第82話 アルネとフィリーナ
「まずは何から話そうか……そうだな……。二人はどうしてこんな所に? オーガに追いかけられていたけど、聞いた話だとエルフのいる集落はもっと南にあるんじゃないか?」
「まずはそこから話さないとね」
「そうだな」
二人は一旦顔を見合わせてから、改めて俺に顔を向けた。
「まずは……助けてくれた事、礼を言う」
「ありがとう。本当に助かったわ」
「近くにたまたまいたから助けられただけだからね。お礼を言われる程じゃないよ」
「君……リクがいなかったら危なかったんだがな」
「本当にね。まぁいいわ、それで私達がどうしてここにいるかよね?」
「うん」
「私達は、今リクが言ってたここから南にあるエルフの集落から来たの」
「……エルフの集落から……」
二人はこれから俺達が行こうとしてた場所から来たようだ。
「エルフの集落は今、魔物達に襲われている」
「そうなの。私達だけだと集落を守るのが精一杯なのよ」
「……原因はわかるんですか?」
「それは……わからない。ただ、集落の森の奥には洞窟があるんだが、そこから溢れて来てるようなんだ」
「そうね。元々その洞窟は魔物が住んでたんだけど、それが急に外に出てくるようになって森を飲み込み始めたの」
「……そうなんですか」
ユノが言ってた通りの状況だね。
洞窟から溢れた魔物に集落が襲われ、同時に出て来たウッドイーターに木が食べられて森ごと集落が魔物に飲み込まれる。
「このままだと集落も森も危ないとわかったからね、私達は助けを呼ぶために村から出て来たの」
「人間の街や村には冒険者というのがいるだろう? 先程リク達も冒険者と言っていたが、その冒険者に助けを求めようと思ってな」
「成る程、だから二人は集落から出てここにいたんですね」
「ええ。集落から出て北の村を目指して、数日歩いてここまで来たのはいいけれど……オーガに見つかっちゃってね」
「1体だけなら俺達でも対処出来るが、さすがに3体ともなるとな……」
「そうね。でもそんなオーガ3体をリクは二人ですぐに倒して来た。……その魔力といい、何なの?」
「何なのと言われても……」
俺は返答に困る。
俺自身、魔力に関しては別に何かしたわけじゃない。
ユノ曰く、地球に住む人は稀に異常な程魔力が高い人が出るらしいけど、俺はそのうちの一人だって事くらいしかわからない。
「まぁ、それは良いとして。二人がここにいた理由はわかった。エルフの集落が危ないんだな?」
「ああ」
「ええ。このままだと全滅するのも時間の問題だわ。アルネは冒険者を呼びに来たと言ったけれど、国の方にも助けを求める目的もあるわ」
「だが、国からの助けは期待しない方が良いだろうな……」
「……どうしてですか?」
「われらはエルフだからだ。この国は我らエルフの集落があるとはいえ人間の国。エルフのために迅速に対応してくれるというのは中々な……」
「そうね。人間の街や村が襲われてるなら対処してくれるでしょうけど、エルフの集落だからね……」
そうだろうか?
この国の女王様は、クラウスさんの話を信じるなら良い女王様だという事だ。
それなら、エルフであっても国内で起こった事には対応してくれる気がする。
マックスさん達も、エルフの集落が無くなった場合の損害が大きいだろうと言ってたし、国としては対処しなきゃならない問題になるんじゃないかな?
……ただ、馬すら使わず助けを求めても、間に合うかどうかが一番問題だと思う。
それに、例え近くの村や街に行って、そこから馬を調達したとしても王都まで距離があり過ぎる。
王都の方はハーロルトさんが言うには、今俺の勲章授与式のための準備中で、さらに対応が遅れそう打とも思う。
しかも最近ヘルサルの街がゴブリンに襲われたと軍を動かしたばかりだからね。
考えれば考える程、間に合いそうに無い要素ばかり出て来る。
「……アルネ、フィリーナ、提案があるんだけど……いいかな」
「何だ?」
「リクの提案ってのは私達の集落に関係する事かしら? それなら内容次第ね」
「まぁ、集落に関係するというか、その集落を助けるための提案だね」
「……聞こうか」
「……ええ。私達を助けるためと言うなら聞かないなんて出来ないわ」
二人共真面目に俺の話を聞く態勢を取る。
自分達の集落が関わってるからか、俺の言葉を聞き逃さないように真剣だ。
「実は、俺達はエルフの集落が魔物に襲われてるという事を知ってる。その魔物達から集落を守るためにここまで来たんだ」
「……」
「……それは……今私達から聞いた話じゃなくて?」
「ああ。ここから1週間程馬で北に行った場所にヘルサルという街があるんだけど、そこから俺達は来た」
「……という事は、1週間前には集落が危険だと分かっていたと?」
「見た所、近くに馬はいないわ。という事は歩いて来たの? でも、馬で1週間と言うのなら、徒歩だともっと時間がかかるでしょう。その頃はまだ私達の集落は襲われてないわよ?」
「助けてもらった恩人を疑いたくはないが……信じがたい話しだな……」
「……そうね」
まぁ普通に考えたらそうだよね。
馬で1週間かかるところから歩いて来るなんてどれだけの時間がかかる事か。
しかもその時間を逆算して考えると、俺達が街を出る頃にはまだエルフの集落は襲われてない事になる。
なのにエルフの集落が魔物に襲われることを知って、そのために動くなんて信じられるわけがない。
移動時間の事も考えて、やっぱりエルサの事は話さなきゃいけないな……。
隠そうとしても、隠したままじゃ信じてもらえないし、元々俺は隠し事は苦手だからなぁ。
オーガを倒してすぐの俺に言ってやりたい。
結局隠す事は出来ないんだから無駄な事は辞めろって……。
とりあえず、ユノの事を話してからエルサの話しだな。
ユノはさすがにちゃんと俺の妹だって事にするぞ!
「ユノ、こっちに」
「わかったの」
俺が呼ぶとユノは座ってる俺の膝まで来てそこで座った。
軽いから良いけど、そんなとこで良いのか?
二人は、話の途中で呼んだユノを興味深そうに見てる
「このユノが教えてくれたんだ。エルフの集落が魔物に襲われてる。早く助けに行かないと間に合わなくなるって」
「教えたの!」
「その子は一体……」
「ユノは俺の妹だ。ただ、不思議な力があってね。離れた場所の事がわかったりする事がたまにあるらしいんだ」
「……そうなのユノちゃん?」
「今はわからないの! でも少し前にエルフの集落が危ない事がわかったの!」
「だから今回もわかったのか……私はリクの妹だからと深くは考えずに信じていたが、そういう事だったんだな」
……モニカさんとソフィーさんに色々説明するのを忘れてた……。
ま、まぁ今言ったから良しとしよう、うん!
「本当にそんな事が……?」
「……待ってアルネ。リクの魔力に気を取られて気付かなかったけど、この子……神聖な物を感じるわ……」
「本当かフィリーナ?」
「ええ。何だろう……私達エルフが崇拝する森の神のような神聖……いえ、それよりも上かもしれないわ……」
「アルセイス様より上だと!? そんな馬鹿な……」
そのアルセイス様ってのは何だろう?
話の流れだと、森の神という事なんだろうけど……。
まぁユノは元々創造神という事だから、神様の中で一番偉いのかもね。
だからそのアルセイス様より上に見えるのは当然なんだと思う。
……今は俺の膝の上で寛いで座ってるけど……。
神様がこんなんでいいのかな? ……まぁ、いいか。
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