第72話 獅子亭の皆へ紹介
「夢でエルサが森にいる映像を見たんだ。その時の声はどこかで聞いた気がしてたけど、ユノだったのか。あの夢があったからエルサが助けられたんだぞ」
「そうなのだわ? 偶然リクが森に入って見つけられたと思ってたのだわ。ユノ様、ありがとうございますなのだわ」
「本当はもっと自然に出会って欲しかったの。けど、墜落して身動きが取れなくなってたから仕方なく……」
「まぁ、それが無かったらエルサが危なかったからな。けどユノ、何で夢なんて遠回りな事をしたんだ、今みたいに姿を見せれば良かったんじゃないか?」
「あの時はまだ完全にこの世界に入って来れなかったの。少しづつこの世界で存在の固定化をしなくちゃならなかったから。だからリクの夢に干渉して、エルサを助けるようにお願いしたんだ」
「そうだったのか」
「そうだったのだわ。助かって良かったのだわー。キューも食べられたのだしだわ」
エルサは最後にやっぱりキューが来るんだな。
そのうち優先順位の1番がキューになってそうだ。
いや……もうなってるかもしれないな。
「……話してるうちに完全に日が昇ったな」
「また寝る? 寝るのなら私も一緒に寝るの」
「まだ少し眠いのだわ」
「いや、起きよう。この時間に寝ると昼くらいまで寝そうだ」
「そうなんだね」
「リクの頭で寝るのだわー」
「今寝てるとキューが食べられないぞエルサ」
「……やっぱ起きておくのだわー」
ドラゴンで神に近い存在でさっき知った神に作られた存在というのに、エルサはそれで本当にいいのか……。
俺としてはエルサのモフモフがあれば文句は何も無い。
「……あ」
「どうしたの?」
「何かあったのだわ?」
何かあったというか何と言うか……。
朝から仕込みを始めるマックスさんとマリーさんはもう起きて厨房にいる頃だろう。
このまま起きて行ったらユノの事を知らない二人と鉢合わせするんだった。
とは言え、寝たとしても結局起きた時にユノと会う事になる。
それどころか、今寝たら起きて来ない俺をモニカさんが起こしに来そうな予感もする。
もしその時にエルサだけじゃなくユノも一緒に寝てたら……。
起きる事にしたから大丈夫だけど、何の説明もしないうちにユノと一緒に寝てる所を目撃されるのはとても不味い気がする。
地球だと事案だなんだと騒がれる事でもあるしね。
「ユノの事をどう説明するか……」
「そういえばそうなの」
「全部話せばいいのだわ?」
「さすがに神様だ何だってのは信用されそうにないんだけど……」
「……んー、リク。異世界から来たって事は言っても良いと思うの」
「信じてもらえるか?」
「リクを通してここの人達の事は見てたの。信じてくれる人達だと思うの」
「そうか、じゃあそれは話すとして、ユノの事はどうするんだ?」
「私は同じく異世界に来たリクの妹って事にするの!」
「妹か……」
「……似てないのだわ」
年齢差としては俺が今18歳で、ユノが見た目10歳程度だから年の離れた兄妹って設定に出来なくも無いと思う。
ただ、見た目がなぁ……。
髪色は同じ黒だけど、目の色が違う。
俺は日本人に多くいる黒で、ユノは赤茶色っぽい色をしていて、よく目の奥の方を見ると金色に光る部分があるのが見える。
目の色を気にする人が多いかはわからないけど、そこが何とかなっても顔の作りが全然違う。
俺の方はよくある顔というか、平凡な顔だと思う。
対してユノの方は日本人形のような整った顔をしてる。
将来美人になるだろうというのが良くわかる顔つきなんだよね。
「んー、改めてユノを見ても似てる所が全然ないな」
「大丈夫なの。似てない兄妹で押し通せばいいの」
「ユノ様は強引なのだわ」
「まぁ何とかなるかな……」
「あとエルサ」
「何なのだわ?」
「私の事を様付けで呼ぶのは辞めるの。ユノでいいの」
「……一応私を作った神様なのだわ。母親のような存在を呼び捨ては……だわ」
「リクが私を呼ぶようにしないときっと怪しまれるの」
「契約してる俺がエルサから呼び捨てなのに、その妹のユノに対して様付けってのは確かに違和感があるな」
「……はぁ……だわ。仕方ないのだわ。ユノって呼ぶのだわ」
「それでいいの!」
「頼むな、エルサ」
「……今日のキューを増やすのだわ」
エルサとしては母親のようで自分より上の存在を呼び捨てにするのは抵抗があるんだろう。
でもよく考えたら、以前エルサは俺の方が強くて逆らう気が起きないとか言ってたけど、俺の事は呼び捨てのままだよな?
まぁ、俺は契約者で主従とかではないからかもしれないけどね。
エルサに様付けで呼ばれたいとも思わないし。
神様ってのは近い存在のエルサにとっては特別な存在なのかもしれない。
そんな相手を呼び捨てにする事を渋々承諾したエルサにはおやつのキューを増やしてやろうと思った。
「それじゃ、モニカさんとソフィーさんが起きて来る時間まで待つか」
「今からじゃないの?」
「今だとマックスさんとマリーさんしかいないだろうからね。全員に一回で説明した方が手間が省けそうだから」
「わかった」
「それで良いのだわ」
今は地球で言う所の6時過ぎくらいだろうか。
完全に日が昇って既にかなり明るいんだけど、朝が早い人以外はまだ寝てる時間だと思う。
冒険者になって朝の仕込みを手伝わなくて良いと言われたモニカさんと、獅子亭を宿代わりにしてるソフィーさんはいつももう少し後くらいに起きて来てたはず。
仕込みが終わって朝食が出来た頃だね、そのくらいに俺もいつもは起きるようにしてたから、モニカさんとソフィーさんもそのくらいに起きて来ると思う。
そういえば昨日の夜、二人にはドライヤーの魔法をかけてあげて気持ち良さそうにしてたけど、だからと言って寝坊はしないよね……。
「あ、そうだリク。昨日の夜やってたドライヤーを真似した魔法、あれ私にもやって欲しいの」
「そこも見てたのか……。今日の夜にでも風呂上りにやってあげるよ」
「はーい」
なんかもう気分は俺の妹になってるなユノ。
俺もユノが妹だと錯覚しそうだ……いやでも、思い込んだ方が説明する時に変に意識しなくて良さそうだ。
その後、皆にどう説明しようかとユノやエルサと相談しながら時間を潰した。
――――――――――――――――――――
皆が起きて来た獅子亭の朝食。
いつものようにマックスさん、マリーさん、モニカさん、ソフィーさんに俺とエルサが揃ってる。
ルディさんとカテリーネさんは自宅で朝食をとってから獅子亭開店の支度をし始める頃に出勤して来る。
今日はそれに加えてユノが参加。
皆テーブルについてはいるけど、ユノに注目してる。
ちなみに現在既に俺が異世界から来た事、ユノも同じく異世界から来た妹だと説明した後になる。
「本当にリクの妹、なのか?」
「妹ねぇ。歳は離れてるけど、かわいいわね」
「リクさんの妹……将来……それは今考えちゃ駄目よね」
「リクの妹か、私は兄弟姉妹がいないから羨ましいな」
それぞれユノを見ながら感想を言ってる。
エルサだけは話の内容を全く気にせずいつものようにキューを頬張ってご満悦だ。
……というか、俺が異世界から来たってのは気にされてない?
結構、信じてもらえるかとか色々考えて言い出すのに勇気が必要だったんだけどなぁ……。
驚いてる姿が見たかったわけじゃないけど、何も反応が無いのはそれはそれで寂しい。
俺は少し落ち込みそうになりながらも、何で皆がそんなに気にしないのか聞いてみる事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます