第79話 異常を察知したエルサ
ユノは大きなパンに最初は苦労してたけど、少し食べるとおいしさに顔を輝かせながら勢いよく齧り付くようになった。
口の周りを汚しながらだったから、食べ終わった後でモニカさんが拭いて世話をしてた。
エルサはまずキューにかじり付き、1本食べたらパンやスープを食べ始める。
それらを食べ終わったらまたキューを食べた。
キューに始まりキューに終わる……何かの作法かな?
ソフィーさんは食事中何も話さず、食べる事に集中してた。
そうして食事を終え、後片付けをする。
しかし、ユノもエルサもいっぱい食べたな……。
マックスさんの作るパンは肉や野菜が詰まってるから、俺でも1個食べたら満腹になるくらいなのに、2個も食べてた。
両方、満腹まで食べて満足したのか、座ってゆっくりしてる、エルサはお腹を上にして転がってるけども。
……ドラゴンとしてそれでいいのか?
魔法で水を出し、鍋なんかを洗って全部片づけた後、転がってるエルサにまた大きくなってもらって、再びエルフの集落へ向かって飛び立った。
お腹がいっぱいなせいか、さっきまでより少しだけ速度が遅くなってる。
まぁ、乗ってる皆も食後でまったりしてるからいいか、俺も含めて。
これくらいなら、エルフの集落へ行くのが遅くなり過ぎたりはしないだろう。
エルサが飛んで山を越え、西南へと進路を変えてそのまましばらく飛び続ける。
ほんとドラゴンってすごいね、結構高かった山の上を飛んで通過するんだから。
いつもは地上から20メートル~30メートルくらいの高さを飛んでるけど、山の標高はざっと見た感じ数百メートルはあったと思う。
空気が薄くなる程の高さじゃないけど、それだけ浮かび上がれるとは思って無かった。
山を過ぎてそろそろ日が暮れて来そうになって来た。
太陽が地平線の彼方で半分程見えなくなって、辺りが薄暗くなってる。
ずっと飛びっぱなしのエルサは大丈夫なのか?
「エルサ、ずっと飛んでても大丈夫なのか?」
「全然平気なのだわ。それに、前は1カ月もこれより早い速度で飛んでたのだわ」
「……そういえばそんな事を言ってたな」
契約者を探すために飛び続けたって言ってたな。
その結果がセンテ近くの森に墜落ってのはどうかと思うけどね。
「今はリクを乗せてるから、魔力が流れ込んできてもっと飛べるのだわー」
俺の魔力が契約した事で流れてエルサに渡ってるおかげで、以前よりももっと長く飛べるようになってるらしい。
でもさすがに1カ月以上飛び続けるとかしないからな。
「暗くなって来たなリク。そろそろどこかに降りて野営の準備をしないとな」
「そうですね」
薄暗くなって、さすがに景色が見えづらくなって来た。
完全に暗くなる前に野営の準備をしないとな。
真っ暗な中でテントの準備とかをするのは難しそうだから。
「そうだな……あそこの木々の間に降りてくれ」
「わかったのだわ」
昼と同じように木の近くを野営場所にする事にした。
気の近くだとたき火用の枝とかも集めやすいしね。
「ソフィーさん、ここまででどれくらい移動したかわかりますか?」
「……そうだな……この速度で移動した事はないが、山を越えてからの移動と考えると……多分、3分の2は移動したと思う」
「結構移動出来ましたね」
「そうだな。これ程までに早く移動出来るとは思ってなかった。これなら、明日にはエルフの集落に到着出来そうだな」
「そうですね」
「……もう明日には到着するのね……こんなに買った食料が……」
「ははは、帰りにも食料が必要だからね」
「……そうね。まぁいくつか日持ちしないのがあるから、エルフの集落にどれくらい留まるかにもよるのだけど」
「んー、エルフの集落に十分な食料が残ってるとは限らないだろうから、その時はモニカさんの持って来た食料を食べよう」
もしかしたら魔物への対処に精一杯で満足に食料が無いかもしれない。
ある程度食料があっても、外から来た俺達の分まで食事を出してくれるかもわからないからね。
「着いたのだわー」
話してるうちに、今日の野営場所に指定した所へ着いたようだ。
エルサは地面に降り立ち、俺達もエルサから降りて、いつものように小さくなったエルサが頭に乗っかる。
ソフィーさんは二つある鞄のうち、片方の少し大きい方から簡易テントを張るための道具を取り出してる。
テントにする布はユノが背負ってるリュックと分けて入れてある。
重くはないけど、さすがにかさばるからね。
モニカさんがユノから鞄を受け取り、なかからテント用の布を取り出す。
俺はソフィーさんに説明を受けながら、テントを張るのを手伝っていた。
アウトドアの知識はほとんど無いからね、しっかり教わっておかないと。
「?」
ふと、俺の頭に引っ付いてるエルサが顔を上げる動きをしたような感覚。
「どうした、エルサ?」
「……声がするのだわ」
「声? こんなとこで?」
「間違いないのだわ。人の声なのだわ」
「人の声……なんて言ってるかわかるか?」
「そこまではっきりと聞こえないのだわ。でも悲鳴のような感じなのだわ」
「悲鳴……ソフィーさん、モニカさん」
「……ああ」
「ええ」
「私もなの」
「ああ、ユノ」
皆に声を掛け、エルサが聞いたという悲鳴っぽい声を聞くため、皆で耳を澄ませる。
確かに何か聞こえる……でも何を言ってるのかわからないし、そもそも声のような音がかすかに聞こえるだけだ。
……これで人の声だとわかるって、ドラゴンって耳が良いんだな。
「リク、探査の魔法を使うのだわ」
「そうだな、調べてみる」
探査の魔法なら近くに人がいるのか、それとも魔物がいるのか、はたまた実際誰もいないのかがわかるはずだ。
何度も使って慣れて来た探査の魔法を、一瞬だけ集中して発動させた。
「んー……これは……何だ?」
「リクさん、どうしたの?」
「えっと……」
探査の魔法はちゃんと使えてる。
いくつかの生き物がいる事がわかる。
そのうち4……5かな、の数が俺達がいる方へ移動してる。
その中の3は魔物だろう。
魔力の反応から人間じゃない。
魔力量は高くないけど、大きさが人よりも大きい……いやこれくらいの人もいるにはいるだろうけど。
多分、2メートルを越えるくらいの身長で二足歩行。
まぁ、魔物はいいとして、もう二つの反応だ。
魔物だろう三つの反応から数メートル離れて移動してる。
……多分これは逃げてるんだろうな。
魔力反応は人間に似ていて、大きさも人と同じくらい。
ただその人間に似ている魔力反応が少しだけおかしい。
人間に似てはいるんだけど、魔力量が人間よりも高くて……なんというかちょっとだけ違う。
色で表すなら、人間が黄色だとしたら今感知してる魔力は黄緑で、似てる色だけど違う色、そんな感じだ。
とにかく、追いかけられてるような動きからして、エルサが聞いた悲鳴のような声ってのはこれなんだろう。
「……魔物に追いかけられてる。……けどこれは……人間かはわからない。でも人間に似てる」
「人間に似てる……もしかして……」
「ソフィーさん、何かわかるんですか?」
「いや……もしかしてなんだがな。……エルフかもしれん」
「……この魔力がエルフ……?」
「エルフと人間の魔力は似てはいるが違いもあるそうだ。人間が使えない魔法も使えたり、魔力量も人間より多い。だからか、エルフは魔法に造詣が深い種族と言われている」
「そうなんですか。……これがエルフ……」
「追いかけられてるの?」
「魔物に襲われてるんだわ、助けないと!」
「私が聞いた声はきっとそれなのだわ」
確かにモニカさんの言う通りだ。
魔物に追いかけられてるという事は襲われてるって事だ、早く助けないといけない。
俺は魔力探査でわかった情報を皆に伝えた。
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