第81話 助けたのは二人のエルフ
「俺の魔力がわかるんですか?」
「ええ。エルフは魔力感知に優れているの。私はその中でも特に鋭いらしいわ。……でも、その魔力の多さ……貴方、本当に人間? 見た感じでは人間にしか見えないけど」
「れっきとした人間ですよ」
「でも、人間がこんなに魔力を持ってるなんて……」
「まぁまぁ、まずは落ち着くために食事にしましょうよ。私達はこれから食べるところだったんです、あなた達は?」
「え、いや、逃げるのに必死で……何も食べてないが……」
「……そうね、まずは何か食べた方が落ち着いて話が出来るわね」
モニカさんが話を遮って食事の支度を始める。
その言葉に、逃げるのに必死だった二人は空腹だったのか、自分達もと持っていた麻袋から干し肉を取り出した。
モニカさんの方が出したのは、マックスさんに用意してもらった弁当……昼に食べたパンとはまた違った具が挟んである。
ソフィーさんは鍋を取り出してたき火でスープを温め始める。
ユノはスープとは別の水筒に入っていたお茶を出して器に淹れ、エルフ達も含め人数分の用意だ。
俺はたき火の火が弱まって来たので、改めて落ちていた枝を集めて火にくべる。
少し多めに集めて予備に置いておくのも忘れない。
食事の支度が全部終わったところで、皆たき火を囲んでご飯タイムだ。
パンを手に食べ始めようとしたら、何やら視線を感じる……。
何だと思って視線を感じた方を見てみると、エルフの二人が干し肉片手にこちらを凝視してた。
「……えっと……どうかしましたか?」
「……いえ、その……」
「私達は干し肉なんだけど、あなた達はパンなのね。でもここまで持って来られるなんて……」
「あー」
俺達の移動はエルサ頼りだったからね。
ヘルサルの街を出てからまだ1日経ってない。
だから保存が難しい料理でも今日中に食べられる。
本来はここまで来るのに馬で1週間くらいかな?
それくらいの旅なら途中に村に寄って買える食料にもよるだろうけど、大体は干し肉がメインになってしまうだろう。
エルフの二人は俺達が持ってる色んな食材が詰まったパンをよだれが出そうな顔で見てる。
……エルフだからすごく美形なんだけど……いいのかなそんな残念な感じの顔をして……。
「……えーと……これ、食べますか?」
「……すまない、物欲しそうな顔をしてたようだ。それは君が食べ……」
「頂くわ!」
男性の方が遠慮しようとしたのを、女性の方が言葉を遮った。
……そんなに食べたかったのか……。
「おいフィリーナ……さすがに助けてもらっただけでなく食べ物を分けてもらうなんて……」
「何言ってるのアルネ、私達はここしばらくずっと干し肉ばかりだったのよ? 目の前でちゃんとした食べ物があるんだから欲しいに決まってるじゃない。それに、くれるって言ってるんだから大丈夫よ」
まぁ、あげようとしたのは確かに俺だけど。
女性の方……フィリーナさん? は遠慮とかをする気は無いようだ。
さっぱりした性格なのかもしれないね。
とりあえず、二人共揉めるような雰囲気になって来たからそろそろ止めないと。
「二人共そこまでで。大丈夫ですよ、他にも食料はありますから。これ、どうぞ」
「本当に!? ありがとう、助かるわ!」
「……まったくフィリーナは……すまないな、助けてもらっただけじゃなく食べ物までもらってしまって」
「いえ、いいんですよ。誰でも美味しい物を食べたいですからね。それに、このパンは特においしいですからね、オススメなんです」
「リクさんったら、優しいんだから。まぁ、父さんの料理を食べてもらって味を知ってもらうのもいいかもね。……はい、これも食べて下さい」
「……いいのか……?」
「ええ、どうぞ」
「すまない、頂く事にするよ」
「結局アルネももらってんじゃない?」
「これだけ言われたんだ、せっかくの好意を無下にするわけにもいかないからな」
「まあ、そうね」
モニカさんから渡されたパンを手に、フィリーナさんとアルネさん? は言い合うのを辞めた。
食事は皆で楽しくするものだからね、言い合いながら食べてもおいしくないよ。
二人はそれぞれ受け取ったパンを食べ始めた。
パンを口に入れた途端に驚きの表情になって、顔を合わせた後勢いよく食べだした。
「ははは、おいしいですか?」
「「……」」
二人は俺の問いかけに無言のままコクコク頷きながらも食べる事に集中している。
やっぱりマックスさんの料理はエルフでもおいしいと思うんだなぁ。
モニカさんの方をチラッと見ると、父親の料理が認められたのが嬉しいのか、笑顔を浮かべて二人を見てた。
「リクとモニカ、お前達の食事はどうするんだ?」
「あぁ、ソフィーさん。鍋を出してくれますか? モニカさんの持って来た食料で適当に何か食べますよ」
「わかった」
「簡単に料理出来る物が良いわね」
ソフィーさんがパンを片手に鞄の中からフライパンのような形の鍋を出す。
モニカさんはキャベ(キャベツ)を出してそれを刻み、鍋の中に放り込む。
続いて獅子亭で煮込まれた肉を取り出して、それも鍋に入れて炒め始めた。
簡単な肉野菜炒めかな。
獅子亭の肉はよく煮込まれてて味が染みてるから、それを炒めると染み出したうま味がキャベに合わさって美味しく手軽な料理の出来上がりだ。
……ちょっと、お米が欲しくなるね。
この世界にあるかどうかわからないから、今日は諦めよう。
モニカさんの荷物に入っていた保存用の乾パンを取り出し、それをスープに浸して肉野菜炒めと一緒にたべる。
スープも美味しくて、肉野菜炒めとも合って、満足のいく食事になった。
エルサとユノが自分のパンを食べた後、まだ入るのか手っ取り早く作った肉野菜炒めを欲しがったので、少しだけ分けてあげた。
……食べ過ぎて太っても知らないぞ?
ユノはまだこれから成長するって言ってたからいいけど、エルサが太ったりしないか少しだけ心配だ。
太ったドラゴン……飛べるのかな……?
「ありがとう、おいしいパンのおかげで久しぶりに満足のいく食事だった」
「ほんと、おいしかったわ。ありがとね」
「いえいえ、満足して頂けたなら良かったですよ」
まぁ、俺が作った物じゃないんだけどね。
ヘルサルに帰ったら、マックスさんにエルフの人も気に入ってたと伝えよう。
「さて、食事が終わったから落ち着けたわね。色々と話す事があるけど、何から話そうかしら?」
フィリーナさんの言葉で、食後でまったりとお茶を飲んでのんびりしていた皆の空気が少しだけ引き締まる。
「そうですね、先程二人は名前を言い合っていましたけど、アルネさんとフィリーナさんでいいのですか?」
「助けてもらった相手に名乗りもせず、失礼をした。俺の名はアルネ=カーフェン、見ての通りエルフだ。俺の事はアルネと呼んでくれ。さんはいらない」
「そういえば名乗って無かったわね。私はフィリーナ=カーフェン、アルネの妹よ。私もフィリーナって呼び捨てにしてくれて構わないわ。それと言葉も丁寧にしなくても平気よ。堅苦しいのは好きじゃないの」
「そうですか……いえ、そうか。わかったよ、アルネ、フィリーナ。俺の名前はリク。冒険者をやってる」
「私はモニカ。同じく冒険者よ」
「ソフィーだ。二人と同じく冒険者だな」
「私はユノなの。リクについて来たの」
「……」
皆がそれぞれ自己紹介する中、エルサだけは黙っていた。
オーガを倒してここに戻る前、二人がいる時には喋らないように言っておいたからだ。
エルフがどうみるかはわからないけど、一応ドラゴンって事を隠しておいた方が良いかもしれない。
まぁ、話しの流れでエルサの事を言う事になるかもしれないけどね。
……フィリーナは俺の魔力がわかるみたいだし。
俺の魔力はエルサとの契約が原因じゃなくて、元々持ってたってユノは言ってたけど、もし魔力に関して説明する事になったらエルサの事も話しておいた方が良いだろうから。
さて、まずは二人が何でこの場所にいてオーガに追いかけられてたのか聞かないとな。
俺はたき火を一緒に囲んでるフィリーナに聞いた
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