第78話 エルサに乗って南へ出発



 金属の音を響かせながら歩いて来た俺達は、以前薬草採取の依頼で来た川の近くまで来てここならとエルサに大きくなってもらった。


「それじゃ、マックスさんマリーさん、行って来ます」

「行ってくるわね、父さん母さん」

「帰ったらまた訓練と獅子亭の料理を楽しみにしてます」

「ああ、気を付けてな。美味い料理を作って待ってるぞ」

「気を付けて行ってらっしゃい。帰りにギルドに寄って話して来るから、こちらの事は任せて頂戴」

「じゃあ、行くのだわ。帰ったらまたキューを食べるのだわー」


 大きくなったエルサの背中に乗り込んで、そのまま浮上、マックスさん達が小さく見えるくらいの高さまで行った所で、真っ直ぐ南に向かった。



―――――――――――――――――――


エルサが飛び立った後に残ったマックスとマリーはふと思い出したように呟き合った。


「そういえばユノは何でエルフの集落が危険かわかったんだ?」

「さあねぇ。私もわからないけど、リクの妹だからね。何かしらあるんだと思うわよ」

「そうだな、リクの妹だもんな」

「ええ。リクの妹なら何が出来ても驚かないわ」


 二人はそのままリク達が飛び去った方をしばらく見ていた。


――――――――――――――――――――



「エルサ、俺達を振り下ろさないように出来るだけ急いで飛んでくれ!」

「わかったのだわ。一応しっかりつかまっておくのだわー」


 俺の言葉にエルサが答え、凄い速さで飛ぶ。

 新幹線より速度出てるんじゃないか? さすがにジャンボジェット機程じゃないと思うが……。


「……すごい速さね……けど、ちょっときついわ」

「うむ。風がすごくて息がしづらいな」

「エルサ、結界を張ってるんじゃないのか?」

「すごい早いのー!」


 確かエルサはいつも結界を張って飛んでるはずだ。

 そうじゃないといつもの速度でもまともにエルサに乗っていられないだろう。

 ……何でユノは風圧で息苦しい状況で元気にはしゃげるんだろう?


「さすがにこの速度だと結界の効果は薄いのだわ」

「……すまんエルサ、もう少し速度を落としてくれ。結界がしっかり効果がある速度くらいで良い」

「わかったのだわ」


 俺の言葉にエルサは速度を落とす。

 さっきまでの風圧はほぼ無くなり、息もしやすくゆったりと乗っていられるようになった。

 それでもいつもよりは断然早い。

 でも景色が流れるのが早過ぎて、楽しむ事はさすがに出来そうにない。


「これくらいで良いのだわ?」

「ああ、ありがとうエルサ。このまま飛んでくれ」

「ふぅ……ようやくちゃんと呼吸出来るわ」

「さすがに先程のはな……エルフの集落に到着する前に私達が参りそうだった」

「さっきの速さが楽しかったの……」


 早くエルフの集落に行かないといけないとは思うけど、エルサが飛ばし過ぎて到着した頃には皆フラフラでまともに戦えないなんて事になっちゃいけないだろう。

 結界の効果がある程度の速度で進んで、ちゃんと俺達が戦える状態で到着しないといけない。

 ユノは速い方が好みなようだけど、さすがにあれはね……振り落とされたりはしないけど、風圧がすごすぎた。

 それにそれだけ風が強く当たるという事は、体感温度も下がるはずだ。

 実際さっきは少し肌寒さを感じたくらいだ。

 季節的に初夏のような気温の中で肌寒さを感じて飛ぶなんて、体に悪いだろう。

 皆が風邪を引いたりしてもいけないからね。


「ソフィーさん、このまま真っ直ぐ南下して行けばいいんですか?」

「途中山がある。それを越えたら少しだけ西南に向かえば良いはずだ」

「わかりました。エルサ、とりあえず山まではこのまま真っ直ぐ飛んでくれ」

「わかったのだわ」


 ソフィーさんは一度エルフの集落近くまで行った事があるらしく、今回は道案内役になってる。

 景色の流れが早くてあまりしっかりと周りの風景は見えないけど、なんとなくで森だとか幅の広い川があるのがわかる。

 馬や馬車で向かおうとしたら迂回しないといけないだろうから、真っ直ぐ突っ切れるのは時間の短縮になるな。


「リク、お腹空いたの」

「……ごめんリクさん、私も……」

「そろそろ昼にする時間だな」

「キューを食べるのだわ!?」

「……そうだな……もう少し飛んで良さそうな場所があったらそこでマックスさんが用意してくれた物を食べよう」

「わーい!」

「もう少しの辛抱ね」

「どこか近くに良い場所があればいいが」

「頑張って飛ぶのだわ!」


 今飛んでるのは何もない荒野のようになってる場所。

 見晴らしは良いけど、さすがに何もない場所でお昼は避けたい。

 せめて日差しを遮る木でもあればいいんだけどね。

 ん? 向こうに見えるのは……村かな?


「エルサ、このままだと村の上を通る事になるから、少しだけ迂回してくれ」

「わかったのだわ」


 俺の指示でエルサが少し方向を変える。

 村から迂回する進路になったようだ。

 エルサで村の上を通過して、見られたら驚かせてしまうからね。


「村には寄らないの?」


 俺の指示に疑問を持ったのか、ユノが聞いて来た。


「のんびりした旅なら寄っても良いけど、今は出来るだけ急ぎたいから。それに食料もたっぷりあるし、今は寄らなくて良いだろうな」

「そうなんだ、わかったの」

「食料なら数日分は用意して来てるわ」


 そう言ってモニカさんは持って来たパンパンに膨れてる鞄を軽く叩いた。

 これのおかげで移動中の食事に心配は無さそうだ。

 それに、ソフィーさんが鍋とかを持って来てるから料理も出来そうだね。

 そのまましばらくエルサに飛んでもらい、村を迂回して進行方向を修正して真っ直ぐ飛んだ頃、ようやくソフィーさんの言っていた山が見えた。


「山が見え始めたな」

「そうね。結構大きい山ね」

「あの山は馬では登れない程険しくてな。本来は迂回するか歩いて登るしか手が無い、それに魔物もいるからな」


 魔物のいる険しい山を歩いて登ってたらどれだけ時間がかかるか……。

 それに迂回するにしても大きい山だから、大きく進路を変えないといけない。

 結局、馬にしろ徒歩にしろ時間がかかるって事だね。


「お、あそこなら良さそうだ。エルサ、あの山の入り口近くに木が立ってるのが見えるか?」

「わかるのだわ。結構大きな木なのだわ」

「そこの近くに降りてくれ。昼を食べよう」

「わかったのだわ。ようやくキューが食べられるのだわ」

「お昼にするの?」

「ああ」


 昼を食べるという事が伝わったからか、どこからか「クゥー」というかわいらしい音が聞こえた。


「……リクさん、今のは聞かなかった事にして」

「……」

「……えーと、うん。何も聞こえなかったね」


 モニカさんが恥ずかしそうにお腹を押さえながら俺を睨んでいる。

 何の音かしっかりわかったわけだけど……モニカさんが言うなら何も聞こえなかったんだ、そうなんだ。

 ……ちょっとだけモニカさんが恐かった。

 ん? ソフィーさんもお腹を押さえてるな……まさかとは思うけど、ソフィーさんのお腹も同時に鳴ったとか?

 俺がソフィーさんを見ると、視線に気付いたのか目を逸らした。

 皆、お昼が食べたくて仕方ないようだね。


「着いたのだわ。降りるのだわー」

「わかった」


 俺が言った場所の上空にエルサが止まり、ゆっくりと下降する。

 エルサの足が地面に付くと、俺達は背中から降りた。

 俺達が全員エルサから降りると、体を小さくしていつものように俺の頭へドッキング。

 素早くソフィーさんが動き、木の陰になってる場所に敷物を広げた。

 モニカさんもそれに続いて広げられた敷物の上に座りながら、鞄からせっせとマックスさんの用意した弁当を取り出している。

 ユノはモニカさんの隣で、出て来る弁当をよだれを垂らしそうに見つめてる。

 ………お腹空いてるのはわかるけど、皆行動が早いね……。


「早くキューを出すのだわ!」

「はいはい」


 俺も敷物の上に座りながら、キューを数本取り出した。

 それから、ソフィーさんが取り出した鍋にモニカさんが水筒に入れて来たスープを入れる。

 温め直すためなんだろうけど、そのためには火が無いといけない事にそこまでやってようやく気付いたモニカさん。

 急ぎ近くの木から落ちた葉っぱや枝を集めて小さいたき火を作ってそれでスープを温めた。

 たき火の火を付けたのはモニカさんだ。

 いつの間にか火の魔法も使えるようになってたみたいだ。

 ただ、薪に火を付けるくらいがせいぜいで、魔物相手には使えないだろうとの事。

 お金を貯めて効果の高い魔法をいつか買うんだって言ってた。

 温めたスープと、マックスさんが作ってくれた以前も食べたパン、それらを並べて皆で一斉に食べ始める。



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