第77話 出発前の準備
「しかしリク、良いのか?」
「何がですか、マックスさん?」
「いやな、パーティで行くとは言ってるが、これは冒険者への依頼とかじゃないだろ? 報酬があるわけでも無いのに行くのかと思ってな」
「良いんですよ。俺に出来る事は限られてますし、全てを助けるなんておこがましい事は言いませんが、助けられる人達は助けたいですからね。自分を裏切らない為にも」
「自分を裏切らない、か……」
「リクさんの言う通りね。苦しんでる人がいたら助けたい。助けられるのなら手を差し伸べて助ける事。それが父さんや母さんから教わった冒険者の心得よ」
「その通りだなモニカ。私も助けられる人がいるのなら助けたい。他のパーティに誘われる事が多かったが、ほとんどがただ報酬のために依頼をこなしてる奴らばかりだった。やはりこのパーティに入って正解だったと思うぞ」
モニカさんもソフィーさんも、エルフの集落を助けるためのやる気は十分だ。
二人共良い事言うなぁ。
二人から見損なわれたりしないよう、俺も頑張ろう。
「……そこまで言うならわかった」
「アンタ、私達はどうする?」
「俺達は……まだここを離れられないからな……リクの代わりにヤンを通してギルドの方へ伝えておくくらいか」
「……そうね、私達は獅子亭で待つ事にするわ」
「はい、帰りを待っていて下さい」
「まぁ、リクの事だから魔物がどれだけ大量に湧いても無事だろうがな」
「ええ。そういった危険は心配してないわね」
「……えー、そうなんですか?」
「まぁ、リクさんだものね」
「ああ、リクだからな」
「心配するだけ損なのだわ」
「私もいるから心配しなくていいの!」
ユノから聞いたエルフの集落が危険という話しで重くなっていた空気は、皆で俺をからかう事で和らげ、ようやくいつもの明るい獅子亭の雰囲気に戻った。
こんな事を言いながらも、マックスさん達獅子亭の人達は俺を心配してくれてる。
それくらいこの人達は優しい人達だ。
この人達に出会えたからこそ、俺はヘルサルを守ろうとゴブリンと戦ったり、まだ行った事も無いエルフの集落を守ろうと考える事が出来るのかもしれないね。
「リク、もうこれから動くのか?」
「はい。今もエルフの集落は襲われてると思うので、少しでも早く駆けつけた方が良いと思いますから」
「そうか……それなら昼と夜の食事くらいは俺が作ろう。持って行け」
「良いんですか?」
「もちろんだ。それと、マリー」
「わかってるよ。リク達の代わりに私がギルドへの報告をしておくからね。まぁ、間に合わないかもしれないけど、ギルドや他の街からエルフの集落へ行ける人を探してみるよ」
「ゴブリンの襲撃の時を考えれば、リク達だけで十分かもしれないが、一応な。それにあの代官にも話を通しておかないとな」
クラウスさんか……俺がヘルサルを離れるって言ったらついて来るとか言って、トニさんに力づくで止められるなんて事になりそうだ、その辺りはマックスさん達に任せよう。
エルフの集落を守る事に対して冒険者依頼は出ていない、当然だけどこの街ではまだその事を知るのは俺達だけだから。
これからマリーさんがヤンさんに話を通して色々手配してくれるだろう。
エルサに乗って行ける俺達とは違って、誰かが集落へ向かっても到着するのは先の事だろうけど。
……あとソフィーさん、マックスさんがお弁当というか携帯食を用意してくれるからってそこまで嬉しそうな顔をしなくても……チラッとソフィーさんの顔を見たら、目を逸らされた……毎日獅子亭で食べてるのになぁ。
「それじゃあ私は色々と準備をして来るわね。さすがにエルサちゃんでも1日で着かないだろうし、今日の食料は父さん達が用意してくれるとしても、明日以降の分も必要だからね」
「ありがとうモニカさん、お願いするよ」
「ええ、任せておいて」
「ふむ、それなら私は食料以外の物を用意しておくか。数日は野宿をするかもしれないからな」
「助かります。今度、野宿のために必要な事を色々教えてください」
「わかった。まぁ今回野宿をするだろうからその時にでも教える」
モニカさんが食料準備のため、市場へ買い出しに行き、ソフィーさんは野宿等の旅の準備のためこちらも獅子亭を出て店に買い物に行ったようだ。
……俺はどうするかな……。
あぁ、そうだ。
「マックスさん」
「ん、どうした?」
「ユノに盾を持たせてやりたいんですが、何かありますか?」
「盾か……昔使ってた物がまだ残ってるから……それを使え」
「良いんですか?」
「剣もリクにやったからな、盾だけあっても置物になるだけだ。それに最近は両手剣を使ってるから盾は持てん」
「ありがとうございます、マックスさん」
これでユノの守りも万全だろう。
剣等の武器を使えるのはわかったけど、盾が扱えれば守りも硬くなる。
マックスさんからもらった剣は片手剣だから、盾も持てばバランスも良くなる。
ユノにはそのまま剣と盾を使ってもらおう。
俺は……どうしようか……いざとなれば魔法があるけど……。
「……マックスさん、ちょっと武具店に行ってきます」
「何だ? 他に必要な物があるのか?」
「いえ、マックスさんからもらった剣はユノに使ってもらうとして、俺の武器が無いので……」
「リクなら武器が無くても魔物の大群くらい楽に相手しそうだけどな」
いやまあ、出来なくもないと思うけど……。
エルサから聞いた話だと、よっぽどの事が無い限り戦闘態勢の俺を傷つけられないらしいから。
でもやっぱり、使うかどうかはさておいて剣とかの武器は持っていたいよね、男の憧れ的に。
「とりあえず、何か良い物があるかどうか見て来ますね」
「そうか、わかった。場所はわかるか?」
「はい、大丈夫です。ゴブリン襲撃の準備の時に散々ヘルサルの街を歩き回りましたからね」
「そうだったな」
「私も行くの!」
「もちろん私も行くのだわ。このままくっついてるだけだけどだわ」
ユノもついて来るのか。
まぁ色々見てみるのも楽しいだろう。
エルサはまぁ……さっきからずっと俺の頭にドッキング状態だからな。
最初は少し頭が重いと感じる事があったけど、さすがにもう慣れた。
俺はユノとエルサを連れて、ヘルサルの武具店へと向かった。
約2時間後、必要な物を揃えた俺達はヘルサルの街南に出て来た。
店の準備をルディさんとカテリーネさんに任せて、マックスさんとマリーさんがお見送りだ。
ちなみにユノと行った武具店ではセンテの街で買った剣よりも品質の良さそうな剣を買った。
また途中で折れたりしちゃいけないから、それなりに良さそうな物を選んだ。
少しだけ高かったけどね。
商品の武器を見てる時、ユノが色んな武器に興味を持って振り回そうとしてたから止めるのが大変だった。
マックスさんやモニカさんに勝つ程のユノが店の中で武器を振り回したら危険過ぎる。
モニカさんは食料を詰め込んでパンパンに膨れたリュックのような鞄を背負ってる。
……そんなに必要かな?
必要か……エルサとユノがよく食べるからな。
エルサ、モニカさんの鞄からはみ出してるキューを物欲しそうに見るんじゃない。
お前のおやつのキューはちゃんと俺の鞄に入ってるから。
ソフィーさんの方は、鞄を二つ両肩から下げてる。
テントだとか、食材を料理するための鍋だとか、色々入ってるらしい。
ソフィーさんが歩くと中で金属がぶつかり合う音がする。
ソフィーさんは冒険者としての経験が俺より断然長いから、本当に必要な物を買って来たんだろう。
鍋がぶつかり合う音を聞きながら俺達は、ヘルサルの街から少し離れた所まで歩いた。
街の近くでエルサが大きくなって驚かせちゃいけないからね。
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