第76話 エルフの集落の危機



「ユノ本当なのか? 確かに昨日寝る前にエルフの集落が危険だとは聞いたけど、消えるなんて事……」

「本当なの」


 ユノの言葉を聞いた皆は押し黙ってユノの言葉の意味を考えてる。

 雰囲気が随分重くなったな……。


「どういう感じで危険があって、何故集落が消えるかわかるか?」

「うん。えっとね、エルフの集落は半分が森になってるの。エルフは森とか自然と生きる種族だから。それで、その森の外れに洞窟があるの。その洞窟から魔物が湧いて出て来てて、エルフの森を飲み込んで行ってるの」

「森を飲み込む?」

「大型の魔物なのか?」

「大型じゃないの。大きさは多分人間やエルフとそんなに変わらないの。でも数が多いの」

「大量発生か……」


 魔物の大量発生……この前のゴブリン襲撃も似たような物だと思う。

 今回も同じようにゴブリンが攻めて来たとかだろうか?

 でもゴブリンが森を飲み込む何てするのかな。


「魔物は色んな種類がいるの。でもそのうちの1種類が木を食べるの」

「木を食べる……ウッドイーターか……」

「多分それなの。そのウッドイーターが他の種類の魔物と一緒に大量にいて、それが森を飲み込むの」


 ウッドイーター……確か冒険者登録する前にマックスさんに教えてもらった魔物の中にいた。

 ユノが言ったように人間とあまり変わらない大きさで、大体160~170センチくらい。

 足は無く、下半身が木の根のようになっていて、それを動かして移動する。

 移動する速度は遅いし、人間には見向きもしないから危険は少ない魔物だけど、大木を根元から引き抜く力を発揮する人間の胴回りと同じくらい太い腕と、どんなに硬い木でも砕いて飲み込む牙があるらしい。

 人間に直接何かする事はないのだけど、食事の邪魔をするとその大きな腕を振り回して襲って来る。

 大木を引き抜く程の膂力がある腕に当たれば人間は簡単に吹っ飛ばされる事になる。

 基本は放っておけば良いのだけど、木を食べるため、木材や薪等の森の資源を食べ尽くすのを防ぐために退治する事もあるらしい。

 退治した後はそのウッドイーター自体が上質な木材になるので、討伐報酬や木材の売却額で割と儲かる魔物らしい……けど振り回される腕が危険なため、あまり討伐したいという冒険者はいないようだ。


「でもエルフの集落なら魔法が使える人がいるんじゃない? それでウッドイーターを退治できれば……」


 ウッドイーターが腕を振り回すだけの魔物だけど、危険なのはその腕。

 離れた場所から魔法で倒してしまえば楽な相手とは聞いた。

 でもウッドイーターを倒しきる程の魔法が使える冒険者が多くないというのもあるようだ。


「出て来てるのはウッドイーターだけじゃないの。他にも何種類かいて、それがエルフ達の邪魔をしてるみたいなの」

「ウッドイーターを野放しにすると森が飲み込まれる。でもウッドイーターをどうにかしようとしても他の魔物に邪魔される、か」

「エルフの集落だけだと、ウッドイーター以外の魔物だけでも危ないの」

「それ程危険な魔物がいるのか?」

「種類はわからないの。でもエルフの集落は他の魔物からの攻撃に耐えるだけしか出来て無いの。魔物は洞窟からどんどん出て来る。このままじゃ森もエルフの集落も無くなっちゃうの」

「……成る程な……防衛も押され気味でそもそも魔物が減らないのならいずれ壊滅……か……」

「そうなの。何日かはエルフ達も頑張って持ちこたえると思うの。だけど……」

「ずっとは持ちこたえられない……それどころか数日防衛するのに精いっぱいって事なのね」


 確かにこれは放っておいたら集落が森ごと消える事になるな。


「マックスさん、エルフの集落まで馬車で何日くらいかかりますか?」

「そうだな……頑張って12……いや13日ってとこだな。馬だけならさっき言ったように10日くらいで行けるんだが」

「そうですか……」

「それだけの日数がかかるとなると辿り着けても間に合わないなんて事になりそうね」

「リクさん、どうするんですか?」

「ここで知ってしまった以上、見過ごす事はしたくないな」


 モニカさんは俺の意見待ち、ソフィーさんはエルフを助けに行きたいようだ。

 俺も助けに行けるなら行きたいけど……。


「マリー、エルフの集落が無くなったらこの国も大きくない損害が出るよな」

「ええ。南にあるエルフの集落はこの国の民として生活してる人達だったわね。そこから木材や魔法技術の提供もされてるはずよ」

「エルフの木材は上質らしいからな」


 センテの街付近の森の木を切った木材よりも上質で建築材として優秀なんだそうだ。

 それに、魔法屋で売ってる呪文書もエルフがほとんど作ってるらしい。

 呪文書に魔法を込めて、それを呼んだ人に魔法を覚えさせるという仕組みがエルフ独自の物だからね。

 俺は普通の魔法を使わないから必要ないけど、もしエルフの集落が無くなったら、魔法を欲しがるこの国の人達が魔法を新しく覚えられなくなってしまう。


「他の国や別のエルフ達との交易で呪文書はある程度何とかなるかもしれないが、さすがに価格は上がるだろうしな。間違いなく国としても街としても、それに冒険者達にも損害になるだろうな」

「そうね。私も魔法屋の呪文書にはお世話になったわ。駆け出し冒険者だった時は依頼を達成させてなけなしのお金で呪文書を買ったりしたもの。エルフの集落が無くなったらきっと、低ランク冒険者じゃ買えなくなってしまうわ」


 それはつまり、低ランクの冒険者が新しい魔法を覚えられず、ランクを上げる事が難しくなるという事なんだろう。

 それに、魔法を主に使う魔法使いにとっては特に辛い状況になるかもしれない。


「……エルサ」

「どうしたのだわ?」


 俺はこの時、もう既にエルフの集落を助けるつもりでいた。

 全てを助けたり、守ったりは出来ないけど、知った事、目に見える範囲でなら出来るだけ助けたい。

 助けられる人を助けずに生きる事は、何故か地球にいた頃の自分すら裏切る事になるんじゃないかと思った。


「馬で10日程の距離、エルサならどれくらいで行ける?」

「そうね、エルサちゃんなら!」

「ドラゴンか……リクは普通じゃ考えられない移動手段を持ってたな、そういえば」

「……んー。さすがにどれだけっていうのはわからないのだわ。けど馬の数倍は早いのだわ」

「飛んで行けるのなら山や川があっても真っ直ぐ南下できる。それにエルサの飛ぶ速さなら……」


 俺が考えてる予想では、早くて2日、遅くとも3~4日でエルフの集落にいけるんじゃないかな。


「エルサに乗るの。リクと一緒!」

「ああ、ユノも一緒にエルサに乗ろうな」

「……仕方ないのだわ。リクが言うなら飛んでみせるのだわ」

「……リクさん」

「リク」


 ん? モニカさんとソフィーさんが真剣な顔で俺を見てるけど、どうしたんだろう?


「どうしたの?」

「私もリクさんと一緒に行くわ」

「私もだ」

「……魔物が大量にいるって話だから、危険だと思うよ?」

「それでも、ユノちゃんには負けたけど、私でも少しは魔物を減らせるくらいは出来るわ」

「そうだな。それに私達はパーティだ。こういう時一緒に行動するものだろう?」


 そうだ、パーティ……。

 モニカさんとソフィーさんは仲間だ。

 ユノやエルサはいるけど、俺一人で行動しなくてもいいんだったね。

 それに、俺一人でどうこう出来る問題かも行って見ないとわからない。

 それならモニカさんもソフィーさんも一緒に来てくれた方が頼りになるし、心強い。


「そうだね。パーティ、ニーズヘッグの仕事だ!」

「ええ!」

「うむ!」


 パーティ、組んでて良かったなぁ。

 こうして仲間と一緒に行動出来るって言うのは何もにも代えがたい事なのかもしれないね。



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