を放てるのはさすがドラゴンと言ったところだと思うわ。


「まずは、リクさんにサマナースケルトンの事を教えましょう」

「お願いします」


 魔物達の処理を他のエルフ達に任せて、私達は石の家にある会議室に来たわ。

 そこでは、さっき報告された目撃情報を元に魔物達の大量発生となった原因が話し合われてる。

 サマナースケルトンが発見されたから、それが原因じゃないかって事ね。

 途中、リクの頭で寝ていたエルサ様が起きて、サマナースケルトンの事が伝えられた。

 本当にいたのね、サマナースケルトン……。

 話し合いが終わって、朝食。

 昨日までの食事はとんでもない量だったから、今日からは控えめにしたわ。

 ……ドラゴンのエルサ様がいるからって張り切り過ぎちゃ駄目ね……あんなに小さくて可愛いんだから、大量に食べれるわけないじゃない。

 

「フィリーナ、ここから森までに何かあるか?」

「いいえ、ただ草原があるだけで、何もないわよ」


 朝食を食べた後は、サマナースケルトンの捜索。

 何故魔物達が森からでなく、草原の方から来たのかも調べないといけないわ。

 何か理由があるのなら、それを考える事も魔物に対処するうえで重要だからね。

 魔物達が襲撃して来た草原を見て回ったけど、特に何も無かったわ。

 エルサ様が蹴散らしたサマナースケルトンの残骸が見つかっただけね。

 骨が散らばってる様子を見て、こうはなりたくないと思うだけだったわ。


「フィリーナ、アルネ、どうしたんだ?」

「リク……少しおかしいの」

「おかしい……何がおかしいんだ?」


 草原を抜けて、今度は森へ。

 森に入る手前でお昼を食べる事になって、その準備をしていたんだけど、アルネと森の様子を窺ってると、おかしな様子に気付いたわ。

 ウッドイーターという、森を守るエルフにとって天敵とも言えるべき魔物。

 その魔物が大量にいるはずなのに、ここから見る森には何も被害が無い様子なのよね。

 平穏すぎるの。

 一応、他の魔物達がここを通ったような足跡なんかは見付かったんだけど、ウッドイーターが来た様子は全く無かったわ。

 ……どうしてかしら?


「とにかく、森の中に入ったら注意深く探ってみないといけないな」

「そうね。それじゃ、まずは昼食取りましょうか」


 リクとモニカの言葉で、気持ちを切り替えてお昼を取る事になったわ。

 調べる事も重要だけれど、お腹が空いて動けなくなったらいけないしね。

 乙女にとって、お腹が鳴る危機を回避するのは、重要な事なのよ。


「やっぱり、何もないわね」

「そうだな……魔物達がこちらから来たのなら、もっと何かあってもいいと思うが」

「足跡は見つかるんだけどな」


 お昼を食べた後、森の中に足を踏み入れて探索を開始したわ。

 けど、どれだけ見て回ってもウッドイーターの姿は見えないし、魔物達もいないわね。

 奥にまでは行って無いけど、あれだけの魔物がいたら何かしらあっても良さそうだと思うの。

 痕跡だけは見付かってるけど。

 何も見付からずにいると、リクが何かの魔法を使ったわ。

 相変わらず、魔力が見えるのね……探査の魔法と言っていたけど、薄い膜のようになった魔力が森に広がって行くのが見えたわ。


「腕が異様に大きい……多分それはウッドイーターね。その大きい腕で木を無理矢理引き抜くの」


 リクがウッドイーターにある特徴を探り当てたわ。

 探査の魔法……便利ね……使えるようになるとは思えないけど。

 リクが使った探査の魔法を頼りに、森の中を進んだわ。

 ウッドイーターは他の魔物達から離れた場所にいるみたい。

 サマナースケルトンも探査で発見したようだけど、まずはウッドイーターのいる所に行く事になった。

 リクの指示と私達の案内で森の中をしばらく進むと、木々の向こうにその姿が見えたわ。


「あれがウッドイーターだ」


 アルネが指し示してリク達に伝えた。

 でも、この場所って……もう集落は目と鼻の先じゃない!

 ウッドイーターの向こう側に見えるのは、一番集落の端にある長老達の家の一部ね。

 ……まぁ、あの家をウッドイーターが食べるのを見てみたい気持ちもあるけど、エルフとして森の木を食べられるのは気分が悪いわ。

 さっさと討伐してしまいましょう。

 ここからならウッドイーターに近付かずに攻撃出来るしね。


「……ちょっと待ってくれ」


 魔法の準備を始めた私達を、リクが止めた。

 何でなのかしら?

 リクはもう少しウッドイーターを観察していたいみたいだけど、その間にもどんどん木を食べて行ってるのよ!?

 木々が引き抜かれて食べられるなんて、見ていられないわ。

 やっぱりリクも人間だから、木が食べられても何とも思わないのかしら……?

 私がイライラしていると、リクの様子に気付いたアルネが何か言ってるわね。

 どうしたのかしら……え? 魔力……?

 確かに魔物と思われる魔力を持った何者か……オーガかしらね……が、ウッドイーターにいる場所に向かってるのがわかるわ。

 リクはこれを待ってたのかしら?


「これは……どういう事なのかしら……」

「さすがはウッドイーターだな……単純な力ではオーガすら軽々吹き飛ばすか……」


 隠れてオーガとウッドイーターの接触を見ていたら、ウッドイーターを殴りつけたオーガがあっさり殴り飛ばされるのを見てしまったわ。

 何故こんな事になってるのかしら……?

 同じ魔物なのに仲間割れという事?

 ソフィーが推理してくれたわ。

 間違っていなければ、ウッドイーターは他の魔物達とは群れず、本能に従って木を貪っているだけという事ね。

 オーガ達はそれを邪魔したから攻撃された、と。

 成る程ね……それならさっきの光景にも納得できるわ。



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