第116話 夜襲後の集落
「ごめんなさい、でもいずれわかると思うから……今はそっとしておいた方が良いの」
「……まぁ、近いうちにわかると思うのだわ。その時まで待つのだわ」
「わかったわ」
ユノが皆に謝りながら言った言葉と、エルサの言葉にモニカさんを始め皆が頷く。
エヴァルトさんに至っては、不機嫌なエルサを見てちょっと腰が引けてるな……。
さすがに攻撃はしないから、大丈夫だと思いますよ?
「……とりあえず、戻って寝よう。朝までそんなに時間は無いけど、少しでも寝ておいた方が良いからね」
「そうね」
「ああ」
雰囲気を軽くするように明るく言って、皆で石の家に帰る。
エヴァルトさんだけは、まだ終わってない後始末があるため広場に残った。
石の家までにエルサは俺の頭で寝ていたし、ユノは今度はソフィーさんの背中によじ登って寝始めた。
さっきの雰囲気はもうない。
俺もそうだけど、皆もユノ達の言うようにいつかわかると信じて、さっきの話を繰り返す事は無かった。
いつかわかると言うんだから、その時を待とう。
エルサが言うには近いうちらしいからね。
いつもの複雑な道を歩きつつ、さっきまでの雰囲気を忘れるように雑談をしながら石の家まで戻る。
その後は皆眠気が勝ったのか、すぐにそれぞれの部屋に戻ってすぐに就寝した。
エルサを頭に、ユノをソフィーさんから俺の背中に移して部屋まで連れて行き、いつもと同じようにエルサを挟む形にしてベッドに入る。
俺達だけしかいない今ならさっきの事を聞くチャンスかとも思ったけど、止めておいた。
まだ教えてくれそうにないからね。
おとなしく俺もユノ達と同じように寝る事にする。
夜明けまでそんなに長い時間は寝れないだろうけど、少しでも寝ておきたい。
「……ごめんね、リク」
「……ユノ、今はまだ……なのだわ」
意識が薄れてほとんど夢を見ているような感覚で、遠くからユノの謝る声が聞こえた気がした……。
―――――――――――――――――――
数時間後、朝日が窓から差し込んでくる光に目が覚めた。
……窓にガラスが無いのは良いとしても、カーテンくらいはあった方が良いんじゃないだろうか……。
でもまぁ、カーテンで陽射しを遮ったらいつまでも寝てしまいそうだから、これでも良いのかな?
そんな事を考えつつ、快晴の陽射しに当たりながらもまだ寝ているユノとエルサを起こして朝の支度。
その後、居間に行ってエルフ達が用意してくれた朝食を皆でとる。
大事なお客様だからとエルフ達がこぞってお世話をしてくれるのはありがたいけど、これに慣れると自立出来なくなってしまいそうだ。
まだ眠そうなソフィーさんとフィリーナを連れて、皆で集落の広場へ向かう。
魔物の襲撃から集落を守ったけど、その後の後始末の状況を知るためだ。
エヴァルトさんには昨日のうちに洞窟の事は伝えているけど、夜だったからまだ調べられてないだろう。
そっちをどうするかも決めないとね。
「おぉ、リクさん。おはようございます」
「おはようございます、エヴァルトさん。襲撃の後始末はどうですか?」
「つい先程終わりました。集落のエルフのほとんどを動かしましたからね。何とか終わらせる事が出来ました」
後始末と言っても、ほとんどがエルサがバラバラにした魔物達の処理だろう。
多分、穴を掘って埋めたり、集落から離れた場所に集めて焼いたりという感じだと思う。
以前より魔物の数が少なかったうえ、ゴーストも多かったから魔物の死体も少なかったんじゃないかな。
ゴーストは倒したら跡形も無く消えるから処理の必要が無いからね。
夜を徹して後処理をしたエヴァルトさん達エルフはほんとにお疲れ様だ。
俺達も寝ずに手伝えば良かったかな……そうエヴァルトさんに言ったら、一番戦った俺達にさせるわけには行かないと言われ、そんなもんかなと納得しておいた。
「エヴァルト、エルサ様が洞窟の魔物を倒した事だけど」
「あぁその事なら今、調べるためのエルフを選別させてる。元気な者を数名調べに行かせる」
「そう、それなら任せるわ」
エヴァルトさんは、他のエルフ達に洞窟の状況を調べに行かせるようだ。
まぁ、森の途中で魔物と遭遇しなければ、洞窟内の魔物達は殲滅されてるはずだから、安全だろうね。
森の中の魔物達も襲撃に集まって数はかなり少なくなってるはずだから、森をよく知るエルフ達なら危険は無さそうだ。
まだウッドイーターがそれなりの数がいるけど、あれは近づかなければ危険は無いから。
それからしばらく、集落を回っていて気付いたら夕方になってた。
エヴァルトさんや他のエルフ達曰く、ここしばらく森の魔物を減らすように行動してた事や、俺達のおかげで集落は救われたのだから、せめて今はゆっくりして欲しいとの事だった。
とは言え、暇を持て余すのもなんか嫌だ。
何かやる事は無いかと考えていたら、今回の襲撃で怪我をしたエルフを見かけた。
襲撃で怪我をしたエルフは軽傷程度だったけど、それなりの数がいたので、それを軽い治癒魔法で治して回る事にした。
こんな事くらいでと恐縮するエルフもいたけど、暇だからの一言で納得させた。
ゴーストの火の球に当たったエルフ、俺達が駆けつける前にオーガやオークの攻撃が当たって打撲を負ったエルフ、火事を消化しようとして近づきすぎて火傷したエルフと、怪我の内容は様々だ。
そんなエルフ達の怪我を治してるうちに、気が付けば夕方。
昼を食べるのも忘れてた。
ちなみに他のメンバーは、モニカさんがエルフ達の料理に興味を持ち、レシピなんかを聞きに行ってる、さすが飲食店の娘だね。
ソフィーさんは、元気が有り余ってるエルフと鍛錬と称して剣を交えてる……というより、エルフ達に近接戦闘を教えてる感じになってるね、魔法しか使えないよりは戦えるようになりそうだ。
フィリーナは集落の方の後片付けの手伝い、もう焼けた家の修繕や立て直しが始まってるからそれだろう。
アルネは洞窟を調べるエルフ達に混ざって森に入って行った。
……何だかんだ、皆のんびりする事も無く色々やってるようだね。
俺について回っていたユノはエルフ達に可愛がられてお菓子を貰って喜んでたし、頭ではエルサが寝たりキューをかじったりしていた。
のんびりしてたのはユノとエルサくらいか。
ほとんどの人は落ち着いてのんびり出来ない性分なのかもしれない……人の事は言えないけどな。
これが冒険者の性なのかもしれない……なんて自分でもわかるくらい見当違いな事を考えながら、石の家に戻った。
そろそろ夕食とキューを要求するエルサがうるさいからね。
石の家に帰るための複雑な道をまだ覚えて無かったため、広場にいたエルフの一人に案内してもらった。
ついでに、他のエルフにキューをお願いして石の家に帰り着く。
多分、まだ皆は帰ってないだろうから、夕食までまだ時間がかかりそうだからね、キューをおやつとしてエルサにあげておかないといけない。
昨日は活躍したから、今日は要求通りキューを用意してやろう。
「やっぱりキューはおいしいのだわー」
「……マヨネーズか味噌が欲しいの……」
「ユノ、それはこの世界にあるのか?」
「調味料の事はわからないの。でもリクのいた所で食べたマヨネーズと味噌はおいしかったの!」
ユノが地球にいる時食べた物の中にマヨネーズと味噌があったらしい。
キューにはマヨネーズか味噌が美味しいよね。
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