第66話 パーティ名決定



「……私、その条件に当てはまる人を二人知ってるわ」

「本当か?」

「誰か良い人がいるの、モニカさん?」

「私の父さんと母さん」

「「……」」


 マックスさんとマリーさん。

 二人共元冒険者で、Bランクっだった実力者だ。

 マリーさんは接近戦で自衛も出来る魔法使いだからそれ専門で戦えるはずだ。

 マックスさんは……あれ? マックスさんってこの前のゴブリン戦の時は両手剣持って戦ってなかったっけ?


「モニカさん、マックスさんは前衛だろうけど、両手剣だよね?」

「いいえ、違うのリクさん」

「え?」

「父さんって本当は片手剣と盾を使って敵の攻撃を引き付けるのが得意って聞いたわ。以前のゴブリン戦の時はリクさんにショートソードをあげてた事と、ゴブリン相手なら盾で引き付けるよりも両手剣でさっさと倒した方が早いからって事らしいの」

「ほぉ、さすがはマックスさんだ。訓練を付けてもらってる時から剣の捌き方が上手いと思っていたが、盾を使っていたからだったか」

「そうね。おかげで私の槍がまだ父さんに当たる気がしないもの」

「……そうだったのか……マックスさんって盾の扱いが上手かったんだ」


 両手剣を使ってる所を見たのもあるけど、体格が良くてごついからてっきりマックスさんはパワーファイターだと思ってた……。

 人は見かけによらないってこういう事……なのかな。

 まあ盾で敵の攻撃を受け止めるのも力がいるだろうから、あの体格は無駄じゃないんだろうね。


「とは言え、さすがにあの二人に頼むなんて出来ないよね」

「そうね。この前は前線でゴブリンと戦ってたけど、もう冒険者は引退してるから」

「それに、獅子亭もあるわけだしな」


 引退して店を持ってる人にパーティに入りませんかなんて誘えないよね。


「バランスはあまり考えずに、とりあえずこの三人でパーティ登録をしよう」

「そうね、そのうち別の人が見つかるかもしれないしね。……それにリクさんがいればバランスなんて……」

「そうだな。ここまで言っては見たが、実際バランスだけにこだわらなくても良いだろう。……まあ、リクというバランスブレイカーがいるからな……」


 何か二人ともボソっと最後に何か付け加えてるけど、良く聞こえなかった。

 とりあえず、バランスばかり考えなくても今の三人ならなんとかなるだろう。

 ……いざという時はエルサがいるしね。


「それじゃあ早速パーティ登録申請をしてしまおう」

「そうね」

「うむ。すまない、今話してたんだがパーティ登録をする事になってな。申請をしたいんだが頼めるか?」

「はい。パーティ申請ですね。では……こちらの用紙に人数と名前をご記入下さい。それと……パーティ名を決めて下さい」


 近くにいた受付の人に話しかけるソフィーさん、決まったら行動が早いね。

 受付にいた人は1枚の紙をカウンターの下から出しつつ、気になる事を言われた。


「パーティ名?」

「パーティで活動する際に必要な名前です。大抵の場合は各自の名前では無くこのパーティ名で呼ばれるようになります」

「……そういえばパーティ名と言うものがあったな……」


 大事な事を忘れないでよソフィーさん……

 受付から申請書を受け取り、必要な事を記入していく。

 各自の名前、パーティ人数、前衛後衛等。

 俺はさっきソフィーさんから遊撃って言われたからそのままでいいかな。

 まあそれぞれの人達のサポートをする役目って考えてればいいんだろう。

 あとは……パーティリーダー?


「えっと、リーダーも決めるんですね。これは経験豊富なソフィーさんでいいですか?」

「いや、リクだろう」

「そうね、リクさんで良いと思うわ」

「え? 俺ですか?」

「ああ。現状私とモニカはCランクだ。対してリクだけBランクになってる。リーダーにはメンバーの中で一番ランクが高い者がなるのが適任だろう」

「俺まだ冒険者になったばかりなんですけど……それに経験豊富なソフィーさんを差し置いてなんて……」

「ソフィーさんはそんな事を気にする人じゃないわよ?」

「うむ、気にしないな。それにリクならそれに相応しい人柄だと思ってる」

「人柄ってそんな、大した事はしてないんですが……」


 美人さんに内面を褒められてちょっと嬉しい。

 さすがに真面目なソフィーさんが、リーダーになるのが嫌だから俺に押し付けようとしておだててるなんて事は無いはずだ。

 ……ない、よね?


「私はあまりリーダーに向かないからな。それにリクは遊撃だろう? 一番メンバーの事を見ていないといけない立ち位置だからな。リーダーとしてもやりやすいだろう」

「……遊撃って大変そうですね……まあ、ソフィーさんがリーダーに向かないって事は無いと思いますが、そこまで言うなら引き受けます」

「ああ。よろしく頼む」

「頑張ってね、リクさん」


 意外と遊撃って色々考えないといけないのかもしれない……。

 リーダーかぁ……俺って今までそんな経験した事ないんだけどな。

 昔からリーダーシップなんて縁の無いものだと思ってた。

 学校でのグループ分けなんて、余る方だったからね。

 あ、これは人付き合いをあまりしなかったからか……昔の事を考えすぎるのは辞めよう。


「さて、あと決めないといけないのは……」

「パーティ名ね」

「……うむ」


 パーティの名前かぁ。

 変に格好良い名前を付けて名前負けしたくないし、どうしたもんか。

 三人でしばしの間考える。

 エルサが頭でモゾモゾしてる……どうした?


「ニーズヘッグがいいのだわ」


 モゾモゾしてたエルサが急に喋ったかと思ったら、パーティ名を考えてたのか。

 というかそれ、ドラゴンの名前じゃないか、しかも悪竜とか言われてる北欧神話の……また俺の記憶からか……。


「エルサちゃん、それ格好いいわね!」

「良い名前だな。何か由来はあるのか?」

「格好良いだけなのだわ。意味は知らないのだわ」


 エルサ……格好良さだけで決めたのか……。


「……ニーズヘッグは『怒りに燃えてうずくまる者』と言う意味で、太古の昔にいたとされる、悪い竜……ドラゴンの名前です」


 仕方なく俺が解説する羽目に……。

 北欧神話とか詳しいとは言えないけど、結構好きでいくつか本を読んだ事がある。

 ゲームやラノベなんかでも題材にされたりしてるよね。


「格好良いわね」

「怒りに燃えて……か。リクに相応しいな」

「え? 俺悪いドラゴンに相応しいですか?」

「悪いドラゴンとは関係は無いが、実際に怒ってゴブリンを焼き尽くしたからな」

「……あー」


 そういえばそんな事もあった。

 我を忘れてって程じゃないけど、マックスさんに怪我をさせた怒りに任せて魔法を使ったもんな。

 これには文句を言えない……。


「それになのだわ。ドラゴンならここにいるのだわ」

「そうね。エルサちゃんもいるし、ドラゴンの名前って言うのは相応しいのかもね」

「そうだな」

「……じゃあ、ニーズヘッグにします……」


 申請書にパーティ名『ニーズヘッグ』と記入して、受付に提出する。

 ちなみに、報酬の分け前について、俺以外の二人は絶対リクが一番活躍するからリクを多めにと言っていたけど、その意見を無視してリーダー権限で均等に分配としておいた。


「はい、パーティ申請受諾しました。これからはニーズヘッグ様とお呼びしますので、お間違えの無いようお願いします」

「「「はい」」」


 依頼報告も終わり、パーティ申請も終わってようやく冒険者ギルドを出た俺達は、昼食の時間を大幅に過ぎていたため、空腹を耐えながら獅子亭へと帰った。



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