第83話 エルサを二人に紹介



「フィリーナはさっき、特に魔力感知が鋭いって言ってたね」

「そうね。私はエルフの中でも特別魔力感知に優れているわ。今回魔物に襲われる時もいち早く気付いて集落の皆に知らせる事が出来たわ」

「フィリーナのおかげで、集落を守るための準備をする時間が出来た。もしフィリーナがいなかったら、感知が遅れてろくに準備が出来ない状態で襲われただろう。その場合、集落は全滅してたはずだ」

「そうなんだ……」


 フィリーナがいて、素早く感知出来たおかげで時間が稼げた。

 それがあったから今俺達が向かって集落を守るための行動を起こす事が出来たのか。


「私の魔力感知は何故かわからないけど、魔力だけでなく内面なんかもほんの少しわかるの」

「内面……性格とか?」

「んー……何と言うか、私が見た人が騙そうとしてる悪い人か、良い人かというのが何となくわかるくらいね。隠そうとしたら途端にわからなくなるから、あまり頼れないのよ」


 人の心を読むとかでは無いんだね。

 何となく相対した人物が善か悪かというのがわかるくらいか。

 大体悪い人はそれを隠そうとしてるから、すぐにわからなくなるのなら確かに頼ることは出来ないんだろう。


「ちなみに、リクは一目見て良い人だってわかったわ」

「俺が?」

「ええ。人間でここまではっきりわかる人は珍しいわね。だからすぐ信用してオーガを任せたのよ。魔力の事もあったけどね」

「成る程」


 あの時、フィリーナは最初、一緒に戦うと言ってくれた。

 けど、すぐに俺の指示に従ってここまで逃げる事を選んだ。

 その特殊な力があったからなんだね。

 俺の膝に座って話しを聞いていたユノがフィリーナを見ながら言った。


「エルフさん……フィリーナさん? この人はアルセイスの加護を持ってるの。だから色々とわかるの!」

「……アルセイス様の加護だって?」

「……この子は何を言ってるの? 何故そんな事がわかるの?」

「ユノもフィリーナと同じで特別な何かを見る事が出来るみたいなんです。だから、ユノが言ったなら本当にフィリーナにはアルセイス様? の加護が付いているんだと思います」


 この際だ、ユノもそういう事にしておこう。

 こんな小さな子が創造神だとか、今はその力がほとんど無いとか、そういう話しは信じてもらえるかわからないし、ユノを狙ったりする人を出さないためにも、それで押し通した方が良いと思う。


「……アルセイス様の加護がフィリーナに……」

「……さすがにすぐには信じられないわね……けど、何故かその言葉を信じて良い気もしてるわ。私が感じる限りでは確かにアルセイス様よりも神聖を感じる人の言葉だものね……」


 とりあえず、そろそろフィリーナの話は置いておこう。

 だいぶ話が逸れてしまってる。

 エルフの集落を守るためにどうするかという話しに戻して、エルサの事も伝えないとそろそろエルサがお眠だ。

 モニカさんとソフィーさんも、真剣に話を聞いてるし、ユノの言った事に驚いてはいるけど、少しだけ退屈そうな雰囲気になって来た。


「とりあえず、今はその話を置いておこう。また落ち着いたらユノから話を聞けばいいと思う」

「私にとっては重要な事なんだけど……わかったわ」

「……確か、元はエルフの集落を助けるためにリクがここに来たという話しだったな」

「そう。俺達はエルフの集落を守るために、ユノから聞いた情報を元にここまで来たんだ」

「それはわかったけど、どうやってここまで来たの? 馬はいないし、でも歩いてだとここまで来るのに時間もかかるでしょ?」

「その答えは……エルサ」

「……話しても良いのだわ?」

「あぁ。もう自由に喋って良いぞ」

「わかったのだわー。喋るのを我慢してたら寝そうだったのだわー」

「「……」」


 俺が頭にくっ付いてるエルサに話しかけた途端に喋り出した光景を見て、エルフの二人は口を開けたまま驚愕の表情で固まってる。


「……まさか……その生き物は……」

「……犬にしては綺麗な白いモフモフが輝いてると思ったけど……しかも、これもリクの魔力に隠れてわからなかったけど、この強大な魔力は……でも、リクの魔力と混じってる……まさか!」


 あ、動いた。

 何やらフィリーナさんが説明口調で色々喋ってるけど、まさかって二人共心当たりとかあるのかな?


「その……リク……間違ってたらそれでもいいんだが……その頭にくっついてるのは……」

「ん?」

「ドラゴン……なの?」


 おぉ、喋っただけでエルサがドラゴンってわかったんだ。

 初めて会った人は喋ってもすぐにわからず、ドラゴンって教えないといけなかったのに。

 エルフだからなのかな?


「うん、ドラゴンだよ。ほら、エルサ」

「リクの頭の方が良かったのだわ……私はドラゴンのエルサなのだわ」

「……本当に……ドラゴン……」

「まさか……リクは……」


 エルサを頭から引き剥がし、手で持ち上げて二人の前に出す。

 エルサは背中から翼を出して、俺の手から離れた後も空中に留まって二人に自己紹介をした。

 二人共驚いた顔で口を開けたままになってるけど、大丈夫かな、虫が入ったりしない?


「私も初めてエルサちゃんがドラゴンだって知った時は似たような反応だったわ。リクさんくらいよ、驚かないのは」

「私もだな。ドラゴンが実在して、しかも目の前にいるんだ。驚く以外の事は出来ないだろう。驚かないリクがおかしい」


 モニカさんとソフィーさんが、エルサがドラゴンだと知ったアルネとフィリーナの反応を見て以前の自分を思い出したのか、顔を見合わせて笑いながら話してる

 ……俺だって、初めてエルサと会った時、ドラゴンだって知って驚いたんだけどなぁ。

 ほとんどがモフモフに触れる事で頭がいっぱいだったけど……。


「とにかく、俺達はこのエルサ……ドラゴンに乗って、ここまで来たんだ」

「私が飛べばこれくらいの距離はすぐなのだわ」

「ドラゴンに乗る……」

「……やっぱり……」


 フィリーナの言うやっぱりってなんだろう?

 そう思いながらも話を続ける。

 また変な方向に話が逸れたらいけないから。

 まずは伝えるべきことは伝えておかないと。


「エルサは今はこの小さな姿だけど、大きくなって皆を乗せて飛ぶ事が出来る。だから、山や川も関係無く、馬より早くここまで来れたってわけ」

「……ドラゴンに乗って移動したのなら確かに集落の危機を知ってすぐここまで来れるんだろう。それはわかる。わかるんだが……」

「……アルネ……現実を受け止めるしかないようよ。リク……どうやって来たかはわかったわ。それに、信用も出来る。こんな突拍子もない話、騙そうとする人間は絶対に言わないしね。それに目の前に喋ってる飛んでるドラゴンが実際にいる。これ以上説得力のある説明はないわ。……ただ……一つだけいいかしら?」

「ん?何か?」

「……もしかして……リクは……ドラゴンとの契約者なの?」


 ドラゴンとの契約という事を知ってるとは思わなかった。

 隠す気は無かったけど、向こうから言って来たのには驚いた。

 ヤンさんやクラウスさん達、役職を持って色んな情報を知ってる人達ですら知らなかったのに。


「……うん。俺とエルサは契約してる」

「リクと契約したのだわー。おかげでリクの魔力が流れて来て気持ち良いのだわー」

「……エルサちゃん……リクさんの魔力って気持ち良いの?」

「あのドライヤーってのより気持ち良いのだわー。特に頭の辺りにくっ付くとヘブン状態なのだわー」

「ドライヤーより気持ち良いとは……少しエルサが羨ましいな……いや……エルサのモフモフも気持ち良い物だからな……」


 ちょっとモニカさんとソフィーさん。

 俺とアルネ、フィリーナで真面目な話をしてるところだから。

 それとエルサ、俺の記憶から変な言葉を取り出して使わない。

 ヘブン状態とか、俺の魔力は危ない物じゃないだろ。

 ほら皆、俺の膝でおとなしくしてるユノを見習って……って、うつらうつらとして船を漕ぎ始めた……満腹だからな、眠くなったんだな……。

 すまないがもう少し我慢してくれ、話しが終わったらちゃんと寝させるから。

 あ、そのまま膝の上で寝てても良いぞ。

 随分長くなった話をそろそろ終わらせて、寝ないとなぁと考えながら、俺は驚いた表情のままのアルネとフィリーナを見た。



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