第75話 危機が迫る場所への忠告



「ユノが使えるのは剣だけなのか?」

「ううん。使おうと思えばなんでも使えるの。だけど、重い物は嫌なの」

「そうかぁ」


 まぁ見た目からして重い物は持てそうにないからな。

 実際に持たせたらそんな事は関係なく持って簡単に振り回しそうだけど。


「リク達兄妹は一体なんなんだ?」

「ほんと、規格外ね」

「……私もっと槍を扱えるようになろう……」

「私もうかうかしていられないな。もっと修練をせねば」


 皆が呆れたようにユノを見てるが、俺もその規格外に含まれてるんだよなぁ……。

 俺なんてただ適当に剣を振り回してるだけなんだけど。


「これで私もリクと一緒にいられるの!」

「一緒にリクの頭に乗るのだわー」

「いやエルサ、さすがにユノは無理だろ」

「……リクのパーティ……か。これ以上安全に見えるパーティは他にあるのか?」

「私は知らないわよ。でもモニカもいるから安全な方がいいでしょう?」

「まぁ……そうだな」

「……私はもっと強くなるわ。ユノちゃんのお姉ちゃんになるんだから!」

「モニカはそれで良いのか? まぁ私ももっと修練して強くならねばいけないな。このままでは私がリクの足手まといになりかねない」

「そんな、モニカさんとソフィーさんの二人共俺は頼りにしてますよ!」


 それぞれユノへの驚きと、この先強くなるためにはどうするかとかを話しながら獅子亭へと戻った。

 お店の準備をしなきゃいけないからね。

 というかモニカさんはそれでいいんだろうか? ユノのお姉ちゃんになるためとか言ってるけど、妹が欲しかったのかな?

 まぁモニカさんは面倒見も良い人だし、ユノもすぐに懐くだろう。

 ……完全にユノに対して兄目線で妹を持った気分になってるけど……まぁいいか、ユノも楽しそうだし。

 その日はそのまま俺達がしっかり営業を手伝って、店が終わった後にはユノの歓迎会を開いて皆で料理をたらふく食べた。

 ユノも獅子亭の料理が気に入ったようで、エルサのキューをかじる勢いにも負けないくらいに食べていた。

 特に気に入ったのは獅子亭スープで、肉よりも野菜の方が好みのようだ。

 勢い良く食べ過ぎたユノが俺のスープも欲しがったりもしたけど、モニカさんがおかわりを用意してくれて、俺が食べ損ねる事は避けられた。

 何にせよ、ユノが獅子亭の皆に受け入れられたようで良かった。

 一部……マックスさんはユノに負けた事を悔しがってもう冒険者を引退してるのにも関わらず、本格的に修行しようとか悩んでたみたいだけど……。


――――――――――――――――――――


 お腹が苦しい程料理を食べた後の夜、今日もモニカさんとソフィーさんは俺の部屋に押しかけて、ドライヤー……温風の魔法を掛けてくれとねだられた。

 エルサと一緒に温風を掛けてやっていると、ユノもして欲しそうに見ていたので、ついでだからとユノにもしてやったら気にいったようだ。

 今は半分寝てるモニカさんとソフィーさんが部屋へ帰るのを見送り、エルサもコテンと横に倒れて寝たのでベッドに入れてやったところだ。

 ユノも眠そうにしていて、モニカさん達に一緒に寝ようと誘われてたけど俺と一緒に寝ると言って断ったため、俺の部屋にいる。


「ユノ、そろそろ寝るか?」

「うん、もう眠いの」

「神様でも眠くなるんだな」

「今はほとんどリクや他の人達と変わらないの、だから眠くなるしお腹も空くの」

「そうか……しかし今日は食べ過ぎじゃないか?」

「あれくらいでちょうど良いの」


 あの量でちょうど良かったのか……。

 俺の倍くらい食べてた気がするが……この小さい体のどこにそんなに入るのだろうか。


「よし、それじゃあエルサを挟んでモフモフしながら寝るか」

「そうするの。でもその前にリクに言っておく事があるの」

「ん? なんだ?」


 ユノが俺に言っておくこと?

 神様的な何かかな? 以前エルサと会った時はユノが夢に出て来て教えてくれたから、それと同じようなものかもしれない。


「今はもう完全な神様じゃないからわかる事は少ないの。でも今日リクの所に来る前にわかった事があるの」

「ここに来る前に、か。何がわかったんだ?」


 ここに来る前だから、今のように人間のような存在ではなくまだ神様として存在してた時の事だろう。

 その状態でならこの世界の事がわかるようだけど、ユノが言いたい事は俺に関わる事なのだろうか?


「ええとね、この街の南に人間とは種族の違う人達の集落があるの」

「人間とは違う種族?」

「……確か、エルフとか言われてる種族なの」

「エルフ……」


 聞いた事は当然ある。

 ラノベや漫画、アニメやゲームでお馴染みというか、物語によって多少の違いはあるけど、ほとんどで共通するのは男女問わず美形で耳が長い、それと人間よりも数倍の寿命がある事だったね。

 そういった物に詳しくなくてもある程度は聞いた事がある。

 この世界にもエルフがいたんだね。

 でも、そのエルフがどうしたんだろう?


「……エルフ達の集落が……危険……なの……」

「危険……だって?」

「そう……なの……」

「……わかった。詳しくは明日聞くよ。今日はもう眠いだろう? 一緒に寝よう?」

「……うん……わかった……の」


 眠そうに顔をフラフラさせながら言ってるから相当我慢してるんだろう。

 内容は気になるけど、詳しい話しは明日にして今日は寝かせた方が良さそうだ。

 それに、明日モニカさんやソフィーさんも一緒に話を聞いた方が良いだろうからね。

 エルフの集落に何かがあって、俺がそこに行くとなるとパーティであるモニカさんやソフィーさんもついて来る事になりそう。

 説明は一回で終わった方が楽だからね。


「お休み、ユノ」

「うん……おやすみ……リク」


 挨拶を言い終わってすぐ寝息を立て始めユノ。

 俺はそれを微笑ましく見ながら、エルサを間に挟んでユノとエルサと一緒のベッドに入り、いつものようにモフモフしながら眠りに入った。

 意識が途絶える寸前に、少しだけユノの言っていたエルフの集落の事がよぎったけど、それもすぐに眠気に流された。



 翌朝、朝食を済ませて俺がお茶を淹れ、皆で食後の休憩をしてる時に昨夜のユノが話そうとしてる事を聞いた。


「ユノ、昨日寝る前に言っていた事って何なんだ?」

「? ユノちゃんが何か言ったの?」

「私は寝てたのだわ。何かあったのだわ?」


 皆が興味津々で聞いてる中、俺は少し真剣だ。

 危険がとユノは言っていた、なら楽しい内容ではないだろうから。


「昨日……? あー思い出したの」

「……忘れてたのか」


 ほとんど寝惚けてる状態だったとは言え、言った事を忘れてたのか。

 ユノもエルサのような気楽な部分があるようだね。


「えーとね、エルフの集落がこの街の南にあるの」

「……エルフだと? 確かに位置としてはこの街の南だが……」

「どうかしたんですか? マックスさん」


 エルフという言葉にマックスさんが眉を寄せて考えている。


「いや、確かにこの街の南にエルフの集落はあるんだが、距離がな」

「距離? 遠いんですか?」

「リク、エルフの集落は南の川を渡って馬で10日程の場所よ」

「……そんなに離れてるんですね」


 馬で10日か……気楽に行ける距離じゃないな。

 まぁ行くかどうかはさておき、まずはユノの話を聞こう。


「それでユノ、そのエルフの集落がどうしたんだ? 昨日は危険だとか言ってたが」

「エルフが危険? そんな大事なのか?」

「これは真面目に聞かないといけないようだね」

「ユノちゃん、何があるのか教えて」

「エルフか……私に出来る事なら力になろう」


 皆から注目され、色々言われてるけどユノは気圧される事なく口を開いた。


「このままだとエルフの集落が消えるかもしれないの」


 ユノの口から出た言葉は重大で簡単な問題では無い事を皆に伝え、重い雰囲気が圧し掛かった。



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