第125話 それぞれのエルフ達~アルネ編・前編~
「仕方ないな……人間に助けを求めよう」
「それしかないだろうな」
エルフの集落で、会議室に集まっている。
集落に一つだけある大きな石の建物、その中になる会議室で緊急の議題が話し合われていた。
俺が言った事に、エヴァルトが賛成してくれる。
いや、大半のエルフが頷いているな……頷いていないのは長老衆だけだ。
長老衆はエルフ至上主義……長老至上主義と言うべきか?
自分達が頂点で自分達が中心だと考えてる連中だ。
「エヴァルト……アルネ……人間ごときが対処出来るのか……?」
長老のうちの一人が疑問を呈する。
長老衆の中でも一番の人間嫌いな者だな。
言葉からも、人間を見下しているのがよくわかる。
だが、魔法技術はまだまだだが人間には魔物に対処するノウハウが蓄積されているはずだ。
それを無視して人間に対処出来ないと考えるのは早計だろう。
「人間には冒険者という職業に就く者達がいます。魔物達と戦う事に慣れた者達です。その者達ならば……」
「……野蛮な者達だ」
エヴァルトが長老に反論する。
長老衆は、冒険者を見下し、野蛮な者と断定する。
しかし今はその者達の助けが必要な時なのだ。
会議は紛糾したが、最終的にはエヴァルトを始め、若いエルフ達が人間に助けを求める事に賛成して押し切った。
長老衆は最後まで反対していたがな……。
「すまないな、アルネ」
「いや、他に動ける者がいない以上、仕方無いだろう」
会議後、家へと戻る俺にエヴァルトが謝罪する。
理由は、俺が人間の元へ行き助けを求める役目になったからだ。
この集落は今、魔物達の脅威にさらされている……突然森の隅にある洞窟から魔物達が溢れ出して森を食い散らかし始めたのだ。
当初は集落にいる戦える者達だけで対処可能と思われていたのだが、後から湧いて来る魔物達によってその希望は打ち砕かれた。
今では、集落の中に魔物達が入らないよう防ぐのが精一杯だ。
「しかし……お前の妹まで……」
「まぁ、あれは特別な眼を持ってるからな。集落を救える人間を探すには最適だろう」
エルフだけで対処しきれない問題に対し、どうするかを決定したのが先程の会議だ。
長老衆の反対はあったが、人間に助けを求める事でこの集落が救われるのであればそれで良いのだと思う。
助けを求めに行くため、この集落を出るエルフは俺と妹のフィリーナに決まった。
俺は現在集落の防衛に当たっているエルフと違って、遊撃を担当している。
はぐれた魔物を個別に討伐していたのだが、自由に動けるエルフがいない今、俺が人間の所へ行かなければならないだろう。
防衛のエルフを減らすわけには行かないからな。
妹のフィリーナは、魔法の素質もエルフの中で上位になれる程だが、他のエルフと違う特殊な能力を持っていた。
何故かはわからないが、産まれた時からその眼で見た者の潜在的な魔力を見抜ける能力だ。
強い魔力を発揮する時、目で見える事があるが、フィリーナは外に出ていない魔力をも見る事が出来る。
この能力を見込まれて、俺と一緒に集落を出る事になった。
フィリーナがいれば、集落を守れる人間かどうかを見極められるからな。
「アルネ……気を付けろよ……そして、もしもの時はお前達だけでも」
「それ以上言うな、エヴァルト。必ずこの集落を救える人間を連れて帰って来る」
エヴァルトが言いたいのは、俺達が戻ってくるまでにこの集落が持ち応えられない可能性に関してだろう。
それは俺もよくわかっている。
魔物の数が多過ぎて、いつ集落が壊滅してもおかしくない状況なのだ。
減らしても、それ以上の数が湧いて出て来る……集団で襲撃にあえば、1度や2度は退ける事が出来てもいつかは押し切られてしまう。
それまでに戻って来なくては……。
分かれ道で、エヴァルトが俺に対し礼をしているのを見ながら、妹の待つ家への帰路を急いだ。
「アルネ、準備は良い?」
「ああ。むしろお前こそ準備出来てるのか?」
「もちろんよ。集落を守るための旅なんだから、ぬかりはないわ」
妹のフィリーナは意気込みを見せるように頷く。
この妹は、今まで俺の事を兄と呼んだことがない……何故だろうか……。
そんな事より今は大事な事があるな。
「なら、行くか」
「ええ」
「頼んだぞ、アルネ、フィリーナ」
会議をした翌日の朝、集落の入り口、森側では無く草原のある方。
ここから俺達は人間のいる場所を目指して旅立つ。
見送りに来たのはエヴァルト一人だけ……他のエルフ達は魔物に備えてるから手が離せないのだろう。
俺とフィリーナはエヴァルトに頷いて応えながら、北へ向かって歩き出す。
この先は山や川を越えて行かなければならない。
出来れば馬が欲しかったが、魔物達に襲われて全滅したからな……。
「アルネ、急ぐわよ」
「待て、フィリーナ。逸る気持ちはわかるが、長い旅だ。確実に進んで行くぞ」
集落から離れ、走り出そうとするフィリーナを止める。
短く考えても1週間以上はあると思われる旅路だ、今から走って移動していたんじゃ体力が持たない。
確実に進んで、体力にも気を付けないといけない。
「ちょっとアルネ! 何でこんな事になってるのよ!」
「俺に聞くな! それより、この状況をどうするかだ!」
北へ向かって数日。
俺達は必死に走っていた。
走らず確実に移動? 今はそんな事を言っていられる状況じゃない。
「なんだってこんな場所にオーガがいるのよ! しかも3体も!」
「1体ならなんとかなるんだがな……」
俺達は旅の途中、オーガに遭遇していた。
もしかすると、湧き出て来たオーガがはぐれてここまで来てしまったのかもしれない。
俺達なら魔法でオーガの1体程度は難なく倒せる。
先制が出来るのであれば、2体でも何とか対処出来るだろう。
しかし、今回は3体……しかも先に向こうに俺達が発見されてしまった。
この状況じゃ、悠長に魔法を使えない……つまり逃げるしか出来ない。
「とにかく、あの木々に逃げ込むわよ。木に阻まれてオーガの足が遅くなるかも!」
「ああ!」
「ああもう、何でこんな事になるんだか……誰か助けてー!」
「今はそんな事を考えても仕方ないだろう。それにこの辺りに誰かがいるとは思えん。とにかく走るぞ!」
叫ぶフィリーナと一緒に木々に向かって走る。
遠目に見える木々までの距離はまだまだあるだろうが、何とか体力が持つだろう。
その後どうするかは決めていないが、オーガ達の足が鈍ってくれれば魔法の1回でも放てるだろう。
そうなれば、足を狙ってさらに動きを鈍らせることが出来るはずだ。
「あー! もうオーガが近くに!」
「くっ! もうすぐだ、全力で走れフィリーナ!」
すぐ後ろまで迫って来るオーガ。
巨体だから動きが鈍いと思ったら大間違いだ。
巨体だから走るための一歩が長い。
少しづつ距離を詰めて来るオーガの脅威を感じつつ、何とか木々の隙間に入り込む。
……少しだけオーガが鈍ったか?
やはり木々を避けるのは慣れていないようだ、オーガの足が少しだけ衰えた。
だが、距離を詰められた分、魔法を放つ程の余裕が無い……。
「どうするの、アルネ!」
「少しは自分で考えろ! くそ! とにかく走れ、捕まったらひとたまりもないぞ!」
俺達エルフは魔法を得意とするが、近接戦闘は得意じゃない。
もしものために剣を持ってはいるが、ろくに使えない。
オーガに捕まったら、その巨体と怪力で軽々と捻り潰されるだろう……。
「だ、誰か! 助けてくれ!」
「そんなに叫んでも、こんなところに人なんていないわよ! でも、誰か助けてー!」
オーガに捻り潰される事を想像して、思わず叫んでしまった。
フィリーナの事を言えないな、俺も。
横で俺と同じように叫ぶフィリーナと共に走り続けた。
「もう大丈夫ですよー。そのままこっちに逃げて来て下さい!」
「誰かいるのか、助かった!」
「助かったとは限らないわよ! でも、誰かいてくれて良かった!」
俺達が走って逃げてる方向から、随分と暢気な声が聞こえた。
だが、誰かがいるのならもしかすると助かるかもしれない……何とかオーガを退ける事が出来れば良いんだが……。
声のする方へ走ると、木々の隙間から1組の男女の姿が見えた……人間か?
「そのまま私達の横を抜けて走れ! その先にテントを設営してる仲間がいる!」
「わ、わかった。でも気を付けてくれ、オーガが追いかけて来てるんだ!」
「わかったわ。でも、私も戦うわ! 数は多い方が助かる可能性も上がるでしょ!?」
その人間は俺達を確認すると、このまま逃げるように指示して来た。
……人間には悪いが、俺達には生きて集落に帰らなければいけない。
フィリーナが戦うと言っているが、ここはこのままオーガを人間に任せて逃げさせてもらう!
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