第112話 魔物掃討はエルサにお任せ



「それなら出られるかもしれないのだわ。けど、私だけ出てどうするのだわ?」


 エルサに頼みつつ、ドーム状になってる結界の一番高い部分、頂点を薄くするようイメージしながら魔力を操作する。

 あの位置ならゴースト達もそうそう魔法を撃てないだろうし、数メートルくらいしか浮かべないようだから直接侵入もしてこないと思う。

 ……最初に間違えて辺りを凍らせた時に比べたら、俺も大分魔力の扱いに慣れて来たね。

 なんて事を実感しながら、結界の一部を薄くし始める。


「エルサがする事は決まってるだろ? 魔物達を倒すんだ」

「……面倒なのだわ……でも、リクが言うなら仕方ないのだわ。終わったら、大量のキューを要求するのだわ!」

「はいはい」

「エルサ様、キューなら私達がたっぷり用意してあげるわよ」

「ああ。魔物を倒す報酬と考えたら、それくらい簡単な事だ」

「絶対なのだわ!」


 面倒そうにしながらも、エルサは地面に降りる。

 フィリーナとアルネがキューを用意してくれると聞いたエルサは、勢い込んで叫びながら、体を光らせ大きくなる。

 今なら消火活動でエルフ達が離れてて十分にエルサが大きくなるスペースもある。

 エルサが大きくなった頃には、結界の頂点部分は十分に薄くすることが出来た。

 今なら多分、さっきフィリーナ達がやったノックでも簡単に通過できそうなくらいだと思う。


「リクさん、中にいた魔物達は倒したわよ。それにしても、エルサちゃんは大きくなって何をするの?」

「この結界は凄いな。間違えて剣で切りつけたが、簡単に弾き返された」


 魔物達を倒し終わったモニカさんとソフィーさんも、エルサが大きくなったのを見て近づいて来た

 ソフィーさん……結界を剣で切りつけたんだ……魔物に剣を避けられたりしたのかな……。


「エルサには外の魔物を倒してもらおうと思ってね。それじゃエルサ、お願い。結界の一番高い場所がかなり薄くなってるから、そこから出られるはずだ」

「わかったのだわ」


 俺の指示でエルサは浮かび上がり、翼をはためかせてゆっくり結界が薄くなった部分に近付く。

 多分、エルサなら魔力を感じて薄くなった部分がわかるだろうけど、それでもゆっくり近づいているのはもしかして、勢いを付けて行くと弾き返されるかもと警戒してるからかな?

 大丈夫なんだけどなぁ。

 ゆっくりとエルサが結界から外に出る。

 外に出た途端、凄い速さで俺達のいる集落の入り口まで移動した。

 エルサが移動する速さから、結構な風圧や音がするかもと思ったけど、エルサが地面に降り立った音が微かにしただけだ。

 結界が遮ってくれたんだと思う……音は空気を震わせてるから微かに届いた、だけどそよ風すら無い……もしかしてこれ、空気も遮断してる? 。

 ……そこまで考えずに結界を使ったけど、空気が遮断されてると中と外で空気が循環しないのかも。

 つまり、酸素が無くなる可能性がある。

 結界の内側に森の木達も結構入ってるけど、それで集落の皆の酸素を賄えるとは思えない。

 幸い、火の手はほとんど消化されているけど、それでも多少燃えたおかげで酸素は消費されてる。

 範囲が広いから、まだまだ余裕はあるだろうけど……。

 ふむ……。

 一瞬だけ、結界の一部に穴を開けて、そこで空気の入れ替えをしようかと考えたけど、それは無理だ。

 今回の結界はシャボン玉のような物だと、魔法を使った俺が理解してる、

 多分、薄くなったところを異物が通過する程度なら、通過した後に魔力を継ぎ足して維持できるけど、穴を開けてしまったらシャボン玉が割れるように結界が消えてしまいそうだ。

 まぁ、もしもの時は結界をやめて空気を入れ替えるしかないか。

 空気が入れ替わったらまたすぐ結界を張ればいいしね。

 結界を維持する片手間にそんな事を考えてると、入り口に降り立ったエルサが口を大きく開けた。

 ブレスというか、魔法の準備が整ったようだね。

 あ、出来れば火はやめて欲しかったけど、言うのを忘れてた……集落の方は結界が遮ってくれると思うけど、結界の外にある植物達は燃えてしまいそうだ……。


「うじゃうじゃと面倒なのだわー」


 エルサの声が結界越しに微かに聞こえる。

 エルサは声と共に、口からブレスを出し、集まっていた魔物達を吹き飛ばした。

 良かった、エルサは風の魔法を使ったようだ。

 それでも相当な風だから、木が倒れるくらいはあるかもしれないけど、火で燃えるよりはマシだと思う。

 エルサの放つ風にさらされた魔物達は、重量がありそうなオーガやオークさえも空中に吹き飛ばされ、その中で風の刃に切り刻まれて行く。

 以前魔物達が襲撃して来た時にエルサが放ったブレスよりも広範囲に魔法の風は吹き荒れ、集落からかなり離れた場所から空中に魔物が飛ばされるのが微かに見えた。

 ……魔物達とは言え、大量の生き物が空中でバラバラになっているのはちょっとエグイ光景だね……。

 結界で遮断されてる俺達には、そよ風ほども届いてないから逆に外の光景が異様に見えた。


「エルサちゃん、すごいわね……」

「これがドラゴンか……」

「エルサ様の強さが見られるなんて……」

「生きててよかったな……」


 モニカさんとソフィーさんは単純にエルサの強さに驚き、フィリーナとアルネは感動している。

 フィリーナ達だけじゃなく、エルサを見たエルフ達が跪いて拝みそうなくらい感動してるんだけど……。

 消火作業を終えて俺達の近くに来ていたエルフ達の様子を見ながら、魔物達を吹き飛ばしてるエルサに視線を戻す。


「中々壮観なのだわー」


 何度か口からブレスを出して、周辺の魔物達を片っ端から吹き飛ばしてるエルサ。

 ブレスが魔法だからか、ゴーストも散り散りになって霧散して行く。

 楽しそうだなぁ。

 二度目になるけど、寝てる時に起こされて魔物退治だもんな……ストレスが溜まってたのかもしれない。


「あんなに苦労した魔物達が簡単に飛んで行くわねー」

「俺達の力がちっぽけな事がよくわかるな」

「リクさんといると飽きないわ」

「うむ。慢心する事の馬鹿々々しさを教えてくれるな」

「ドラゴンだからね、普通の人の感覚とは違う強さだよね」

「「「「いや、リク(さん)が一番普通の人と違う(わよ)」」」」


 フィリーナが呆れたように、アルネは何故か感心するように呟く。

 それに対して、モニカさんは飛ばされる魔物を楽しそうに、ソフィーさんは噛み締めるように言ってる。

 ……ソフィーさんは元々慢心しそうにない性格だと思うけど。

 というか、皆で突っ込まなくても良くないんじゃないかな?

 俺ってそんなに普通とかけ離れてるのか……ちょっと自分に対して真剣に考えないといけないかもしれない……。


「もっとやるのだわー。もう眠りを邪魔させないのだわー」

「ん? おいエルサ?」


 しばらく後、エルサの楽しそうな声が結界に小さく届く。

 結界に遮られながらも届く声って、エルサはどれだけ大声を出してるんだろう……そう思いながらもちょっと嫌な予感……。

 エルサのブレスのおかげで集落の周りには魔物がバラバラになった跡だけが散らばっており、無事な魔物は1体も見当たらない。

 結界があるから、こちらの事を気にせず全力でブレスを使ったんだなぁと感心しながら結界を解く。

 消火はされたけど、火事が起きてた事もあり、少し熱くなっていた内部の空気が外の空気と混ざって温度が下がる。

 少し汗ばむくらいの温度だったから、気持ち良いくらいだ。

 っと、そんな事よりエルサだ。

 そろそろ小さくなって落ち着いても良さそうだと思った俺はエルサに声を掛けた。

 結界も解いたから、こちらからの声も届くだろうからね。



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