第68話 国の事を知りたいリク



「王都かぁ……初めてだわ」

「私は何度か冒険者として行った事があるが……王城に入るのは初めてだな」

「俺もさすがに王城には入った事はないな。王都には昔冒険者だった頃の一時期拠点にしてた事はある。その時は確か……先代の王様の時だったな。今はどうなってるのか見るのが楽しみだ」

「王都が楽しみでございますな、リク様」

「クラウス様、さすがに街の代官が付いて行く事は出来ません。仕事を放り投げて行くわけにもいかないでしょう」

「……うぅ」


 んー、なんか皆王都に行く気になってるんだけど、いいのかな。

 クラウスさんも来る気だったようだけど、トニさんに止められてしょんぼりしてる。

 いい大人がしょんぼりって……というか代官の仕事を放り投げちゃいけないでしょう、この街のためにも。


「えーと、ハーロルトさん」

「はい」

「俺以外もついて来そうな雰囲気何ですが、いいんですか」

「はい。リク殿の付き添い、同じ冒険者のパーティメンバーとして許可されるでしょう」

「そうですか。それなら良かったです」

「王都、楽しみね!」

「数日の旅になるな。しっかり準備しないと」

「久しぶりにマリーと王都観光でもするか!」

「……私もリク様と一緒に……」

「駄目です、クラウス様」

「ソフィーさん、王都に行くために必要な物ってあるかしら?」

「そうだな。とにかく旅の支度が必要だろうな。ヘルサルから王都まで馬車で4日程だ」


 モニカさんとソフィーさんは話しながら部屋へと消えて行った。

 マックスさんはマリーさんに伝えるためか、店裏へ。

 いやあの、獅子亭の営業とかいいんですかね……?

 ルディさんとカテリーネさんが困ったりしないかな……。

 取り残されたのは、俺に詳細を伝えに来たハーロルトさん、いまだに泣きながら王都行きを悔しがってるクラウスさんとそれを諫めてるトニさんの三人と俺。

クラウスさん、その涙はもう女王様からの言葉じゃなくて俺について王都に行けないからになってるよね?

 とりあえずクラウスさんの事はトニさんに任せて、俺はハーロルトさんと話を続けた。


「えっと、今授与式の準備をしてるんですよね?」

「はい。只今王都にて我が国挙げての盛大な授与式にするべく全力で準備をしております」

「盛大な……そんなに盛大じゃなくてもいいんですけど……」

「勲章授与はこの国で久しぶりの事なのです。以前は先代の時に行われて以来だと聞いております。それに、我が国始まって以来の最高勲章です。これは盛大に執り行わなくてはいけません」

「はあ」

「現女王陛下の代になられてから初の勲章授与、それも英雄勲章と呼ばれる最高勲章なのです」

「……なるほど」

「ただ、少々準備に時間がかかるようでして、リク殿には準備を終えた後王都に来てもらう事になると思います」

「ちなみに、準備にはどれくらいかかるんですか?」

「そうですね……およそ1カ月程でしょうか」

「1カ月……」


 皆すぐにでも王都に出発する気で準備に行ったけど、1カ月先の事だったよ。

 後で教えないと。


「……1カ月後ならなんとか仕事を調整して……」

「クラウス様、無理です」

「……はぁ」


 クラウスさんは何とか王都に行く算段を付けようと考えて呟いていたけど、それもトニさんに聞きとがめられてた。

 溜め息が重いよクラウスさん……。


「じゃあ1カ月後に王都に行くという事で、了解しました」

「よろしくお願いします。王都出発前にはこちらへ伝令を走らせて頂けると助かります。それと、準備が終わり次第ここへの伝令も走らせます」

「わかりました」


 準備が終わったら連絡があるんだね。

 なら連絡を待てばいいか。

 

「リク様、王都への連絡はお任せください」

「……クラウスさん。いいんですか?」

「王都にはついて行けそうにありませんからね。これくらいはさせて頂きます」

「わかりました。お願いします」

「では、リク殿、クラウス殿、私はこれで」

「はい、ありがとうございました。王都へよろしくお伝え下さい」

「はい、必ず」


 颯爽と獅子亭を後にするハーロルトさん。

 その後ろ姿を見送った後、この際だからとクラウスさんに聞いてみた。


「クラウスさん、ちょっと聞きたいんですけど」

「はい、何でしょうか? リク様になら何でもお答えしますよ」

「……何でも……いえ、何でもじゃなくていいんですが……この国の体制や女王様の事を教えてもらえませんか? 俺はアテトリア王国って名前くらいしか知らないので」

「そうでしたか。では私がご説明させて頂きましょう」

「お願いします」


 女王様と謁見するって事だから、最低限の知識くらいは知っておかないとね。

 今まで全然この国に関して知ろうとして無かったし。


「まずこの国は王制となっております。それは先程までの話からでも分かる通りですな」

「ええ」

「王の下にはいくつかの貴族がおり、この貴族達が各地域の領主として治めています。そしてさらにこの領主貴族の下で地域の街や村を管理するのが私等の代官となるわけですな」

「ふむふむ」

「王のいる王都では各地域の行政を取りまとめる機関があり、それが王都文官達となります。そして各領主貴族には管理運営と派兵権を与えられていますが、これは領主が治める街等の地域によって規模が異なります。国境付近の地域や、強力な魔物が多い地域ほどは領主の持つ兵士数は多いですな」

「防衛力ですね」

「そうですね。まぁ、有事の際には王軍が駆けつけるのでそれまで持ちこたえるための戦力ですな。王軍の方は各地域の領主軍を上回る戦力を保持しております。これは王都の権威を示すと共に、貴族等の反乱に備えるためでもありますな」


 まあ、王軍が領主軍より戦力が低ければ貴族が反乱を起こした時に止める事が出来ないから当然だよね。


「王軍に所属している方達は王都武官と呼ばれ、この国における兵士のエリートというわけですな。指揮官クラスになると騎士爵を持っている方も多いそうです。それと、王軍はそれぞれ近衛隊や騎士隊、情報隊等いくつかに分かれており各自の役割も与えられているようです」

「さっきのハーロルトさんが情報部隊って言ってましたね」

「そうですな。彼は情報部隊隊長なので、上位の役職ですな。部隊は数人を集めた分隊が数多くあり、それら分隊をまとめた小隊、中隊、大隊となって全てを指揮するのが情報部隊長になります」

「軍の偉い人って事ですね」

「はい。そこまでの階級になるという事はおそらく彼も騎士爵をお持ちになっていると思われます」


 一応貴族という事か。


「情報部隊は国内外問わず、様々な場所での情報収集と選別を行っております。アテトリア王国内で情報部隊に知らないことは無いと言われる程の情報を集めていると聞いております。所謂。王の耳の役目ですな」

「王の耳」

「我が国の王が政治を行うための情報や貴族達の動きの監視等々、情報部隊が収集した情報は全て王の元にあげられます」


 ……隠密みたいなものかな。

 色んな所に潜入や捜査をして、様々な情報を持て帰り主に伝える。

 公儀隠密とか時代劇で見た事がある。

 隠密を使って暴れる将軍が格好良くて、昔のドラマなのに好きで見てたよ。



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