第114話 安眠妨害の原因を取り除く



「……エルサ……何をしてるんだ……お前……?」


 俺は穴に頭を突っ込んでるエルサに問いかける。

 ちょっと間抜けな恰好になってるぞ。

 ……というか、この状況で俺の声って聞こえるのかな?

 ユノはエルサに近付いて穴から出ている部分をツンツンしてる……ちょっと楽しそうだ。


「ん? ……リクも来たのだわ? ……もうちょっとだけ待つのだわー」


 どうやらこの状態でも俺の声は聞こえたらしい。

 しかし、この状態で待つって言われてもなぁ……。

 ともあれ周りに魔物の気配も無いので、しばらくユノがエルサをつついてるのを見ながら待つ事にした。

 というか、さっきから穴の方から色々すごい音がしてるんだけど……多分エルサがやってるんだよな……。


「終わったのだわー。これで夜もゆっくり寝られるのだわ」


 数分後、エルサが頭を穴から引っこ抜きながら満足気な声を出す。


「夜ゆっくり寝られるって……何をしてたんだ?」

「簡単な事なのだわ。これ以上安眠を妨害されないようにここにいた魔物達を全部吹き飛ばしたのだわ」


 ……なんだって……。

 エルサの言葉に俺は慌てて穴の中を覗き込む。

 まだ夜で日の光が無いから、穴の入り口くらいしか見えない。

 当然、奥まで見えるはずも無い。


「……暗くて何も見えないな」

「こうすればいいのだわ」


 エルサは体を小さくして俺の前、穴の横に浮かんだままで手をかざす。

 穴に向かってかざされた手から、ぼんやりと白くて丸いものが現れ、それは段々と強く発光して行く。

 おぉ、これなら明るくてはっきり見えるぞ、こんあ便利な魔法もあるんだな。

 俺が感心してると、エルサが無造作にその丸い球を穴に投げ込む。

 その珠は地面に落ちてコロコロ転がった後、数秒して消えた。


「もう少し長く発光しないのか?」

「簡単に中を見るためだけなのだわ。長く光らせる事も出来るけど面倒なのだわ」


 ……面倒なのか……魔物を倒す事よりも簡単そうに見えるんだけどな。

 とにかく、エルサが作り出した光の球で一瞬だけだけど、見えた穴の奥をもう一度見る。

 光が無いから、もう何も見えないけど、さっきの一瞬ではっきりと魔物が地面に倒れてるのが見えたのは確かだ。

 どうやらエルサは本当にこの穴の中にいた魔物を倒してたらしいね。


「しかしエルサ、何だってまた急にここに?」


 俺はここまで来た事が無いからわからないが、もしかしたらここが魔物達が溢れて来たと言われてる洞窟なのかもしれない


「リク達が話してたのだわ。魔物達が洞窟から来るって言ってたのだわ。だからここを探して魔物を倒せばもう夜襲われる事も無くなるのだわ」

「確かにそうかもしれないけどな……」

「エルサ偉いの!」


 エルサを連れて俺達は色々と魔物の対策を練ってたりしたから、当然エルサもエルフの集落や魔物達の状況を知ってるだろう。

 だからと言って、中がどんな状況かもわからない洞窟の魔物をこんなに簡単に殲滅するなんてな……。

 エルサが光の球を作って一瞬だけ中が見えた時、魔物の残骸っぽいものが見えたから、探査の魔法を簡単に使ってみたけど、中にはもう魔物らしい反応は無い……というか生き物らしい反応が一切無い。

 複雑な構造になってるのはわかるけど、生き物の反応が無い洞窟って言うのはちょっと不気味だな……魔物に限らず、虫とか獣とかいても良さそうなのに……。

 まぁ、全部エルサがやった事なんだけどな。

 ユノはそんなエルサを朗らかに笑って褒めてる。

 ……確かにこれで魔物達が出て来る場所は潰した事になる。

 俺達はここ数日、森の中を中心にサマナースケルトンを討伐してたけど、この中にはもっと多くの魔物達がいたのかもしれない。

 その魔物達を倒す手間が省けたと考えればいいのかな……。

 結界の外に押し寄せてた魔物を倒す事はお願いしたけど、エルサがここまでやってくれるとは……キュー以外でエルサが能動的に動いたのってもしかして初めてかもしれない。

 理由が寝るのを邪魔されたくないからと言うのが……いかにも暢気なドラゴンらしいのかもしれないけどね。


「まぁ……いいか。エルサ、偉かったぞ」

「……褒めるのならキューを用意するのだわ」


 俺が顔の前に浮かんでるエルサの頭のモフモフを撫でて褒めたら、キューを要求して来た。

 ……これは多分、照れてるんだな。

 人に褒められて無さそうだからなぁ。

 そんなエルサを微笑ましく見ながらも撫で続ける。

 エルサを褒める意図もあるけど、やっぱりこの極上のモフモフからは手を離し難い!

 照れ臭くなったのか、エルサは俺に撫でられながら地面に降りて、顔を明後日の方向に向けている。

 ユノもそんな俺達を見て、一緒にエルサの体を撫で始めた。

 こんな夜中に森の奥、洞窟の近くでする事じゃないと思うけど、和やかな雰囲気を楽しんだ。

 しばらくすると、俺達が来た方向の森から走って来る複数の足音が聞こえて来た。

 んー、多分モニカさん達かな?


「リクさん! 良かった、見つかったわ」

「途中でエルサが見えなくなったからな、とりあえず最後に見えてた場所まで来たが、ここにいて良かった」


 そう言えば、皆を置いて俺とユノだけ先行して来たんだった。

 皆は荒い息を整えながらも、俺達と合流出来て安心したようだ。

 モニカさんやソフィーさんと一緒に走って来たせいで、息が乱れてろくに声を出せなかったフィリーナとアルネが、ようやく息を整え終わって声を掛けて来た。


「それで、エルサ様はどうしてこんなとこに来たの?」

「ここは……魔物達が溢れて来た洞窟か。ここにいると危ないぞ」

「大丈夫。もう全部エルサが倒したから」

「「「「え!?」」」」


 フィリーナの質問には答えず、アルネの警戒を促す言葉に対して、エルサがやった事を皆に伝えた。

 皆は洞窟の中から魔物がいつ出て来ても良いように構えかけてたけど、俺の言葉に驚いて動きを止めた。


「えっと……リク、本当なの? エルサ様が魔物を全部倒したって」 

「ああ。探査で中を調べてみたけど、もう何もいないみたいだ」

「……中は複雑な構造になっているのだが……どうやってこの短時間で……」


 フィリーナが戸惑いながら聞いて来るのに答えてると、アルネが中を覗き込みながらエルサがどうやって魔物達を倒したのか考えている。

 まぁ、普通なら中に入って進みながら魔物を倒すしか考えられないからね、アルネが考え込むのも仕方ない。

 しかしモニカさんとソフィーさん、驚いて動きを止めたまでフィリーナ達と一緒だったけど、何ですぐに呆れた顔になって溜め息を吐いてるのかな?


「リクさんもリクさんなら、エルサちゃんもエルサちゃんね……」

「ああ……ドラゴンだからリクよりは納得いくがな」


 酷い言われようだ……まぁ、ドラゴンであの大きな姿のエルサを見たら、洞窟の魔物を全部倒す事くらい簡単にしても驚く事は無いのかもしれない……慣れてないのか、フィリーナとアルネは驚いたままだけどね。


「本当にエルサ様はどうやって……」

「簡単なのだわ。入り口からブレスを中に使っただけなのだわ」


 考え込むアルネに対して、簡単な事のように言うエルサ。

 ブレス……多分俺が来た時、洞窟の中ですごい音がしてたのはそれなんだろう。

 風の魔法だと思うブレスは、結界の外で魔物達を軽々吹き飛ばすのを皆見てる。

 それが洞窟の中に吹き込まれたのなら、魔物達も簡単に殲滅出来るのかもしれない……いや、実際に殲滅出来てるのか。

 しかも風という事は、空気だから外から中に吹き込まれて、勢いを失わずに複雑な洞窟の中で隅々に行き渡らせる事が出来たんだろう……多分。

 洞窟の中にいた魔物達は急に頭を突っ込んで来たドラゴンが使ったブレスで瞬く間に吹き飛ばされて切り刻まれたという事かな……ちょっとだけ同情するね。


「そんな事が出来るのね……」

「しかし、それが出来るのはエルサ様だけだろう。リクも出来るかもしれないが……私達には参考にならない方法だな」

「エルサちゃんが張り切っちゃったのね」

「珍しいな、エルサが自分からそんな事をするなんて」

「夜に襲撃して来たら睡眠が邪魔されるから、それに怒ったらしいね」

「……ドラゴンを怒らせた魔物か……殲滅されて当然なのかもしれないな……」



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