第73話 冒険者と一緒に行動するには



「あの……」

「ん、どうした?」

「いやあの、俺が異世界から来たっていうのは……」

「まぁリクの事だしな。異世界とか言うのがどんなものかは知らないが、それくらいじゃ驚かんよ」

「そうね、リクはドラゴンといい魔法といい、他に驚く事があり過ぎてもう慣れちゃったわね」

「リクさんと最初に会った事を思い出すと、納得出来るわ。あんな何も持って無い、お金も無い状況なんて普通ある事じゃないもの」

「正直、異世界とういうのが何かわからないからな。リクの事だからそういう事もあるんだろうとしか言えないな」


 ……何やら皆納得した様子。

 俺ってそんなに驚かせる事してたの?

 魔法で色々やった事は確かだけど、異世界が霞む程の事だったんだろうか……。


「リクの扱いはこんなものなのだわ」


 こんなものって、ひどいなエルサ。


「リクの妹のユノです。よろしくなの!」


 ユノが椅子から立ち上がり、皆にお辞儀をした。


「良い子そうだな。リクの妹という事なら何か驚く事をしそうだが……」

「そうね、リクの妹だものね……」

「リクさんの妹なら何かやってくれるはずよね」

「リクの妹だからな……」


 何か俺の扱いがひどい気がするのは気のせいだろうか………。

 まあいいか、とりあえずはユノの事だ。


「それで、すみませんが妹のユノも一緒にここに居ても良いでしょうか?」

「それは構わんよ」

「ええ。むしろこんな子を放り出すなんて出来ないわ」

「ユノちゃん、私はモニカ。お姉ちゃんと思って頼ってね」

「私はソフィーだ。ユノ、よろしくな」

「よろしくお願いしますなの!」


 ユノが礼儀正しく挨拶をしてるのを見ながら、簡単に受け入れてくれた獅子亭の皆には感謝しかない。

 ただモニカさん、今日会ったばかりなのにいきなりお姉ちゃんと思ってというのは難しいんじゃないかな。


「しかしリク、冒険者の仕事はどうするんだ? こんな小さな子を連れては出来ないだろう」

「あー、確かにそうですね」

「せっかくリクさんとパーティを組んだばかりなのに、リクさんが依頼を受けられないのはちょっとね」

「そうだな。パーティリーダーだしな。だが、依頼でリクが出ている間この子はどうするか……」

「そうね。うちで面倒を見ていてあげたいけど、さすがに店があるからねぇ。モニカの時はまだ店にも余裕があったのだけど、今の客入りだと忙しくて厳しいわ」


 そうだなぁ、いきなり来た俺の妹(実際には神様)を預かるにしても店の営業を妨げる事はしちゃいけない。

 それに俺も冒険者として依頼をこなしたいしね。

 お金はしばらく何もしなくても余裕で暮らせるくらいあるけど、さすがに何もしないなんてしたくない。

 パーティを組んで、冒険者の依頼をするのが楽しくなって来たところだから。


「それなら大丈夫なの。私がリクについて行くの」

「しかしユノ……だったか。冒険者の仕事について行くってのは危険な事なんだぞ?」

「そうよ、冒険者の依頼には魔物退治もあるから、命の危険もあるのよ?」

「ユノちゃんが付いて来ても、まだ私の力じゃ守れるかどうか……」

「そうだな。護衛の依頼という物もあるが、やはり誰かを守りながらというのは難しいものだ」


 皆でユノが俺についてくるというのには反対のようだ。

 俺もユノが神様だと知らなかったら反対してるだろうけど、その辺りはどうなんだろう?


「ユノ、何か能力というか……自分を守れる手段とかってあるのか?」


 皆には神様だと説明していないから、見ただけではただ単に俺の妹というだけ。

 しかも見た目は10歳程度だ、こんな子供が自分を守れる手段を持っているのは普通ではあり得ない。

 一応異世界から転移して来たら特殊な能力がもらえるって事もあるみたいだけど、ユノはどうしたものか……。

 朝話した内容では神様としての能力はほぼ使えないという事だけど、ほぼという事は少しは使えるという事でもある。

 少しでも使える能力の中に自分を守る手段があるのなら、それを異世界から来た時もらった能力という事にしたらいいかもしれないな。


「んー。何も出来ないわけじゃないの。でも、リクみたいな能力は無いの」

「……それなら、ユノはリクについて行く事は出来ないだろうな」

「でもマックスさん、ユノをここにおいて行くと獅子亭に迷惑が……」

「まぁ……確かにな。おいて行く事自体はいいんだが、さすがに店もやりながら面倒を見るのは難しいからな……」

「店も忙しいしねぇ」


 結局はそこだね。

 店が忙しいからユノまで面倒を見るのは難しい。

 けど、ユノを連れて冒険者の依頼をするのも難しい。

 それに獅子亭で面倒を見れるとしても、さすがにそこまでマックスさんのお世話になるわけにはいかない。

 まだまだ獅子亭の皆には返せない恩があるんだから。


「……はぁ。大丈夫なのだわ。連れて行くのだわ」

「エルサちゃん?」


 今までキューをかじる事に集中していて話に加わって無かったエルサが、溜め息を吐きながら話に割り込んで来た。

 連れて行って良いのか、エルサ?


「そもそも、リクと私がいる時点で連れて行って危ない事なんてないのだわ」

「……まぁ、リクの能力は規格外でさらにドラゴンがいるんだからな」

「そうねぇ。確かに危険なんて裸足で逃げ出しそうね」

「……でもエルサちゃん。もしリクさんやエルサちゃんが目を離した隙に何かあったら」

「そうだな。リクもエルサも常にユノを見張っているわけにもいかないだろう。もしもというのは考えるべきだ」


 俺とエルサがいたら安全だと言い張るエルサ。

 確かに俺はともかく、エルサがいたらそれだけで何でも大丈夫そうな気はする。

 何せドラゴンなんだから。

 ゴブリン襲撃の時、俺が魔法を使う前に大きくなったエルサは格好良かったな、あれは俺の魔力が大量に流れ込んだ結果らしいけど。

 モフモフしていてさらに強いって、エルサに欠点はあるのか?

 ……いや、キューの事で頭の中がいっぱいって食いしん坊ドラゴンの欠点(?)があったな。

 エルサの言葉にマックスさんとマリーさんは納得している感じ、モニカさんとソフィーさんはもしもの事があったらと心配してる。

 俺としても、出来るだけユノの事は気に掛けたいと思うけど、絶対じゃない。

 常にユノの事を見ているわけにもいかない場面もあるかもしれない。

 もしもの事があったら、ユノはもう神様としても復活出来なくなるらしいから。

 そんな事を考えつつ、俺も皆もエルサを見ていたらもう一度溜め息を吐きながら話し出す。


「はぁ……それじゃあわかるように見せるのだわ。えーと、マックスとモニカ……だったのだわ? 戦う準備をして店裏に出るのだわ」

「戦う準備だって?」

「私も?」

「どうするんだエルサ?」


 エルサはキューを食べ尽くして満足したのか、俺の頭にドッキングしつつ皆を見て話す。

 というかエルサ、俺とユノの名前以外はっきりと覚えてないんだな……。

 ドラゴンにとって人間は小さい存在だから覚える事もほとんどないのかもしれない。

 それにエルサ自体俺と契約するまで名前が無かったから、名前という物の認識がまだおぼつかないのかもしれない。


「とにかく、ユノが付いて来ても大丈夫な証拠をみせるのだわ。早くするのだわ」

「お、おう」

「……わかったわ」


 エルサの言葉でマックスさんとモニカさんがテーブルを立ち、準備のために部屋に向かった。


「リク、剣をユノに貸すのだわ」

「あぁ、それは良いけど……エルサ、お前まさか……」

「多分想像してる通りなのだわ」

「「……」」


 マックスさんとモニカさんが抜けたテーブルで、残った俺とマリーさん、ソフィーさんの三人はエルサの考えてる事を想像して驚いてる。

 ユノだけはニコニコして皆を見ていたけど。


「大丈夫なのだわ。ユノに危険はないのだわ」

「……そりゃマックスさんなら手加減出来るだろうけど、でもさすがにこのユノとってのは」


 改めてユノを見る。

 俺と同じ黒い髪を肩まで垂らし、日本人形のような整った顔の中に赤茶色の目。

 身長は俺の胸くらいの身長で、多分女の子の10歳くらいで平均的な身長だと思う。

 体つきはその歳の女の子とあまり変わらず、少し痩せ型かなと思うくらい。

 とてもじゃないけど、あの大柄なマックスさんや槍を振り回すモニカさんと戦えるとは思えない。

 もしユノが怪我をしたら後でエルサを叱ろう。

 俺はそう考えて、エルサの言う通り剣をユノに貸すため部屋へと取りに戻った。



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