第102話 魔物が迂回した理由



 何とかフィリーナとアルネを押し止め、その時間を待つ。

 エルサやモニカさん、ソフィーさんとユノは俺がまだ探査の魔法で何かを探ってるのがわかるからか、何も言わない。

 フィリーナとアルネもよく俺を見れば魔力が広がってるから、探査を続けてる事はわかるんだろうけど、目の前で森の木が食べられ、そのまま集落に向かおうとしてるのを見たら冷静じゃいられないのかもしれない。


「あと少し……」

「……一体どうしたってのよ、リク」

「まったくだ……これ以上エルフとして森の木が食べられるのを見るのは……いや待て、これは」

「アルネまでどうしたの?」


 どうやらアルネの方は何かわかったみたいだ。

 俺はまだ続けている探査の魔法で、先程からウッドイーターに近付いている魔物をマークしていた。

 遠くから探査をした時、ウッドイータだけ他の魔物達と違う場所にいる事に皆、違和感を感じていた。

 何かがあるんだろうけど、それが何かわからない。

 それなら今、魔物がウッドイーターに近付いてるのをこのまま見ていれば、何かわかる事があるかもしれない。


「リク……そういう事か」

「一体何だって言うの……?」

「フィリーナ、ウッドイーター以外の魔力を感じないか?」

「え? さっきリクはウッドイーターの近くに魔物はいないって……いえ、でも……これは確かに……」


 フィリーナは以前言っていたけど、他のエルフより魔力探知に優れているとの事だ。

 アルネは何となく感じ取ったくらいなんだろうけど、冷静になればフィリーナははっきりとわかるはずだ。


「オーガが2体、ウッドイーターの所に向かってるわね」

「そう。もしかしたら、他の魔物がウッドイーターに近付く事で何かわかるかもしれないだろ?」

「だからリクがウッドイーターを倒しに向かうのを止めたのね」


 フィリーナもようやく理解したようだ。

 俺が何か探っていてるのはわかっても、何をしようとしてるのかわからなかった皆も、納得したように頷いた。


「もう結構近付いてるな……隠れよう」

「そうね……ここなら見付からないと思うわ」


 フィリーナが示した場所は木と草が絡み合っていて、ウッドイーター達の居る場所からは見えづらい場所だ。

 さすがエルフ、森の中だと頼りになるね。

 俺達はそこに身を潜めて、オーガが来るのを待つ。

 ほどなく、俺達が来た方向とは逆からオーガが2体ウッドイーター目掛けて走って来た。


「さて、どんな事になるのかな……?」

「オーガ2体……魔物達の連絡役とかかしら?」

「しかし……オーガにそんな知性があるとは思えんが……」


 オーガは好戦的な魔物だ。

 人間を始め、エルフ達も目に入れば他の事など目に入らないとばかりに襲って来る。

 オーガについて考えていると、走ってきたオーガ達はその勢いのまま手に持った巨大な棍棒でウッドイーターを殴りつけた。


「……仲間割れか……?」

「そうなんじゃないかしら」


 棍棒で殴りつけられたウッドイーターは、オーガの力で吹き飛ぶのかと思われた、けどその根のようになっている足で踏ん張りってその場に留まる。

 顔の一部がへこんで緑色の血が流れてるのが見えたけど、そんな事は気にせず、食事の邪魔をされたウッドイーターは怒りの形相で、その大きな腕をオーガに振るった。

 先に棍棒を叩きつけたのはオーガだけど、単純な力はウッドイーターの方が強いらしい。

 オーガは軽々と吹っ飛び、後ろの気に叩きつけられて動かなくなった。

 もう1匹いたオーガはその光景を見て、かなわないと思ったのか身をひるがえして森の奥へと走って逃げて行った。

 ウッドイーターは、オーガが去った事で何事も無かったかのように血を流したまま食事を再開した。


「これは……どういう事なのかしら……」

「さすがはウッドイーターだな……単純な力ではオーガすら軽々吹き飛ばすか……」


 フィリーナは目の前で行われた光景の意味を考え、アルネはウッドイーターの膂力の強さに驚いている。

 まぁ、今食べてる大木を地面から引っこ抜く力があるんだから、あれくらいやってもおかしい事じゃないのかもしれないね。


「もしかしたら、だが……」

「どうしたの、ソフィー?」


 目の前の光景を見て考えていたソフィーさんが何かを思いついたようだ。


「ウッドイーターは木を食べる事だけで、他の魔物達のように言う事を聞かないんじゃないか?」

「他の魔物達とは違うって事?」

「ああ。確か、サマナースケルトンは召喚した魔物に一回だけ命令が出来るんだったな?」

「そうね、そう伝わっているわ」

「それで、ウッドイーターを召喚したサマナースケルトンは、森の木を食べろと命令した。もちろんウッドイーターは森の木を食べる事しか頭に無いような魔物だから、喜んで命令を受ける」


 サマナースケルトンに命令れたウッドイーターはその命令のまま、集落に向かって木を食べ進めてるるって事か。

 だとしたら、何でオーガがウッドイータを攻撃したのか、それと、何故他の魔物達は同じ場所にはいないのか……。

 とりあえず今はソフィーさんの考えを聞いてみようと思う。


「そしてウッドイーターは命令のまま気を食べ続けるわけだが、ここで誤算があったんだと思う」

「誤算? 一体何なの?」

「ウッドイーターはさっきもオーガが攻撃して来た時のように、木を食べる事を邪魔すると怒るんだ。同じ魔物だとか関係なくな」

「確かに、魔法攻撃をした時もそうだが、食べる事を邪魔すると、その相手目掛けて突っ込んで来るな」


 アルネさんの言う通り、俺がマックスさんに聞いた話でも、ウッドイーターは邪魔をした相手を決して許さない魔物らしい。

 その代わり、森等の自然を破壊するという部分を無視して、関わらないようにすれば、もし近くを通ても襲ってきたりはしないそうだ。


「でも、それが今朝の魔物達が西から来た事と関係あるの?」


 フィリーナの疑問はもっともだ。

 けど、さっきのオーガがやった行動を考えれば何となくわかって来た。


「襲撃して来た魔物達はオーガやオークがいただろう? あいつらは見た目通り、あまり知性が高くないんだ。もし、オーガやオークが集落に向かう途中でウッドイーターにちょっかいを出したら……」

「……さっきのように吹き飛ばされるわね……」

「他にコボルトやウルフもいたが、あちらは適う事が無さそうなウッドイーターには手を出さないだろうな。しかし、数種類の魔物が混成で集落に侵攻するんだ、途中でそういう事があってもおかしくない」

「……成る程……そういう事だったのね」

「そうか……だからあいつらは西から来たのか……」


 つまり、サマナースケルトンを始め、魔物達はエルフの集落を襲う際、途中でウッドイーターの居る場所を通る事を回避した、というわけか。

 それなら東からでもとは思うけど、俺がさっき探査した時魔物達が固まってたのは西側に多かった。

 多分、サマナースケルトンが出て来た洞窟が西よりだから何だろうと思う。

 真っ直ぐ集落に向かえないから、西に迂回して集落を目指す……そういう仕組みになっていたんだ。


「サマナースケルトンもそこまで考えて無かったのかな?」

「魔物に詳しい者の話だと、サマナースケルトンはとにかく魔物を呼び寄せる事と、人種を襲う事しか考えていないらしいわ。ウッドイーターが邪魔になるなんて考えなかったんじゃないかしら」


 何とも間抜けな話だね。

 森から魔物達が来ていれば、木々が邪魔になってエルフ達が応戦するにも魔法が通りにくい。

 魔物達はただ真っ直ぐ進んで行けば良いだけだから、草原という見晴らしのいい場所から襲撃するよりも楽だったはずだ。

 でも実際、襲おうと思っていた集落は自分達が呼び寄せた別の魔物がいるために通れなくなってしまったと。

 うっかりな魔物だなぁ。

 人間だってうっかり間違う事もある……魔物も同じようにうっかりする事もあるのかもしれないな。



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