第86話 美形マッチョエルフのエヴァルトさん
「失礼しました。私はこの集落の中で戦闘する者達を纏めてる者です。エヴァルトと申します」
「丁寧にどうも。俺はリクです」
「モニカです」
「ソフィーです」
「ユノなの!」
「それと、こっちがエルサです」
「エルサなのだわ」
エヴァルトさんと、広場にいるエルフ達に聞こえるように皆で自己紹介。
エルサは俺が手を頭に乗せて、促してやっと自己紹介した。
今度、ちゃんと教えておこうと思う。
「これがドラゴン……長く生きて来ましたが、実物を見られるとは……」
「初めて見たんですか?」
「ええ。かれこれ500年と少し、これまでドラゴンを実際に見る機会はありませんでした。一目見てみたいとは思っていましたが、こうして見られる日が来ようとは……」
500年……エルフが長寿なのは地球にあった物語でも良くある話だったけど、本当にそうなんだなぁ。
エヴァルトさんは、ドラゴンを見れた事に感激してるのか、目に涙を滲ませながらエルサを見てる。
泣く程ドラゴンがみたかったんだ……。
「おっと、失礼しました。ジロジロと見ては失礼ですな」
「いえ、構いませんよ」
「それでリクさん、アルネとフィリーナから聞きましたが……この集落を襲っている魔物を倒しに来たとか……」
「はい、そうです」
俺が答えたと同時、広場から歓声が上がった。
皆口々に、集落が救われたとか、ドラゴンとその契約者様が救って下さったとか……もう魔物を撃退したような気になってる。
……まだ魔物の影も見て無いんだけど……。
「集落を代表して感謝致します。リクさん達がいればこの集落はもう救われたも同然ですな」
エヴァルトさんまでもう助かった気でいるよ……。
だからまだ魔物すら見て無いんだって……。
「えっと、まだ俺は何もしてませんからね。集落が助かるかどうかはこれからですから」
「ははは、リクさんがいれば先の心配は必要ないでしょうな」
むぅ……これはしばらくほっといた方が良さそうだ。
何を言ってももう集落が救われたものとして考えられてる。
広場にいるエルフ達は歓声を上げ、踊り出すエルフまで出てる……。
……とりあえず、今は落ち着くまでエルフの集落を観察しておこう。
エルフの集落は、ユノが言っていたように、半分くらいが森の木々の中にあった。
森の外には今俺達がいる広場を始め、木で作られた民家が建ち並んでる。
森の方を見てみると、木が密集してるせいか、そちらには建物は無い。
しかし、よく見てみると、木の幹に階段のような物が作られていたり、はしごが掛けられていたりしてる。
どうしてかなとそのはしごや階段の先を見てみると、木の幹に穴が開いており、その穴に扉が付けられてた。
多分、ツリーハウス的な物なのかもしれないな。
広場から見える集落を一通り観察した後、ふと踊ったり歓声を上げたりしているエルフ達を見た。
……エルフって結構陽気なんだな……。
数十人……いや、騒ぎを聞いてか、民家や他の場所から集まって来つつあるエルフはざっと見ただけで100人を越えそうになってるけど、そのエルフ達の何人か……結構な数のエルフが何かしらの怪我をしてるのが見て取れた。
腕に包帯を巻いてたり、足に包帯を巻いてる人や、お腹のあたりに包帯を巻いてたりもした。
骨を折ったのか、腕を包帯で吊っていたり、足に木を当て添え木にして松葉杖代わりの棒を持っている人もいる。
ひどい人になると、顔の半分が包帯に覆われてる人もいた。
……今は陽気に騒いでるけど、ここが魔物に襲われてるってのは本当なんだな……。
日本にいた時に見た戦争映画や、戦史を見せる映像や写真にあった、戦時中の病院程の凄惨さはないけど、それを思い出させるような光景だった。
俺がユノに教えられても、何も考えずにここに来なかったらこの人達……エルフ達は危なかったんだな……そう思うと、陽気に騒いでるエルフ達を守ろうと言う気力が湧いて来るようだった。
しかし怪我をしてる……か……ふむ。
「……さすがにそろそろうるさいのだわ……」
「そうね。怪我をしてる人も見かけるけど、エルフって元気なのね」
「そうか? 冒険者達が酒場で騒いでる時の方がうるさいぞ? それに、リクがヘルサルを救った時の騒ぎも同じようなものだったと思うが」
「皆元気なの! ユノも元気なの!」
エルフ達は時間を追うごとにどんどん広場へと集まって来ていて、その騒ぎは大きくなっていく一方だ。
これ、放っておかずに止めないといけないのかな……。
というかソフィーさん、俺が寝てる間にヘルサルではそんな騒ぎがあったの?
ユノはとりあえずもう少しおとなしくしてような―。
……ユノ、何だか精神年齢が見た目相応になって来てない?
初めて会った時も小さい女の子のような喋り方ではあったけど、それよりもさらに低いように感じる。
人間に近い存在になったからとか、かな?
まぁ、わからない事は置いておいて、とりあえずこの騒ぎをどうにあかしないといけないようだ。
「……フィリーナ」
「ん? 何、リク?」
「この騒ぎ、どうにかならないかな? まだ俺はここに来たばかりだし、魔物を見てすらいないのにこんなに騒がれるのは……」
「……そうねぇ。確かに騒ぎ過ぎね。リク達がいれば集落は守られる事が決定してるとは言え、これはちょっと行き過ぎね。……まぁ、皆この集落が危ういと思って半分以上絶望してたからってのもあるでしょうけど……。私が助けを求めに集落を出た時よりかなり怪我人が多くなってるし……」
「怪我人……増えてるのか?」
「ええ。多分……私とアルネがここを出てから、また魔物の襲撃があったんでしょうね……。っととりあえず、この騒ぎを終わらせて来るわ」
「うん、お願いするよ」
……怪我人が増えてるのか……。
もしかしたら、もう少し遅かった場合怪我人が多い事もあって、魔物達に押し込まれてたかもしれないな……。
間に合って良かった。
色々終わったら、今回飛んで移動してくれたエルサにたっぷりキューをあげて労おうと思う
俺と話し終わったフィリーナは、エヴァルトさんに寄って行って、広場の騒ぎに負けないような声で叫びながら、エヴァルトさんの頭を思いっきりはたいた。
……そんな事していいの? というかフィリーナの声に魔力を感じたけど、これって魔法?
「皆! いい加減にしなさい! 今はまだ魔物がいつ襲って来るかわからない状況よ! 騒ぎ過ぎるのは程々にしなさい! リク達も困ってるわ! 特にエヴァルト! あんたは兵長でしょうが! 率先して騒ぐんじゃなくて皆を引き締めなさい!」
フィリーナの大声が広場に響き渡ると、先程まで騒いでいたエルフ達の動きがピタリと止まった。
エヴァルトさんだけは、はたかれた頭をさすってるけどね。
動きを止めたエルフの中にアルネがいた。
……アルネ……一緒に騒いでたのか……。
フィリーナはアルネの所につかつかと近付いて、そっちの方もエヴァルトさんと同じく頭を思いっきりはたいた。
はたかれたアルネはフィリーナに文句を言いたそうに一度見たけど、俺の方に顔を向けてすまなそうに頭を下げた。
エヴァルトさんの方は、フィリーナにはたかれた痛みが引いて来たのか、俺に向き直って謝った。
「リクさん、申し訳ありません。少し騒ぎ過ぎました」
「いえ……落ち着いてくれたならそれで」
「うるさかったのだわ。リクの頭にいるのに全然落ち着けなかったのだわ」
「こら……エルサ」
「言われて当然の騒がしさですから良いのですよ。しかし……」
エヴァルトさんはエルサの言葉を気にしていないようだ。
良かった、エルサが変な事を言ってエルフ達の気を悪くしたらいけないからね。
……まぁ、確かに俺も少しうるさく感じたから、変な事では無いんだけど……。
エヴァルトさんは言葉の後、俺の頭にくっ付いてるエルサをじっくり観察するように見てる。
さっきも見てたけど、そんなにエルサを見てどうしたんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます