第69話 女王様は良い王様らしい
「さて、話は逸れましたが……女王陛下の事ですかな」
「はい。お願いします」
「承りました。……そうですね、女王陛下の事でまず公に知られている事と言えば、16歳の時先代の王が病により崩御なされた際、今の女王陛下にはご兄弟はおらず世継ぎがいなかったため即位されました」
「他に継げる人はいなかったんですか?」
「はい。先王様は早くに亡くなられた王妃様の事を大層愛しておられたようでして、側室を娶ろうとはしませんでした。なので、先王様の直系は王妃様が亡くなる前に産まれた忘れ形見である現女王陛下しかおられませんでした」
一途な人だったんだね、先王様って。
イメージだと、王様って美女を侍らせてる絵が浮かんで来るけど、俺の偏見だったのかもしれない。
「女王陛下は大層聡明な方でしてな。先王が病に伏しておられる間も父王に成り代わり国を治められておりました。そして先王が無くなり即位した後から現在まで見事に我が国を治めておられるのです」
「すごい人なんですね」
「そうですな。実際、国民の間でも女王陛下の評判は素晴らしく良いものになっております。女王陛下の慧眼によって、不正をしていた貴族は直ちに裁かれ苦しんでいた民は救われております」
16歳で女王になってすぐ皆から評価される働きが出来るって凄い事だね。
「歴代王の中でも随一の賢王になられるとまで言われておりますな。私見ではございますが、このまま現女王陛下の統治が続く程、我が国は豊かになるのではないかと思っております」
「そこまでですか?」
「はい。女王陛下は民も貴族も分け隔てなく接し、お人柄が大変よろしゅうございます。民達には当然慕われ、王都の文官武官達の間では不正を許さない姿勢で評価されております。それに、そんな女王陛下であったからこそ、先頃この街がゴブリンに襲われた際には迅速に王軍を派兵して頂けました」
「あれは女王様の指示だったんですか?」
「当然です。いくらこの街の危機であり、王都文官武官揃って派兵に賛同したとしても王軍を動かす事は出来ません。あくまで王軍を動かす事が出来るのは女王陛下ただ一人なのです。まぁ、その派兵もリク様がゴブリン達を蹴散らしてくれたおかげで無駄になりましたがな。ははは」
「……はは、まぁ実際王軍が来てくれるとの報せがあってからの防衛参加者、特に兵士の方達の士気は高くなったと思いますから、無駄ではないですよ」
「そうですな。はっはっは」
ほんと、ゴブリン達が攻めて来るってわかってからの準備の中で、最初の頃は兵士達の中でも逃げようとする人が多かった。
でも、王都の王軍は来てくれるって報せが来てからは逃げようとする兵士がほとんどいなくなったからね。
それだけ王軍への信頼と、女王様への信頼って高いんだろうなぁ。
「それはともかく、現女王陛下は人望に厚く人柄も出来た方なので、国民人気は歴代の王と比べてすごく高いと言えますな。……ただ」
「ただ?」
「人気が高い事が最近の女王陛下の悩みらしくてですね」
「人気が高いのは良い事なんじゃないですか? 悩む事ってあるんですか?」
そうは言ったものの、俺も英雄と持て囃されてるから、ある意味人気者なのかもしれない。
でも人気になって色々感謝されたり羨望の眼差しで見られても、困る事が多いんだよね。
まぁさすがに、女王陛下は出来たお人らしいから俺と違って困る事も無いと思うんだけど……。
「その人気が国内だけに留まらず、他国にも回っているのです。そのため、我が国と友好を結ぼうとしている国がいくつかありまして……その国達からの結婚の申し込みが後を絶たないようです」
「あー、結婚して国家間の繋がりをってわけですね」
日本でも昔は色々あったらしいからね。
今でもあるところにはあるなんて話もあるけど、そこまではわからない。
「そうですな。野心のある国なんかはあわよくば乗っ取ろうとする思惑もあるようで……女王陛下はそれらを断るのに苦心されてるそうです」
「それは確かに困りますね……」
お見合い結婚を迫られてるような物なんだろう。
「私が言うのも不敬かもしれないのですが、女王陛下は大変見目麗しい方でもあるのです。先程話した人気もありながら美貌も兼ね備えていればそう言った話が絶えず持ち込まれるのも仕方ありませんな」
「へぇーそうなんですか」
人柄が良いとは言ってたけど、女王様のイメージなんてどこぞのパンが無かったらケーキをとかのたまったお人くらいしか出て来ない俺の知識。
あれ? 実際に行った人は違うんだっけ?
というよりあのお人は確か女王じゃなかったか。
まぁ、そんな貧困なイメージで女王様を想像するのも失礼だな、辞めておこう。
「……クラウス様、そろそろお仕事が」
「おっと、もうこんな時間か。すみませんなリク様。もっとリク様と話をしていたいのですが、これ以上はトニが許してくれませんので」
「……いえいえ、色々聞かせてもらえて良かったです。ありがとうございました」
「はい。それでは私共はこれで」
「はい、気を付けて」
そうしてクラウスさんとトニさんは獅子亭から出て帰って行った。
……クラウスさん、もっと話をしていたかったとか言われた時少しだけ背中がゾクっとしたんだけど、おっさんに言われて嬉しい言葉じゃないね。
モニカさんやソフィーさんとかになら……とか想像しかけると頭にくっ付いて寝ていたエルサに叩かれた。
むぅ、何やらご機嫌斜めだ。
「キューを、キューを出すのだわ!」
突然キューを要求し始めた。
あ、そういえば昼を食べずに獅子亭で食べようとお腹を空かせて帰って来たんだった。
そりゃエルサもお腹空くよね。
話の間我慢してくれてたエルサのご機嫌を取らないといけないや。
「あら、リクさん。ハーロルトさんや代官様は帰ったの?」
「帰ったよ。……モニカさん、これからどこかに行くの?」
キューを用意しようと思ってたらモニカさんが戻って来た。
荷物を入れるための袋を持っていて、これから買い物にでも出かけようとしてる雰囲気だね。
「ソフィーさんとこれから王都に行くために必要な物を買って来ようかと思って」
「モニカさん、王都の事なんだけど……」
「どうしたの?」
「1カ月後くらいになる予定だよ?」
「え……。じゃあ今すぐ準備しても……」
「急ぐ必要はないよね」
「……そう……ね」
少しだけ気落ちした様子で、モニカさんは部屋へと向かった。
持って来た袋を置いたりするのだろう。
モニカさんが店の奥に入る時すれ違ったマックスさんも少しだけ気落ちしてそのまま引っ込んだ。
マックスさんもすぐに王都に行くんだと思ってたのかな?
……親子ってやっぱ似る物なのかな……。
「まったく、気が早すぎるのよ。リク、ごめんなさいねうちの旦那と娘が」
「いえ、それは全然構わないんですが……王都に皆ついて来るんでしょうか?」
「私もついてくつもりよ。モニカもあの人も行く気のようね」
「……この店はその間どうするんですか?」
「ルディとカテリーネを仕込んで王都に行ってる間だけ任せる事にするわ」
「大丈夫なんですか?」
ルディさんもカテリーネさんも、この店で働くようになってから日は浅い。
俺と同じ新人のようなものだ。
マックスさんもマリーさんもいない獅子亭を任せても大丈夫なんだろうか……?
「まぁ、あの子達は店をやりたいって事だからね。このくらいは出来るようにならないと。とは言っても全て任せるわけじゃないわよ。仕入れとかはきっちりしていくし客にも説明するから、何とか出来ると思うわ」
「そうですか。それならいいんですが。あ、そうだマリーさん。エルサにキューをあげたいんですが……」
「あら、まだお昼食べてなかったの? それならモニカとソフィーさんもよね。じゃあキューを用意するついでに簡単な物だけどお昼を出すわ」
「すみません」
「いいのよ」
マリーさんは笑いながら厨房へと向かった。
俺は頭の上でお腹が空いたと騒いでるエルサをなだめるため、頭から引き剥がして胸に抱き、背中と頭をしっかり撫でてやった。
あれ? これエルサをなだめるんじゃなくて俺がモフモフを撫でて幸せになるだけじゃない?
……まぁエルサも気持ち良さそうにしておとなしくキューを待つ気になったみたいだからいいか。
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