第115話 詮索しない事



 俺達はそれぞれ、エルサが魔物を殲滅した理由や方法を話しつつ、集落に帰る事にした。

 まだ夜だからね、早く帰って朝まで出来るだけ寝たい。

 エルサは俺の頭へいつものようにコネクトし、そこで寝息を立て始める。

 今回一番頑張ったのはエルサだから、皆その様子を暖かい目で見ていた。

 アルネだけは、あれ程の事をしてすぐ寝られるのか……と何故か戦慄していたけど。

 それと、俺と同じ速度で走って来たからなのか、夜も遅いからなのか、ユノも歩きながらふらふらとして眠そうだったので、モニカさんが背負って帰る事になった。

 モニカさんの背中で気持ち良さそうにすやすやと寝始めるユノ。

 フィリーナ達と合流した時くらいから静かだったのは、眠かったからだったのかもな。

 途中の森で魔物に遭遇して戦闘になると面倒だから、帰りながら探査の魔法でまだ森にいる魔物を避けながら移動する。

 おかげで魔物と遭遇する事も無く集落へ到着した。

 サマナースケルトンはほとんど洞窟の中や襲撃して来た魔物達に紛れて倒したはずだから、魔物討伐は休んでからでいいからね。

 帰って来る途中の森でもサマナースケルトンと思われる反応はほとんど無かったから。


「あ、エヴァルト!」

「おう、フィリーナ、アルネ。それにリクさん達も、無事でしたか」

「はい。そっちは大丈夫でしたか?」

「何人かが軽い怪我をして、燃えた家もありますが、被害は大きくありませんでした。まぁ、家はすぐに建て直せますし、怪我もすぐに治るでしょう」

「そうですか……」


 集落に到着して広場まで来たところで、数人のエルフ達に指示を出していたエヴァルトさんを見つけたフィリーナが声を掛けた。

 俺達全員の無事を伝えつつ、被害状況を聞く。

 あまり大きな被害は無かったようで何よりだね、俺達も頑張った甲斐がある。

 あ、それとさっきのエルフはどうなったんだろう。


「エヴァルトさん、さっき俺達の近くで戦ってたエルフなんですが……。怪我はどうだったんですか?」

「あぁ、あの弟を庇って怪我をしたエルフですな。あいつは、ゴーストからの魔法を庇って受ける直前、手と魔法で顔を防御してたみたいでしてな。手に軽い火傷を負ったくらいで済んだみたいです」

「そうですか……それなら良かったです」

「まぁ、あの時は戦闘中でしたし、本人は顔に受けた衝撃で一時意識が混濁してましたからな。リクさん達から見たら重傷を負ったように見えたのかもしれませんな」


 確かに魔物と戦ってたから、はっきりと見たわけじゃない。

 それに、結界を張った後はエルフ達が手当をするために囲んでたから、俺からは怪我がどうなってるかは見えなかった。

 何にしても、大きな怪我じゃなくてホッとした。

 俺の近くで誰かが苦しむ姿とか、あんまり見たいものじゃないからね。

 それからエヴァルトさんにエルサが洞窟でした事を伝えている時、モニカさんが素朴な疑問という感じで聞いて来た。


「それにしてもリクさん、どうしてあの時あんなに魔力があふれ出したの?」

「あぁ、急だったからな。ヘルサルの街以来だが、さすがに驚いた」

「私はこの世の終わりかと思ったわ、魔物達に魔法を撃ってたら、急に前方で見た事無いくらい大きな魔力が噴き出してたんだもの」

「あれは……見た時は背筋に冷たいものが流れて止まらなかったな」


 モニカさんの疑問に、皆が追随するように言って来る。

 エヴァルトさんも、言葉には出さないがコクコクと頷いて驚いた事を伝えようとしてる。

 ……でもなぁ、俺にも何であの時あんなに頭がぐるぐるして魔力が噴き出たかわからないんだよなぁ。

 一応、冷静な部分はあったから、エルサに聞いて結界をイメージ、そこに噴き出した魔力をつぎ込んだけど、元々やろうと考えてた事じゃないしそのために魔力を噴き出させたりしない。

 そう言えば、あまりに急だったからエルサも攻撃かと思ったって焦ってたっけ。

 皆にどう説明したものかねぇ……。


「……自分でもはっきりとわからないんだけど」


 俺は今回魔力が噴き出した時の事を皆に話す。

 はっきりと自分でもわかってない事だから、伝わりにくかったと思うけど、皆最後まで聞いてくれた。


「ふむ……つまりリクさんはエルフが攻撃されたのを見てそうなったのですね……」


 成り行き上、広場に集まった状況で説明してるから、エヴァルトさんも一緒に聞いてる。


「でも、攻撃なら他のエルフ達もされてたじゃない?」

「集落の家にも火の球が当たってたりもしたしね」

「むぅ……エルフがとか、誰かが攻撃されたから、が条件ではないのか?」

「いや、リクはヘルサルの時にも同じ事になっている。だからエルフは関係無さそうだ」


 俺そっちのけでフィリーナ、モニカさん、アルネ、ソフィーさんがエヴァルトさんを交えて話してるけど……あれ、これって俺の話だよね?


「ヘルサルでというのはゴブリン達の襲撃の事よね? その時と今回で同じ状況だった事はある?」

「んー……誰かが怪我をした事、かな。あの時は父さんがゴブリンの放った矢が刺さってしまったし、今回は……」

「エルフが火の球に当たった……だな」

「誰かが怪我をした事が原因か……しかし、怪我人なら他にもいるしな……」

「んーわからんな……」

「ん? ユノちゃんどうしたの?」


 皆で顔を突き合わせて相談してたら、モニカさんの背中で寝ていたユノが起きて、背中から降りた。

 声で起きちゃったのかな?

 そう思いながら起きたユノを見ていると、俺以外の……相談してたモニカさん達を睨みつける。


「……リクの事なの。皆が考えなくても良い事なの……。これ以上詮索しないで欲しいの」

「……リクの事はリクと私に任せるのだわ。もういいから今日は寝るのだわ」


 ユノが皆に対して行った事に追随するように、俺の頭にくっ付いていたエルサまで皆に言い放つ。

 少し不機嫌そうに言われたその言葉に、その場にいた皆は言葉を無くして黙り込む。

 いつも元気で可愛い女の子といった雰囲気のユノが皆を睨むように言った事や、暢気なはずのエルサが不機嫌になっているのが衝撃だった。

 ……もしかして、ユノやエルサは何か知ってるのかな……?

 俺のこの魔力は元々持っている物だという事らしいけど、ユノは一応とはいえ神様だし、エルサに至っては契約して記憶や魔力が流れ込んでる。

 何か知っていてもおかしくないが……この雰囲気じゃ聞ける感じじゃないな。


「ごめんなさい……変な詮索をして」

「エルサ様が不機嫌……申し訳ございませんでした!」

「済まなかった。何か事情があるのだな。この事はリクとユノ、エルサに任せる事にしよう」

「そうね、契約者の事だからね……私達じゃわからない事もあるものね」

「まぁ、リクが危険な事をするとは思えんからな。大丈夫だろう」


 皆が口々に反省をしたりして、ユノやエルサが言うように原因を考える事を止める。

 それでいいんだろうかとは思うけど、ユノやエルサの雰囲気からそんな事は言いにくいし、俺自身よくわかってない事だから、ここで答えは出そうにない。

 まぁ、そのうちわかるだろう。

 気にはなるけど、何となくここはユノ達がいう事に従っておいた方がいい気がする。

 俺もよくわからないけど、あんまり考えない方が良い気がするんだ。

 根拠は無いけどね。


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