第80話 オーガとの戦闘



「魔物は3体、追われてるエルフは2人。どちらもこっちに向かって来てる」

「魔物が何かわかるか?」

「……俺が初めて遭遇する魔物ですね。特徴としては魔力が少なくて人間より大きいサイズです」

「このあたりに出る魔物から考えると、大きいサイズの魔物なら、おそらくオーガかもしれないな」

「オーガ……」


 確か、筋骨隆々とした大きな体を持つ魔物だったはずだ。

 魔力が少なくて魔法は使わないけど、その大きな体は人間を軽々と投げ飛ばす力を持っていて、武器を使う知能もあるらしい。

 確か……戦闘だと冒険者ランクC相当だったはずだ。

 ゴブリンジェネラル未満、ゴブリンソード以上といったところだろう。

 あぁ、サイズが大きいと思ったらオーガなのか、成る程……それならこの大きさで魔力が少ないのもわかる。


「オーガは武器を使う事もあるから、油断は出来ない相手だ」

「そうですね……」

「皆で行くの!」

「私も行くわ」

「もちろん、私もだ」

「私はこのままなのだわー」


 エルサだけは暢気に俺の頭にくっついたままだ。

 んー、皆で行ってもいいけど、まだテントが途中だからな……早くテントを張らないと完全に暗くなってしまう。


「えーと、ユノとモニカさんはここでこのままテントを張っていてくれ。俺とソフィーさんでオーガを討伐して来ます」

「わかった」

「私はここで待ってるの」

「……リクさんとソフィーさんの二人で?」

「うん。まぁ、エルサもいるけどね」

「むぅ……私もオーガと戦いたい」


 モニカさんが少し膨れ気味だ。

 そんなに戦闘したかったのかな……まぁでもテントは張らないといけないからね。


「これ以上暗くなる前にテントを完成させておいて欲しい。あと、逃げてるエルフをここへ先に逃がすので、保護しておいて欲しいんだ」

「……わかったわ」

「わかったの。エルフとお話しするの」

「頼んだよ。こういうのは俺とソフィーさんは不向きだと思うから」

「私は逃げてる人を落ち着かせるなんて出来ないからな」


 モニカさんの人当たりの良さと、子供の見た目のユノがいた方が安心できるだろう。

 渋々頷いたモニカさんにテント設営を任せ、俺とソフィーさんは追いかけられてるエルフの方へ向かった。

 と言っても、こっちの方向へ逃げて来てるからもうすぐ近くまで来てるんだけどね……ほら、悲鳴っぽい叫びが聞こえて来た。


「だ、誰か! 助けてくれ!」

「そんなに叫んでも、こんなところに人なんていないわよ! でも、誰か助けてー!」


 声からして、男女の組み合わせかな。

 その二人が何本か生えている木の間から逃げて来るのが見えた。


「もう大丈夫ですよー。そのままこっちに逃げて来て下さい!」

「! 誰かいるのか、助かった!」

「助かったとは限らないわよ! でも、誰かいてくれて良かった!」


 二人はそのままこちらに走って近づいて来る。


「そのまま私達の横を抜けて走れ! その先にテントを設営してる仲間がいる!」

「わ、わかった。でも気を付けてくれ、オーガが追いかけて来てるんだ!」

「わかったわ。でも、私も戦うわ! 数は多い方が助かる可能性も上がるでしょ!?」


 男性の方は逃げる気満々、女性の方は俺達と一緒に戦う気のようだ。


「大丈夫ですよ。オーガくらいならすぐに終わりますから。気にせずそのまま行って下さい」

「で、でも……いえ、わかったわ。……その魔力……只者じゃないようだからね」

「ははは。普通の冒険者ですよ」

「……普通、ではないな……」


 ソフィーさん、俺は何の変哲もない冒険者ですよ?

 ただ単にドラゴンが頭にくっついてるだけで。

 男女のエルフが俺達とすれ違って、モニカさん達の方へ走って行く。

 すれ違う瞬間、女性の方からありがとうと聞こえた。

 チラッと顔が見えたけど、その耳は地球の物語であったように少し尖っていて人の耳より長かった。

 やっぱエルフってこうなんだなぁ。


「……行ったか。リク、そろそろ来るぞ」

「ええ。とりあえず、走って来る勢いで武器を振るわれるのが恐いですね。足止めするので、止まったら切りかかって下さい」

「……わかった」


 さて、もうすぐそこまでオーガは来てる。

 二人のエルフが通って来た木々の間から3体の姿が見えた。

 ……良かった……ちゃんと服を着てる……。

 ボロ切れのような布を巻いてるだけだけど……こんな見た目筋骨隆々のおっさんっぽい姿の全裸とか見たくないよね。

 まぁそれはともかく、魔法で足止め……ゴブリンの群れに初めて使った時のような氷の魔法でいいか。

 俺は走って来るオーガの足に狙いを付けて、氷をイメージしながら魔力を練る。

 えっと……魔法名はなんだったっけ……結構前だから忘れて……あ、これだ。


「フリージング」


 硬い物にヒビが入った時のような音がして、全力で走っていたオーガの動きが止まる。

 足が膝まで凍り付き、動けなくなってるからだ。


「足止めするとは言っていたが……これは……足止めと言えるのか?」


 ソフィーさんが首を傾げながらゆっくりとオーガに近づく。

 3体来ていたオーガのうち2体は、足が凍った直後に膝部分の氷が砕けて足が無くなった。

 地面でもがいてるけど、片手に棍棒を持ったままだからろくに動けてない。


「ははは、オーガがちょっと重かったんですかね。氷が砕けちゃいました」

「……はぁ」


 何故か呆れるような溜め息を吐かれたけど、それはそれ。

 ソフィーさんはしっかり地面に倒れてもがいてるオーガ2体にそれぞれ剣を突き刺して止めを刺してる。

 俺も、と。

 ヘルサルの街を出る前に買った剣を抜いて軽く振るうと、オーガの首が飛んだ。

 棍棒を振り回してたけど、その棍棒も半分に切れてる。


「……武器ごと切るとは……リクといると魔物との戦いが楽過ぎるな……」

「楽なら良いんじゃないですか? 危ないよりは」

「まぁ……そうなんだがな……」


 んー、何でだろう……まだソフィーさんが呆れてるような気がする。

 とりあえず、俺はそんな感じでソフィーさんとやり取りをしつつオーガを討伐して証明部位の手を切り取り、血を抜きながら魔法で水を出して洗い、布に包んで鞄にしまった。

 さて、モニカさん達の方はどんな感じかな?

 逃げてた二人が落ち着いてくれてたらいいけど。



 俺とソフィーさんがオーガの後処理……穴を掘って埋めたりを簡単に済ませて、テントを設営してた場所に戻ると、テントを張り終わったモニカさんとユノが、逃げて来た二人のエルフとたき火を囲んでいるところだった。


「お帰りなの、リク!」

「お帰りなさい、リクさん」

「……えっと」

「……早いわね……もうオーガを?」

「ええ、しっかり倒してきましたよ」

「……私の出る幕はほとんどなかったな」

「「……」」


 おや、エルフの二人が黙り込んでしまった。

 俺達がオーガを倒したと聞いて何かおかしな事でもあったんだろうか……?


「リクさん……多分、二人はオーガを倒すのが早すぎて困惑してるんだと思うわ」

「そうなんですか?」

「え、ええ」

「……その魔力……私の間違いじゃなかったようね。オーガ3体をこんなに早く倒すなんて……」


 そういえば、女性の方は逃げてる途中も俺の魔力が、って言ってたね。

 俺は魔力探査を使わないと他人の魔力はわからないし、モニカさん達も魔力を発動する時にかすかに見える事があっても、魔法を使ってない時に人の魔力を感知出来ないって言ってた。

 ……まぁ、俺の魔力が最初の練習の時にはっきり見えた事で呆れながら言われたんだけどね……。

 それはさておき、この女性には何か特殊能力でもあるんだろうか?



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