第67話 王都からの訪問者



 冒険者ギルドを出て、獅子亭へ帰り着いた。

 途中エルサがお腹が空いたためキューが食べたいと駄々をこね始めたけど、モニカさんが俺の頭にくっ付いてるエルサを頭から押さえて黙らせた。

 モニカさん……ちょっと怖いんですが……あと、エルサの頭を抑えたら俺の頭に押し付けられて俺も痛いんですけど……。

 モニカさんに聞こえないくらいの声でエルサが。


「あの人間は怖いのだわ……逆らったらキューが食べられなくなるのだわ」


 なんて呟いていた。

 獅子亭に着いて中に入り、マックスさん達に帰った挨拶をしようと思ったら、見知った人が二人と見知らぬ男が同じテーブルについていた。


「おぉ、これはリク様。お帰りをお待ちしておりました」


 まず声を掛けて来たのは、俺がドアを開けるとすぐに気付いたクラウスさん。

 クラウスさんの声で俺に気付いた他の二人も俺に顔を向け、クラウスさんの秘書であるトニさんは俺に会釈をしていたけど、もう一人はじっと俺を観察するように見ていた。


「おうリク、お帰り。お前にお客さんだぞ」

「クラウスさん、トニさん、マックスさん、ただいま帰りました。すみません、お昼を手伝えなくて」

「父さん、ただいま」

「ただいま帰りました、マックスさん」

「なぁに、ギルドへの報告は冒険者の大事な仕事だ。昼は何とかなったから気にするな。ヤンは元気だったか?」

「はい。ヤンさんに報告をして、しっかり報酬も受け取って来ました。……それと、クラウスさん、そちらの方は?」

「リク様は初めてでしたな。こちらは王都より派遣されて来た、ハーロルト殿です」

「初めましてリク殿。私はアテトリア王国軍騎士団情報部隊長を務めます、ハーロルト・ベッカーと申します」

「ハーロルトさんですね。俺はリクです。よろしくお願いします」


 ハーロルトさんと挨拶を済ませたところで、トニさんに座るよう促されたので、クラウスさんの隣に座った。

 ハーロルトさんとは向き合う形だ。


「それで、クラウスさんもですけど、ハーロルトさんは何故ここに?」

「私はリク様に会……」

「んん!」

「……ハーロルト殿をリク様の所へ案内するためですな」


 トニさんの咳払いで言葉を引っ込めたけどクラウスさん、俺に会いにとか言いかけなかった?

 以前に俺のファンとか言ってたけど、やっぱりこんなおっさんにそう言われても苦笑しか返せないよ……。


「私は、情報隊長として女王陛下よりお言葉を授かりリク殿へとお伝えしに参りました」

「女王陛下?」

「はい。リク殿は騎士爵を辞退されましたが、勲章を受け取られますのでそのためかと」

「騎士爵、辞退しちゃいましたけど、その女王様に失礼な事をしましたかね?」

「いえ、女王陛下は権力を求めないリク殿の姿勢に大層感心なさっているようです」

「……そうですか。失礼でなかったのなら良かったです」


 ほっ、いきなりこの国の最高権力者の話が出て来たから驚いたけど、失礼と思われてなくて良かったよ。

 世界も時代も違うけど、日本の江戸時代みたいに無礼打ちとかされたらどうしようかと。

 まあエルサ曰く、戦闘態勢の俺を傷付けるのは難しいらしいけど。

 それはともかく、女王様とやらのお言葉とはなんだろう……というかこの国って女性が王様なんだね。


「それで、女王様からのお言葉ってなんですか?」

「はい、勲章を授かるリク殿に直接お言葉を授けようとされたのですが、ここは王都から離れた場所。女王陛下が直々にお越しいただくわけにもいかないため、私が代わりにお伝えしに参りました」


 まあ、確かに女王様が気軽に移動に何日もかかるような場所に行けるわけはないよね。


「ここからは女王様からのお言葉です。皆さまご清聴の程、よろしくお願い致します」

「はい」


 この場にいるマックスさん、モニカさん、ソフィーさん、クラウスさん、トニさんの全員が目を閉じ、静かに聞こうとしてる。

 えっと……俺も目を閉じた方がいいかな。

 こういった作法とか全然知らないからこんな時どうしたらいいかわかんないな。

 とりあえず、目を閉じて真面目に聞こう。


「冒険者リク。この度は我が国の要所であるヘルサルをゴブリンの手から救ってくれた事、感謝する。我が国はゴブリンの報告を受けた時最悪の想定をしていた。王軍が間に合わず、ヘルサルだけでなくその後ろに控えていたセンテまでも被害を受ける可能性があったのだ。しかし、リクの働きによりヘルサルの被害は無かったと聞いた。その報告を聞いた時の王都文官達の表情は一見の価値はあった。そなたの働きは我が国のどんな将兵より勝る事はこの成果を聞けばわかる事であろう。冒険者リクの功績を称える栄誉を授けると共に、我が国の最高勲章を授ける事とする。……以上です」


 途中ちょっと冗談っぽい言葉が混じってた気がするけど……この国の女王様はお茶目なのかな。

 女王様相手にお茶目って言うのは不敬だろうから、言葉には出さないけど。

 何故だろう……聞き慣れないというか、日本では普通は聞くことの出来ない女王様の言葉なのに、何故だか懐かしくて少しだけ苦い気持ちになった。

 

「………………だわ」


 エルサが小さく呟いたような声がしたけど、周りの皆も俺も何て言ったのか聞き取れなかった。

 どうしたんだ、エルサ? と聞こうとしたら、隣にいるクラウスさんが目に入ってエルサの事が頭から飛んだ。


「……女王陛下……」


 クラウスさんが感極まったように泣いてる……。

 おっさんが泣き始めた時の対処がわからないから、トニさん後はお願いします。

 代官がいきなり泣き始めるとか、大丈夫かなこの街……いや、代官だからこそ忠誠心が高くて感極まったのかな?

 女王様の言葉を伝えて皆の様子を見ていたハーロルトさんが俺に向き直った。


「リク殿、この女王陛下のお言葉をもってアテトリア王国最高勲章を授ける事が正式に決定しました」

「最高……勲章……」

「最高勲章って、英雄と呼ばれる活躍をした人に授ける勲章じゃなかったか?」

「マックス殿の言う通りです。聞けばこのヘルサルの街ではリク殿は既に英雄と称えられているとか。活躍の話しも聞きましたが、リク殿に相応しい物かと思います」

「……それってつまり、この街だけでなく国全体で英雄って呼ばれるって事に……なったり……?」 

「その通りです」


 えー。

 ヘルサルの中で英雄って呼ばれるだけでも戸惑ってるのに、国全体でって……。


「リクさん、これで私達ニーズヘッグの名前が売れるわよ!」

「ギルドからの指名依頼が増えそうだな」

「何だ、お前達。パーティを組んだのか?」

「ええ、父さん。リクさんをリーダーにしてニーズヘッグってパーティになったの。エルサちゃんが考えたのよ、格好良い名前でしょ」

「エルサが考えたのか、確かに格好良いな。由来はあるのか?」

「……怒りに燃えてうずくまる者っていう意味の古いドラゴンの名前です」

「怒りに燃えて……はははははは! リクにぴったりだな!」

「でしょ、父さん」

「うむ、やはりぴったりだ」

「リク様に相応しい、素晴らしい名前ですね」


 皆ににこやかに受け入れられた……マックスさんなんて爆笑してるし……。

 そんなにあのゴブリン達を燃やして消滅させたのって印象に残ったのかな。

 あ、ハーロルトさんがきょとんとしてる。


「すみません、ハーロルトさん。話が脱線してしまって」

「いえ、構いません。そういうわけですのでリク殿には一度王都に来て頂き、女王陛下への謁見の後勲章と英雄の称号が授与される事になります」

「王都ですか……」

「はい。只今王都では勲章授与式の準備が進んでおります」


 授与式とか大事になって来た気がするけど、最高勲章とか言ってたからここまでしないといけないのかな?

 騎士爵は辞退しても、さすがに勲章くらいはと思って受ける事にしたけどここまで大きな事になるとは。

 王都には一度行ってみたいとは思うから、ちょうど良かったと思う事にしよう、うん。

 それに、女王陛下がどんな人なのか見てみたいってのもある。

 不敬を働かないか心配だけど……。



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