第74話 実力試しの模擬戦



 約30分後、獅子亭の裏にあるモニカさんやソフィーさんが特訓と称してマックスさんと模擬戦をよくしてる場所に集まった。


「それでエルサ、これからどうするんだ?」

「エルサちゃんの言った通り戦う支度をして来たわよ」


 マックスさんとモニカさんは二人共しっかり準備をして、いつでも戦える状態だ。

 マックスさんは鎧とかは着ずいつもの服装だが、ゴブリン襲撃の時に使っていたデカイ両手剣を持ってる。

 モニカさんは皮鎧を着ていつも使ってる槍を持ってる。


「じゃあユノ、前に出るのだわ」

「わかったの」


 エルサに声を掛けられて、ユノが俺の貸した剣を持って前に二人の前に出る。


「ちょっと待ってエルサちゃん、まさか私と父さんにユノちゃんと戦えっていう事なの?」

「おいおい、本気か?」

「本気なのだわ。……まずはモニカ……だったのだわ、ユノと模擬戦をするのだわ。もちろん全力で」

「さすがにそれは危ないわよ、エルサちゃん」

「大丈夫なのだわ。ユノは怪我とかしないから思いっきりやるのだわ」

「……わかったわ。エルサちゃんがそこまで言うのならやってみるわ」


 エルサの言葉に渋々やる気になったモニカさんは、ユノに向かい合い槍を構える。

 マックスさんは二人が得物を振り回せる空間を作るために少し離れた。

 槍を構えているモニカさんとは対照的に、ユノは剣を手に持って下に下げたままだ。


「それじゃあユノ、適当にやるのだわ」

「わかったの」

「……本当にいいのね?」

「いいのだわ」


 そのエルサの言葉で、モニカさんが槍を持つ力を込めていつでも繰り出せるようにする。

 いつの間に移動したのか、マリーさんがユノとモニカの間に立って開始の合図をした。


「ユノちゃん、怪我をしそうだったら止めるからね。……それでは、始め!」

「ふっ!」

「……」


 マリーさんの開始の合図の直後、モニカさんは呼気を吐きユノに向かって飛び出す。

 よくモニカさんがやる、戦闘開始直後に先手を取るための突きだ。

 だけど、さすがに相手が小さい女の子、ユノだからかいつもより少し動きは遅く手加減してるのが見てとれる 

対してユノは無言のままモニカさんを見つめてる。


「はっ!」

「……ん」


 モニカさんの突きがユノに襲い掛かった。

 だけどユノは何でもない動作のように剣を上げ、軽々とモニカさんの槍を下から上に弾いた。


「え……」

「「「「……」」」」


 皆ユノがそんなに軽々と槍を弾くとは思っていなかったため、絶句してユノを見てる。

 もちろん俺も。

 もしかしてユノって剣が使えるのか?

 エルサはそれを知っていたのか……。


「……」

「くっ!」


 ユノが少しだけモニカさんの方へ体をずらす、剣道のすり足のような動きだ。

 モニカさんは上に弾かれた槍を急いで引き戻し、今度は手加減を考えずに本気でユノ相手に槍を払った。


「やぁ!」

「……ん」


 モニカさんが上段から槍を払うのに対し、ユノはまたほとんど力も込めてないような動作で剣を上げて槍に当てる。

 今度は横から剣を当て、そのまま巻き込むように動かして槍が地面に突き刺さる。

 ユノの姿がゆらりと揺れたかと思うと、地面に刺さった槍を引き抜いて戻そうとしていたモニカさんの横に一瞬で移動し、剣をモニカさんの眼前へ突き付けた。


「……そ、そこまで!」

「終わったの」

「「「「……」」」」


 マリーさんが模擬戦を止め、試合はユノの勝ちというのは誰が見ても明らかだった。

 その結果を皆何かを言う事も無くただ茫然としていた。

 実際にユノの相手をしたモニカさんでさえ、槍を引き抜く姿勢のまま動かない。


「だから言ったのだわ。ユノは大丈夫だとだわ。……次はマックス?なのだわ」

「……お……おう。俺か。エルサはいい加減俺の名前を覚えてくれ」

「善処するのだわー」


 エルサの言葉で皆が何とか動き出し、でも表情は驚いたままでユノを見ている。

 モニカさんは何が起こったのかわからないような不思議そうな表情のまま、槍を引き抜いてユノとマックスさんから離れた。


「全力で行くのだわー」

「……わかった。さっきのを見てたら手加減なんてしてられそうにないからな」


 頷いたマックスさんは両手剣を持ち上げ、ユノに向かって構える。

 ユノの方はさっきと同じように剣を持って下にだらんと下げてる。


「じゃあ、行くわよ。……始め!」

「はぁ!」

「……ん」


 マックスさんは大きな両手剣を軽々と持ち上げ、一度頭上に掲げて上段の構えを取った後、そのまま両手剣を頭上で回転させるように振り、遠心力を加えたまま腰の位置に戻してユノの胴体目掛けて全力で横薙ぎの一撃。

 ユノはそれを見ながら体を動かさず、剣を持ち上げて自分目掛けて迫る両手剣に持っている剣を振り降ろした。


「ちぃ!」

「……ん!」


 ユノの剣がマックスさんの両手剣に当たり、激しい音と共に地面に叩きつけられる。

 それをマックスさんは驚く程の速さで引き戻し、もう一度振り上げて今度は袈裟切りの形で剣を振り降ろす。

 ユノが少しだけ気の入った声を出して両手剣に自分の剣を横から当てて弾く。

 そのまま流れるように一回転ながらマックスさんの懐に潜り込み、マックスさんのお腹に剣をトンと当てて止まった。

 マックスさんは両手剣を横に流され、剣を当てられた格好のまま止まってる……あ、こめかみから汗が行一滴流れ落ちた。

 マックスさんも全力だったんだな。

 ユノがモニカさんの時のように顔に剣を突き付けたりせず、腹部分にしたのは身長差のせいか。

 マックスさんは大柄だからなぁ、両手剣を横に流されて少し前傾姿勢になってるとは言え、ユノの身長でマックスさんの顔は遠いんだろうな。

 モニカさんの時は槍が地面に刺さってて今のマックスさんよりもさらに前のめりになってたしな。

 そんな事を俺はぼんやりと考えて分析っぽい事をしてると、マリーさんの声が上がった。


「そこまで!」


 試合を止める声と共に、ユノの勝利が決まった。

 マックスさんは両手剣を戻し、ユノは何事も無かったかのように剣をだらんと下げて立ってる。


「「「「……」」」」


 声を上げたマリーさんも、近くで見ていた他の皆も、モニカさんだけでなくマックスさんも打ち負かしてしまったユノを言葉も出せずに見ている。

 俺も驚いてるけど、モニカさんに勝ったあたりで何となくこうなるんじゃないかと考えてたから、皆程の驚きは無いかな。

 だからちょっとだけ分析っぽい事を考えられたってのもある。


「これで、ユノがリクと一緒について来ても大丈夫だってわかったのだわ?」

「信じがたいが、このユノが俺達よりも強いってのはよくわかった」

「……これなら確かにリクと一緒にいて依頼をこなす時も足手まといにはならないだろうねぇ」

「私、軽くあしらわれてたわ……」

「こんな小さな子がマックスさんより強いとは……世界は広いな」


 皆がユノの強さを認めたようだ。

 目の前でマックスさんとモニカさんに勝ったんだから、認めるしかないよね。

 モニカさんが落ち込んでるから、後で励ましておかないと。


「リク、私頑張ったの」

「そうか。よくやったなユノ」


 剣を下げたまま俺のところまで駆けて来たユノの頭を撫でる。


「えへへ」


 撫でられたユノは嬉しそうに笑ってるな。


「ユノ、手加減はしたのだわ?」

「それはもちろん。だって、リクの友達だもの。怪我をさせたらいけないの」

「「「「……え!?」」」」


 ユノは手加減をしてあんなに簡単に二人に勝ったらしい。

 神様だからなのか何なのか……ユノは戦う事もできるようだ。


「……あれで手加減されてたのか……」

「父さん、私自信無くしそう……」


 ユノが手加減してたという追い打ちによってマックスさんとモニカさんはショックで膝をついてしまった。



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