第124話 エルフの集落との別れ



 広場に向かいながらフィリーナさん達との会話。


「リクがいなくなるのは寂しくなるわね。長老達じゃないけど、このまま集落にいて欲しいくらいだわ」

「ははは、まぁ本来俺達はヘルサルの街で暮らしてるからね。ここにいるのも楽しいけど、そろそろ帰らないと皆を心配させそうだ」

「父さん達なら多分魔物にとかそういう心配はしてないと思うわよ。リクさんの強さは知ってるからね。……まぁ食べ物とかの心配はしてるかもしれないけど」

「しかし、長老達もあれから一切接触してこなかったな」

「リクとの件でさらに発言力が薄まっただろうな。あれから森にある住宅から出て来ないらしい」


 長老達は引きこもってしまったみたいだね。

 変なちょっかいを掛けて来るよりはいいのかもしれない。

 フィリーナやアルネは俺達が帰るのを惜しく思ってるみたいだけど、俺達もそろそろ帰らないといけないからね。

 マックスさん達にも報告したいし、王都に行って勲章授与式とやらも控えてる。

 王都まで行く準備もしないといけない。

 広場でエヴァルトさんやヤンさん達一行と合流し、集落の入口へと移動する。


「リクさん、本当にありがとうございました。貴方達のおかげでこの集落は大した被害も無く救われました」

「エヴァルトさん達も頑張った、その結果ですよ」


 入口への道すがら、エヴァルトさんから何度もお礼を言われた。

 俺だけがやった事じゃないからちょっとだけ面映ゆい。

 話ながら集落入り口に着くと、俺達が通れるくらいの間を開け、集落で出会ったエルフ達がずらりと並んでいた。

 もしかして、総出で見送りなのかな?


「「「「「リク様、エルサ様、モニカ様、ソフィー様、ユノ様! 集落を救って頂きありがとうございました。この御恩、我々エルフは忘れません!」」」」」


 俺達が入り口に着いた瞬間、一斉に頭を下げながら叫ぶエルフ達。

 それだけ感謝してる事なのだろうけど、ここまでしてくれるとは思って無かった。

 ヤンさんと一緒に来た冒険者さん達や兵士さん達も驚いてる。

 俺達は苦笑いを浮かべながら、並んでるエルフ達に挨拶をしながら集落の外に出た。

 

「この辺りで良いか。エルサ、大きくなってくれ」

「わかったのだわ」


 俺の頭にくっ付いていたエルサが地面に降り、光を放ちながら大きくなる。

 ヤンさんはまだしも、兵士さんや冒険者さん達は見慣れていないせいか、大きくなったエルサを見て口を開けたまま固まってる。


「それじゃ、フィリーナ、アルネ、エヴァルトさん。お世話になりました」

「料理美味しかったの!」

「ありがとう、また来るわ」

「色々と学ぶ事が多かった、またな」


 俺達が口々に挨拶を済ませ、エルサに乗り込む。

 俺達の他にヤンさん達も乗ってる。

 どうせ帰る場所は同じ街だし、エルサは10人程度増えたところで問題無いそうなので、皆一緒だ。


「リク、勲章授与式には集落を代表してきっと駆けつけるわ!」

「リクの晴れ舞台を見なければな!」

「リクさん、集落からもリクさんの活躍を国に伝えます!」


 フィリーナさん……俺の勲章授与の事知ってたんだ……もしかしたらヤンさん辺りから聞いたのかもしれない。

 もし、王都でアルネやフィリーナとまた会う事が出来たら楽しいだろうなと考えながら、エルサに乗って俺達はヘルサルの街へと飛び立った。

 ……エヴァルトさん、これ以上変に国から表彰されるのも事が大きくなり過ぎだから、何も言わなくて良いんだけどな……なんて考えたけど、それを言ったところでエヴァルトさんは止めないだろうからなぁ。

 というかフィリーナ、ここから王都ってかなり距離があるけど、授与式に間に合うんだろうか?

 飛び立ったエルサに乗り、段々と小さくなって見えなくなる集落を遠目に見ながら、色々な事を考えていた。

 エルフの集落、楽しかったな。

 色んな街や村に行って色んな人達と出会うというのも楽しいかもしれないな。


「リクさん、この移動手段は便利ですね」


 ヤンさんがエルサの背中に乗りながら、すごい速さで流れて行く景色を見ながら声を掛けて来た。

 ヤンさんが連れて来た人達は全員、空を飛ぶ事に戦々恐々としていてエルサにしがみついて景色を楽しむ余裕は無いようだね。

 初めての事だから仕方ないけど、エルサの結界のおかげで風圧とかはほとんど無いからもっと楽にしてても良いんだけどなぁ。


「そうですね。山や川を越えるのも楽ですし、直線で移動できるのは便利ですよ」

「遠くの場所にこれだけ速い移動出来れば色々な事が変わりますね……」

「まぁ、確かにそうですけど……エルサ以外に空を飛んで移動出来る方法ってあるんですか?」

「ありませんね……移動と言えば徒歩か馬でしょうね」


 この世界に飛行機なんて物は無い。

 空を飛んで移動をするのはエルサ以外にいない事は無いと思うけど、それに人間が乗ると考えると……魔物を従えるくらいしかないかもね。

 ……人間を乗せて飛べる大きさの魔物がいるかどうかまで知らないけど……。

 エルサを見慣れているヤンさんは空を飛ぶ事を楽しみ、俺達も優雅に空の旅を満喫した。

 冒険者さんや兵士さん達は落とされないように必死にしがみついて楽しむどころじゃ無かったようだけど……。

 そんなに必死にしがみつかなくてもエルサは振り落としたりしないと思うけど、慣れて無いのだから仕方ないかな。


「エルサ、そろそろ降りよう。野営出来る場所を探してくれるか?」

「木陰がある場所が良いのだわ? わかったのだわ」


 途中、一度昼食のために地上に降りて食事をした後、再びエルサに乗って移動。

 日も暮れて来て薄暗くなって来た辺りでエルサに野営場所を探してもらう。

 エルサに見つけてもらった木が数十本ある場所へと降りてもらい、野営の準備を始める。

 さすがはベテラン冒険者なのか、ヤンさんが連れて来た人達はエルサから降りて数分で平常を取り戻して動き始めた。

 今回は人数も多いし、野営に慣れてるだろうヤンさんや冒険者さん達がいるから、テント設営等の準備はすぐに終わる。

 それぞれのグループに別れてたき火を囲み、夕食を取って今日は休む事にする。

 食材はエルフの集落で大量にもらって来た。

 ……ヘルサルへ着くまでに食べ切れそうにない量だけど……。

 一応の見張りを交代でしながら、テントで休んだ翌朝、朝食を取った後にまたエルサに乗ってヘルサルに向かって飛び立つ。

 見張りはほとんどがヤンさんを含めた冒険者さんと兵士さん達がやってくれた。

 俺達は連日の魔物討伐で疲れてるだろうからという事らしいけど、集落ではちゃんとした場所で休んでたからそんなに疲れとか無いんだどなぁと思いつつ、甘える事にした。

 ヘルサルに向かって数時間……冒険者さんや兵士さん達が、エルサに乗って空を飛ぶ事に慣れた頃にヘルサルの街南へ到着した。


「エルサ、そろそろ降りよう。ここからは徒歩ですねヤンさん」

「そうですね。エルサさんの事を街の人達は知っていますが、大きくなったままでは驚かせてしまうでしょう」

「わかったのだわー」

「何か、久々な気がするわね」

「そうだな……考えれば20日以上も離れてたのか」


 エルサが地上に向かって高度を下げる途中で、モニカさんとソフィーさんがヘルサルの街を見ながら懐かしそうにしてる。

 確かにヘルサルを出てから結構な日数だったから、懐かしく感じるね。

 マックスさん達、元気かなぁ?

 地上に降りたエルサから俺達が降りると、すぐに小さくなって俺の頭にドッキング。

 いつもの位置に落ち着いたエルサのモフモフを撫でながら、皆でヘルサルに向かって歩いて行った。



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