第87話 集落の皆にドラゴンを信じてもらおう



「そのドラゴン……エルサ様でしたな。……エルサ様はリクさんの頭にくっ付いていられる程小さいお姿ですが……まだ子供なのですか?」

「いえ……エルサは……」

「失礼なのだわ! 私はもう大人なのだわ! 小さいのはリクの頭にくっ付くためなのだわ。なろうと思えばもっと大きくなれるのだわ!」

「そうなのですか!? ……これは大変失礼な事を……」

「良いのだわ。ドラゴンは小さい事なんて気にしないのだわ」

「ありがとうございます」


 エヴァルトさんと話をしていると、アルネの所に行ったフィリーナが一緒に戻って来た。


「すまない、リク。周りが騒いでるのを見てついな……」

「まったく。リクの事を前もって知ってるアルネが騒いでいてどうするの? 私達は先にリクに会って人となりを知ってるんだからフォローしないといけないでしょ。それに、エヴァルトもよ。貴方は皆を纏める立場なんだから、騒ぎを鎮める側でしょうに……」

「いや……そうだな……すまない」

「まぁまぁフィリーナ。俺の方は気にしてないから許してあげて」

「……リクが言うなら……仕方ないわね。……次は変に大騒ぎしないでよ」

「ああ」

「わかった」


 俺が気にしてないという事で、フィリーナは二人への説教を止めてくれた。

 さっきの騒ぎで100人以上のエルフが広場に集まって来てしまってるから、大勢の前で説教をされたアルネとエヴァルトさんは恥ずかしそうだ。


「それで、エヴァルト。リクさんを連れて来たけど、この広場に来て何をするの?」

「フィリーナはエヴァルトさんに言われて俺をここに連れて来たのか?」

「そうよ。本当なら今日は皆にゆっくり休んでもらおうと思ってたのに、エヴァルトがまず広場に連れて来てくれって言うから……」

「そうだったのか」


 俺はエヴァルトさんから何かの用があってここに案内されたようだ。


「それがだな……フィリーナとアルネの話は皆聞いた。しかしそれでも実際に見ない事には信じられないって奴らがいてな……」

「……ああ、そういう」

「だから、本当かどうか皆に見せようと思ってな。ここなら皆が集まれるから丁度良いだろ?」

「そうね。でも、皆を納得させる方法はどうするの? 姿を見て、喋るエルサを見ても信じられない人を納得させるなんて……」

「さっきエルサ様が言ってたじゃないか。今の姿はわざと小さくなってるだけだと。なら、この広場で大きくなってドラゴンの威厳を見せつければ簡単に信じられるだろ?」

「成る程ね。私は実際にエルサが大きくなってる姿を見たし、乗せてもらって空を飛んだわ。あの姿を見れば皆納得するでしょうね」

「俺も乗ったな……あれはすごい体験だった……」

「な!? お前達、エルサ様に乗せてもらったのか!? 空を飛んだなんてそんな羨ましい事……!」


 何やら俺の目の前でフィリーナ、アルネ、エヴァルトさんが話し合ってる。

 フィリーナ達がエルサに乗ってここまで来た事をエヴァルトさんが羨ましがってるようだ。

 そんなに乗りたいのなら、エルサが嫌がらなければ乗せるけどなぁ。

 とりあえず話の内容としては、俺が契約者でエルサがドラゴン。

 これはフィリーナとアルネが伝えて、集落の皆に伝わってるようだ。

 しかし、全員が全員その話を信じたわけじゃないから、信じさせるためにエルサに大きくなってもらおうとこの広場に案内したわけだね。

 確かにさっきの騒ぎの中でも、俺達に疑いの視線を向けて騒ぎに参加しなかったエルフも結構いたのには気付いてた。

 エルサに頼んで大きくなって信じてもらえるなら簡単かもな。


「エルサ、大きくなれるか?」

「いつでも出来るのだわー。ただ、こんなに注目されながらだとやりにくいのだわー。レディをジロジロ見ないで欲しいのだわ」

「……そういやお前、雌だったな……」

「雌と言うなだわ! 女の子と言って欲しいのだわ」


 ……1000年以上生きて来て、どの口が女の子と言うのか……。

 あぁ、でもそれならユノも神様だからエルサより長生きか……。

 おばさんどころかお婆……痛い痛い、俺が悪かったから頭にくっ付いたまま締め付けないでくれ!

 手がこめかみを押さえつけて痛いんだよ!

 ……ちょっとユノちゃん? 君も俺の脇腹をつねってませんか?

 俺が悪かった、すまない。

 ……何だろう……俺、声に出してないはずなのに何でエルサもユノもわかったんだろう……?

 こういう時の勘って怖いな……迂闊な事は考えないように気を付けよう……。


「リクさん、エルサ様に大きくなってもらえるようお願いできますか?」


 おや、そんな事をしてるうちにフィリーナとアルネ、エヴァルトさん達の話は終わったようだ。

 ちなみに騒いでたエルフ達はまだ広場に留まっていて、俺とエルサに注目してる。

 さすがにもうフィリーナの大声を聞いて止まったままじゃない。


「ええ、いいですよ。こちらもエルサに頼んでましたから。それじゃ、エルサ」

「……仕方ないのだわ。リク降ろしてなのだわ」

「はいよ。……あ、エヴァルトさん。少しだけ皆の注目をエルサから逸らして欲しいのですが」

「それは出来ますが……何故ですか?」

「エルサは女の子なので……皆に注目されながら大きくなるのが恥ずかしいそうです」

「……そうですか、わかりました。……ドラゴンが女の子……」


 承諾の言葉の後は小さく呟いていたけど、それは気にしちゃダメなやつだよエヴァルトさん。

 エルサを持ち上げて地面に降ろした。

 というかお前、自分で飛んで降りられるだろうに……。

 エルサは地面に降りた後、少しだけ俺の陰に隠れるようない地に移動して待機、エヴァルトさんが皆の注意を引くのを待ってるみたいだ。

 ……ほんとに恥ずかしいんだな……。

 エヴァルトさんは、まだ少しブツブツ呟いてたけど、すぐに持ち直して集まってるエルフ達の方を向いた。


「皆! これからドラゴンが本物だという証明をする! ドラゴンの名はエルサ様だ! 我らエルフ、エルサ様に失礼の無きよう、頭を垂れよ!」


 エヴァルトさんの声が広場に響く。

 先程のフィリーナの大声と違って、こちらは普通の声、魔力は感じない。

 それでもかなりの声量だった。

 エヴァルトさんの言葉を聞いたエルフ達は、3分の1くらいを除いて皆一斉に頭を下げた。

 下げないのは多分、まだエルサの事を信じられないエルフ達だろうね。

 ……というかエヴァルトさん……これって皆が跪くのに近い形なんですが……。

 今回の相手はエルサだけど、位置の問題で俺に向いてるから、皆が俺に傅いてるようにも見える。

 やっぱりこういうの、慣れないなぁ。

 とりえずさっさとエルサに大きくなってもらおう。

 そうすれば皆そっちを見るはずだ。


「エルサ、そろそろいいだろ?」

「これくらいなら大丈夫なのだわ。それじゃ大きくなるのだわー」


 エルサの体が光り出す。

 その光に包まれたからだが段々と大きくなって、数秒後には広場に10メートル以上もある犬……もとい、ドラゴンが現れた。

 広場に集まっていたエルフ達は、皆エルサを見上げ、口を開けたまま茫然としたり、ドラゴンを間近で見られて感動していたり、果てには、涙を流してる人までいた。


「これがドラゴンの……エルサ様の真のお姿……」


 見上げて感動してるエルフ達もそれぞれ感想を口にしてる。

 中には、「モフモフだー」なんて言葉や、「大きくても可愛いという」言葉も聞こえた。

 エルサの見た目は大きな犬のようにも見えるから、可愛いのはわかる。

 それにモフモフなのは当然の事。

 エルサのモフモフを前に少し誇らしい気分……だが、これは俺のモフモフだ!

 独占欲とまではいかないから、興味のある人は触ってみてもいいけど、さすがにあげる事は出来ないぞ。

 なんて考えながら、エルサを見上げてるエルフ達の様子を眺めていた。


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