第84話 跪く二人のエルフ



「……フィリーナ……契約と言うと、あの……?」

「アルネ……そうみたいよ。……ドラゴンがおとなしく人間の言う事を聞いてるんですもの、間違いないわ。それに、リクもドラゴンであるエルサ様も言ってる事だし……」


 ん? フィリーナがエルサに様を付けてるぞ?

 ドラゴンだからかな?

 でもこんな暢気でキューが好きなドラゴンを様付けで呼ばなくても良いと思うんだけどな。


「二人はドラゴンの契約を知ってるのか?」

「……ああ。我々エルフには昔からドラゴンにまつわる伝説が伝わっているからな」

「ドラゴンにまつわる伝説の1文で……ドラゴンは人と契約して本来の力を発揮する、ドラゴンと契約した人はドラゴンと同等の力を得る事が出来る……とあるわ」

「エルフにはそんな伝説があるのか」


 人間の方には伝わってないのかな?

 マックスさんやマリーさん達が知らなかっただけかもしれないけど。

 もしかしたら、別の国なんかでは色々伝説が残ってたりするのかもしれない。


「リク、君は契約者なのか?」

「まぁ、そうだな。確かに俺はエルサと契約してる」

「……ドラゴンと会えて、さらにその契約者とも会えるなんて!」


 フィリーナが感激してる気がするけど……俺はそんな会えて感激する程の人間じゃないよ?

 ヘルサルの街だと、こういう反応はよくあったから、そろそろ慣れて来てる……。

 初めて会う人から握手を求められたりすると、やっぱ戸惑うけどね。

 そんな事を考えていたら、二人は急に立ち上がり、勢いを付けて俺達の前に跪いた。


「え? ちょっと何してるんだ、二人共!?」

「……これは……初めての反応ね」

「エルフだからな……伝説とか神話とかそう言うのを大事にしてる種族だ」

「こういうの、久しぶりなのだわー。……面倒なのだわ」


 モニカさんもソフィーさんも、冷静に眺めないで。

 エルサも面倒になって俺の頭にくっ付いてないで二人を何とかしてくれ。

 人生で初めて、人から跪かれる……どうしたらいいかわからない……。

 

「でも、慣れておいた方がいいわよ、リクさん」

「え、どうして?」

「だってリクさん、国から最高勲章をもらうんでしょ?」

「そんなのをもらったら、大抵の人間はリクの事を知るとこうなるな」


 え? そうなの!?

 最高勲章ってそこまでのものなの?

 騎士爵は辞退したから、貴族にはならずにすんだけど、これじゃあんまり変わらない気がして来た……。

 とりあえずソフィーさんは指をささないように……。

 跪いた二人に戸惑いながら、モニカさんやソフィーさんと小さな声で話したりしていると、ようやく二人が顔を上げた。


「……リク様、エルサ様。先程までの失礼、どうかお許しください」

「リク様が契約者であると知らず無礼な物言いをしていました」

「いやいや、そんな。何も失礼な事なんて無かったから。だから二人共普通に座って、お願いだから」

「しかし……」

「リク様のお願いでも、それは……」

「今までと同じでいいから。丁寧な言葉遣いもいらないし、様を付けて呼ばないでくれー」

「……仕方ないわね。二人共、リクさんは普通に接していれば大丈夫だから。そんなに畏まらなくてもいいのよ」

「うむ。むしろリクは畏まった態度よりも普通に接した方が喜ぶぞ」


 モニカさんとソフィーさんが、二人に近づきいて手を差し伸べ、腕を掴んで立たせながら声を掛けてる。

 ありがとう、モニカさん、ソフィーさん。


「本当に……いいのか……いや、いいのでしょうか?」

「何も気にしないから。今までと同じように話してくれればいいから」

「わかりまし……わかったわ」


 ふぅ……なんとか二人は納得してくれたようだ。


「やっぱり面倒だったのだわ……リクの頭に避難してて正解なのだわー。やっぱりここにいると癒されるのだわー」


 ……エルサ……今度思いっきり全身モフモフしてやるからな……。

 そんな事を考えながら、俺は片手で頭にくっ付いてるエルサを撫で回しておいた

 やっぱエルサのモフモフは癒されるなー。

 エルサから「あ、ちょ」とか「そこは……だわ」とか聞こえる気がするけど気にしない。

 とりあえずは、なんとかエルフの二人と話しをして、一応今まで通り普通に接する事になった後、ユノが完全に俺の膝の上で寝てしまったので、皆就寝する事になった。

 とは言え、交代で見張りをしなきゃいけないけど。

 最初は俺とエルサ。

 数時間後にモニカさんとソフィーさんに交代して、その次にフィリーナとアルネが見張りに

 翌日、皆が起きて朝食を食べた後、集落に向けて出発するんだけど……フィリーナとアルネをどうするか……。

 ちなみに、朝食はモニカさんが持って来た食料で作ってくれた。

 マックスさんから色々教わってるらしく、おいしい朝食だった。


「それで、フィリーナとアルネはこれからどうするんだ?」

「俺達は集落を守れる戦力を求めてたからな」

「そうね。だから冒険者に助けを求めようと思ってたんだけど……リクさ……リクがいるからね」


 まだたまに様を付けそうになったりしてるけど、そのうち慣れてくれるだろうと信じよう。


「それじゃあ、俺達と一緒にエルフの集落に行くか?」

「……そうだな。それがいいだろう。リクとエルサさ……エルサがいれば魔物は物の数ではなさそうだ」

「そうね。そこらの冒険者よりすごい人と出会えたわ。それに、リク達を集落の皆に紹介しないとね」

「あぁ、それがあったな。俺達より下の者は大丈夫だが、……爺様達がなぁ」

「……何かあるのか?」

「んー……エルフの爺様達、いわゆる長老様達なんだけど。人間を毛嫌いしてて、今回私達が冒険者を連れて来るために集落を出るのも反対してたのよ」

「最後には、集落が無くなるか、人間に助けを求めるかと選択を迫られてたな」

「ええ。そこで渋々ながら集落が無くなるよりはって事になったわけ。……多分、リク達だけだと……すぐには集落に入れてもらえないかもしれないわね」

「そうだな。まぁ、エルサさ……エルサの事や契約者の事を証明したら歓迎されるだろうがな」

「そうね。爺様達、掌を返すでしょうね」


 フィリーナが笑ってる……。

 でもそうか……人間だけで行ったら集落に入れてもらえない事もあったのか……。

 危なかった……そのあたりは何も考えて無かったからね。

 この国にある集落だから大丈夫だろうとしか思って無かった。

 でも、考えてみれば、地球にあったラノベを始めとした物語でも、エルフは排他的な所があって、自分達以外の種族を快く思わないとか、集落に入れる事は出来ないとか、そういう話しはよくあったはずだ。

 こっちでもそれは似たようなものなのかもしれないな。

 ……でも、それならなんでこの二人は人間が大丈夫なんだろう?


「二人は人間に対して毛嫌いしたりしないのか?」

「俺達……いや、俺達から下の世代くらいのエルフは人間の事を毛嫌いしたりしないな」

「私達の集落は、人間の国の中にあって、人間達と交流する事で保っているからね。それに、滅多に出て来ない爺様達と違って、私達は集落の外に出て人間の村や街にも行った事があるし、交易もしてるわ。だから人間は見慣れてるの。毛嫌いすることは無いわ」

「成る程ね」


 集落を存続させるためには人間と交易をしないといけない。

 交易をしてるから、人間を見慣れてるし、毛嫌いすることは無いのか。

 二人の話に出て来る爺様達というのは置いておいて、エルフの集落自体は閉鎖的でもないようだ。

 地球の物語に出て来るエルフ達のように排他的では無い事に少しだけ安心した。



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