第101話 ウッドイーターを発見



「やっぱり、何もないわね」

「そうだな……魔物達がこちらから来たのなら、もっと何かあってもいいと思うが」

「足跡は見つかるんだけどな」


 地面にはそこかしこに足跡がある。

 俺達はその足跡を辿るように森の中を進んでる。

 森の中は鬱蒼と生い茂る木々で日が遮られていて、結構暗い。

 何も見えない程じゃないから、移動や足跡を見るのには困らないけどね。

 センテの街近くにある森よりがこんなに暗い所だったら、一人で入ったりしなかっただろうなぁ。

 あの時はまだ魔法も剣も使えなかったしね。


「リクさん、あの魔法は使わないの?」

「あの魔法……?」

「例の探査する魔法よ。魔物がいるならそれでわかるんじゃないかしら?」

「あぁ、そういえば」

「そんなものがあるのか?」

「探査ね……どれくらいわかる物なのかしら」

「そうだな……とりあえず、フィリーナやアルネがオーガに襲われていた事を発見したぞ」

「あの時ね……確かあの時私達がリクと会った場所と野営してる場所はそれなりに距離があったわよね……」

「うむ」

「あの距離以上を探査出来るって事よね……やっぱりリクはすごいわ」


 そうかな? すごいとか自分ではよくわかってないけど。

 今もモニカさんに言われるまで探査の魔法の事を忘れてたくらいだからね。

 フィリーナはソフィーさんとから話を聞いて、俺に感心するような目を向けてる。

 ユノが言うには、魔力は元々俺が持っていたものらしいけど、魔法はエルサと契約したからだからね、まだ自分のものという感じがしないんだよなぁ……。

 まぁいいや、とにかく今は探査を試してみよう。


「それじゃあ使ってみるよ」

「お願いね」


 モニカさんの言葉に頷きながら、探査の魔法を発動。

 ……そういえば、この魔法の名前とか考えてなかったな……まぁ、失敗する事も無くちゃんと発動してるからいらないかもしれないけど……今度、落ち着いたら考えてみるのも良いかもしれないな。

 それはそうと、探査の状況だ……んー……これは……成る程。


「今朝戦ったのと同じ、オーガやオークと思う魔物が向こうに複数……結構数がいる。それで、そこから離れた場所、少し集落に近い所かな。そこに初めて感じる魔力を持った魔物がいる……えっと、形は腕が異様に大きい魔物……かな」

「腕が異様に大きい……多分それはウッドイーターね。その大きい腕で木を無理矢理引き抜くの」


 これがウッドイーターか……確かに言われてみれば、さっきから木と思われる物に大きい腕を動かしてるのがわかる。

 多分、今木を引っこ抜いたんだろうね。


「それ以外にはわかる?」

「ええと……オーガ達の居るところに骨っぽいのがいるね……多分これがサマナースケルトンだと思う」


 フィリーナの問いに答えるように探査でわかった情報を伝える。


「数は」


 今度はアルネか……えっと。


「数は10……いや、もうちょっといるかな」

「10以上か……それだけでも脅威だな」

「そうね、1体あたり1体のオーガを呼び寄せたとしたら、1日でどれくらい増えるのか……」


 呼び寄せるのに時間がどれくらいかかるのかわからないけど、1時間に1体だと単純計算で24体召喚出来る。

 まぁ、これはずっと召喚を続けてればという計算だけどね。

 スケルトンに休憩とかが必要なのかはわからないけど、さすがに延々と召喚し続ける事は出来ないだろうと思う。


「ウッドイーターと他の魔物達は離れてるの?」

「ああ。ウッドイーター達は色んな場所に散らばってるけど、オーガやオーク、サマナースケルトンと一緒にいるのはいないね」

「……気になるわね……なんでウッドイーターと一緒にいないのかしら」

「ウッドイーターが木を食べるからじゃないの? 他の魔物は集落を襲うためで、ウッドイーターは木を食べさせるって分担してるとか?」

「魔物達がそんな事を考えるのか……?」


 モニカさんの分担というのはわからないでもないけど、俺もアルネさんの疑問に賛成だ。

 今朝の魔物達を見ていると、とりあえず近くに来た俺達人間やエヴァルトさん達のようなエルフを見かけたら襲い掛かってるだけのように見えた。

 サマナースケルトンの方はわからないけど、他の魔物達がそんな分担作業を考えるような事が出来るとは思えなかった。


「もし分担させてるのだとしても、ウッドイーターだけと言うのはおかしいわ。集落の者が最初に発見した時、ウッドイーターを排除していたらオーガ達が襲い掛かって来たと言っていたの。でも今は一緒にはいない……何故かしら」

「そうだな。ウッドイーターだけならエルフだけで簡単に対処出来る。それが出来ないのは他の魔物達がいたからだ」


 エヴァルトさんの説明でも、ここに来る前に考えていた事でもそういう事だったはずだ。

 ウッドイーター以外の魔物が邪魔をするから排除出来ないと。

 まぁ、ここ数日は大量の魔物が押し寄せて来てウッドイータどころじゃなかったというのもあるんだろうけどね。


「とにかく、ウッドイーターの居る場所に行って見ましょう。何かわかるかもしれないわ」

「そうだな。リク、案内してくれるか?」

「わかった。とは言え、この森は不慣れだから方向だけ示して、実際の案内はフィリーナとアルネに任せた方が良さそうだけどね」


 この森には初めて入ったから、当然どこに何があるかなんてわからない。

 道があるわけじゃないから、下手をすると道に迷いかねない。

 まぁ、探査の魔法があれば集落の場所だとかはわかるから、帰れなくなる事は無いだろうけど。


「そうね、私達はこの森で育ったようなものだからね。案内は任せて。それで、どっちにウッドイーターがいるの」

「あっちだ」


 俺は北東の方角を示す。

 西から森に入ったから、ほんとに集落側という事になる。

 これなら、集落から森に入った方が余計な時間を取られずに済んだのかもしれないな。

 とは言え、魔物達の足跡で、迂回して西から来たとはっきりわかったわけだから、無駄ではなかったと思いたい。

 しばらく、皆で森の中を無言で進む。

 近くにオーガがうろついていたりするのを見かける事はあったけど、今はウッドイーターの事を調べるのが先決だからね。

 魔物に見付からないよう、静かに歩いて移動した。


「あれがウッドイーターだ」


 先を歩いていたアルネの言葉で、一旦動きを止める。

 アルネの指し示す方を見ると、腕だけが異様に大きい人が数人、大木を根っこからかじっているところだった。

 いや……あれは人じゃないな、魔物だ。

 足が木の根みたいにいくつもに分かれていて、それで異様に大きい腕を持っていてもバランスを保っていられているようだ。


「集落に近いな……」

「こんな所の木まで食べられてるなんて……」


 フィリーナは、その場所にウッドイーターがいた事に驚きを隠せない。

 そこは集落から近い場所……木々の合間を縫って遠くを見て見れば、エルフが集落の家として使っているツリーハウスのような木を見る事が出来た。

 このまま木々を食べて行けば、程なく集落に辿り着くだろうな。

 ウッドイーターは数体いるけど、その周りの地面はいずれも何かを無理矢理引っこ抜いたようにえぐれており、その周囲だけが木々に囲まれていない。


「どうする……放っておけばあのウッドイーター達は集落にまで行くぞ」

「放っておけないわここで倒しておかないと……行くわよ!」

「……ちょっと待ってくれ」


 アルネの言う通り、ウッドイーターを放っておけば集落のツリーハウスまで食べてしまう事はわかる。

 今なら見える範囲にオーガ等の他の魔物達がいないため、先制攻撃を仕掛けようとするフィリーナを俺は止めた。


「どうしたのリク、何で止めるの? 今ならあいつらもこちらに気付いてないし他の魔物もいない。ウッドイーターを倒すチャンスなのよ?」

「俺達の目的はウッドイーターを倒す事じゃない。今日は、何故魔物達が西から迂回して襲撃して来たかを調べる事だ」

「でも、このままだと集落が……」

「そうだぞリク。さすがに集落の木が食べられるのを黙って見ているわけには……」


 フィリーナとアルネが俺に反対するけど、もう少しだけ待って欲しい。


「もう少しだけ待ってくれ。別に集落がウッドイーターに食べられるのを見ていたいわけじゃないんだ」

「だったらどうして?」


 もう少し……俺の探査が正しければ……もう少しだけ待てば何か見る事が出来るかもしれないんだ……。



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