第113話 エルサ追跡



「おーい、エルサ。もう良いから戻って来い」

「もうちょっと頑張るのだわー。キューのためなのだわ」

「エルサちゃん?」

「何をするんだ?」


 俺の声に暢気な声を返しながら空に浮かび上がるエルサ。

 モニカさんもソフィーさんもエルサが何をするのかわからず戸惑ってる。

 しかし、いつもはエルサに乗せてもらうばかりだったけど、空を飛ぶ姿を下から見ると迫力あるんだなぁ。

 さっきは結界の維持で良く見て無かったから、改めて見てちょっとだけ感動。

 俺達が、エルサを見て何をするのかわからないでいると、ある程度浮かび上がったエルサは、森へ体を向け、翼をその場で2,3回羽ばたかせる。


「ちょ、エルサ!?」

「きゃあ!」

「っ!」

「うぉ!」

「むぅ!」


 大きくなったエルサの羽ばたきは力強く、大量の砂ぼこりを巻き上げて俺達を怯ませた。

 皆、砂ぼこりや風から身を守り吹き飛ばされないような姿勢を取る。

 その間に、エルサは森に向かって飛び去った。

 あいつ……俺が結界を切ったのに気付いてないな……。


「リクさん、エルサちゃんは何をしようとしてるの!?」

「わからない……とにかく、後を追おう!」

「そうね」

「わかった」


 モニカさんの疑問に返事をしながら、俺達はエルサが向かった森の方へ向かうため、走……ろうとしたところで、エヴァルトさんがこちらに駆けつけて来た。


「リクさん! エルサ様が凄い勢いで森に向かいましたが、何事ですか!?」


 エヴァルトさんからもエルサが飛び去ったのが見えたのだろう……まぁ、あの大きさだから集落の人は大体見てるよね。


「わかりません。とりあえず俺達はエルサの後を追おうと思います」

「わかりました。こちらはお任せ下さい。魔物達の片づけや消火の後始末をしておきます」

「お願いします!」

「頼んだわよ、エヴァルト!」


 後の事は全部エヴァルトさんに全部丸投げし、俺達は改めて森に向かったエルサの後追った。


「はぁ……はぁ……はぁ……リクさん、早いわ」

「んー……ごめん、とりあえず俺だけ先に行くよ!」

「はぁ……はぁ……そうね。その方が良いかもしれないわ」

「……はぁ……俺達の速度に合わせるより、リクが先に行った方が良いだろう」

「……私達は後から追いつく。先に行ってくれリク。エルサを見失うことは無いから道案内も必要無いしな」


 息切れしながらもなんとか俺について来ていた皆を引き離して、森へ向かう速度を上げる。

 離れててもエルサが森の上を浮かんでるのが見えるから、見失う事は無いだろう。

 俺が道案内できるかどうかはさておいて、これなら皆と離れても後で合流出来るだろう。

 集落を抜けて森の中に入り、木々の合間を走る。

 生い茂る木々の隙間から見えるエルサを目指して走ってる時に、俺とは別の足音がもう一つ聞こえているのに気付いた。


「ん? ……ユノか……そんなに早く走れるんだな」

「走るのは得意なの! ユノもリクについて行くの!」


 息切れもせずに俺について来るユノ。

 なんだろうね……見た目が小さい女の子だから、馬車よりも早く走ってる俺と同じ速度を出してるのに違和感しか感じない。

 まぁ、俺も馬車より早く走る時点でおかしい気もするけど、気にしない。

 こんな速度で走ろうとしたら、他の皆が追い付けないのも当たり前だよね。


「ユノ、エルサは何をしようとしてるんだ?」


 契約者の俺にもわからない事は神様であるユノに聞け、だ。


「ユノもわかんないの。けど、何かを探してるみたいなの」

「何かを探す……? ……確かに、エルサの動きはそう見えるな」


 ユノにもわからないらしいが、その言葉を聞いてエルサをよく見てみると、森の上空をウロウロしながら、何かを探してるようにしか見えない動きをしてる。

 一体エルサは何をしてるんだ……?

 そのままユノと一緒にエルサを目指して走り続ける。

 森の中を駆け抜けて、そろそろ森の真ん中を少し南に過ぎたくらいの時、エルサがピタリと動きを止めた。


「エルサが止まった……? どうしたんだ?」

「ブレスの用意をしてるみたいなの」


 ブレス……ちょっと待て、森に向かって撃つのか!?

 エルサは空中に浮かびながら、顔を下に向け大きく口を開けていた。

 魔物達を吹き飛ばしたあのブレスが森に向かって放たれたら、木々もそうだけど森に入ってる俺達も吹き飛ぶんじゃないのか!?

 エルサはまだ結界が解かれてる事に気付いてないのか?


「エ、エルサ! ちょっと待て!」


 エルサとの距離が離れすぎていて、声なんて届かないけど俺は叫ばずにはいられなかった。

 俺はまだしも、ユノもここにいる。

 それにモニカさん達も俺達を追って森に入ってるはずだ。

 今エルサがブレスを放ったら、森から集落付近までが危険地帯になるぞ!

 俺の叫びも虚しく、エルサは一度顔を大きく上げ、勢いを付けて下に振り下ろした。


「っ!」 

「リク!?」


 俺はエルサが放ったブレスに備えるため、走ってる足を止めてユノを抱え込む。

 ユノはいきなりの俺の行動に戸惑っていたが、暴れたりせずおとなしく俺に抱えられてくれる。

 そのまま数秒、衝撃に備えて体を固くして目を閉じていたけど、何も感じない。

 何も感じないというか……夜の森の静けさがあるだけだ。


「……あれ? エルサのブレスは?」


 エルサが思い切りブレスを放とうとしてるようにしか見えなかったんだけど、撃たなかったのかな?


「リク、大丈夫なの。エルサも皆に危険があるような事はしないの」

「……そうなのか?」


 ユノの言葉に、固くしていた体を解し、抱えていたユノを離す。

 何も衝撃が来ない事を不思議に思いつつ、木々の隙間からエルサを見る。


「……あいつ……何してるんだ?」

「わからないの。行ってみる?」

「そうだな……」


 木々の隙間から見えたエルサは、体を浮かせながら森の木に頭を突っ込んでいた。

 俺の場所からは、体を逆さにして地面に突き刺さってるようにしか見えないんだけど……。

 ブレスが来なかった事に安心しつつ、ユノと一緒にまた走り出してエルサの所へ向かう。

 エルサが同じ体勢のまま動かないから、さっきまでより少し速度を落としながら走る。

 何をやってるのかはわからないけど、皆に危険がある事じゃ無ければそこまで急ぐことも無いからね。

 森の中を全速力で走るのは疲れるというのも……多分あるかもしれない……少しだけ息が乱れて来たからね。

 ……ユノは平気そうで元気に走ってるけど。

 木を避けながら、ユノを連れてエルサのいる所……森の南端くらいの場所へ向かって走る事数十分。

 結構時間がかかったけど、森が広いので仕方がない……。

 その間、ずっとエルサは体を逆さにして地面に頭から突き刺さってる体勢のまま微動だにせず……いや、翼が少し動いてるな、ちゃんと生きてるようだ。

 ドラゴンであるエルサが死ぬとか想像が出来ないが、それでも逆さになったまま動かないと少し心配になって来る。

 翼が動いてモフモフがモフモフしてるようで触り心地が良さそうだ。

 木々の隙間から大分エルサの全身が見えるようになって来た。

 ……これは、地面に突き刺さってるわけじゃないのか……?

 見えて来たエルサの体は、地面に付いておらず、少しだけ浮かんでいた。


「しかし……あれはほんとに何をしてるんだろうな……?」

「面白い恰好なの」


 エルサは森の南で、体を逆さにしたまま浮いて、下に向けた頭を洞穴のような場所に突っ込んでいた。

 何だろう……穴にはまって抜けなくなったのか……?

 いやでも、穴の大きさはエルサの頭より大きく見えるから、抜けないという事は無さそうだ。

 森を走り抜けてようやくたどり着いた場所にいるエルサに呆れながら声を掛けた。



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