第63話 眠った野盗を捕縛



「……だわぁ……だわぁ……」


 ん? 何か頭の上が濡れてるような……。

 ってちょっと待てエルサ! お前も寝てるのか!

 俺のイメージだとエルサのモフモフに包まれるイメージなのに、そのモフモフを持ってるお前が寝るのか!

 いつもは寝言も言わずよだれも出ないエルサが、よだれを俺の頭に垂らしながらだわだわ言って幸せそうに寝てる……。

 それでいいのかドラゴン……。


「はぁ」


 俺は溜め息を一つ吐いて、エルサを頭から離して仰向けで寝てるモニカさんが風邪をひかないよう、お腹の上に乗せておいた。

 少し小さいけど、毛布代わりかな。

 ソフィーさんの方は……多分大丈夫だろう。

 俺やモニカさんより厚めの鎧を着てるからね、多分大丈夫だと思う。

 よだれを垂らして幸せそうなソフィーさんを見つつ、そうやって勝手に納得して俺は小屋の方へ野盗達を捕縛しに近づいた。



 1時間くらい経った頃、魔法の効果が切れたのかモニカさんとソフィーさん、ついでにエルサも起きた。


「あれ? 寝てたの?」

「私は一体……野盗達は?」

「よく寝たのだわー」


 二人は寝てた事を不思議に思いながら周りをきょろきょろと見回してる。

 エルサだけはお気楽だったけど。


「すみません。二人共魔法に巻き込んだみたいで、寝てしまいました」

「リクさんの魔法……」

「そうか……本当に眠らせる事が出来たんだな」

「はい。野盗達も眠らせられたので、今のうちにと縄で捕縛しておきました」

「ああ、あれね」

「1……2……ふむ、20人か。全員気持ち悪い顔をして並んで寝てるな」


 気持ち悪い顔って……まあおっさんを始め、むさい男たちがよだれを垂らしながら緩んだ顔で寝てる姿は確かに気持ち悪いかもしれない……。


「モニカさん達が起きたって事は向こうももうそろそろ起きますかね」

「20人捕縛か。どうやって街に連れ帰るか……」

「五月蠅かったら黙らせるわ」


 槍を持って振り回しながら言うモニカさんが少し物騒で怖い。

 全員縄で手足を縛ったうえ、一本の縄で20人を固めるように縛ってあるから、運ぶのは楽だと思うよ。


「連れて帰る方法は簡単ですよ、ソフィーさん」

「ん? 簡単とはどうするんだ、また魔法か?」

「まずはエルサに大きくなってもらいましょう。エルサ頼む」

「了解なのだわ」


 起きたばかりのエルサは眠そうな目をしながらも光を放って体を大きくさせる。


「エルサちゃんで脅して野盗を歩かせるのね」

「しかしそれだとヘルサルまで帰るのに時間がかかるぞ」

「いえいえ、歩いて帰るんじゃありませんよ。俺達と一緒に飛んで帰るんです。エルサ、この縄の端を持って」

「はいはいなのだわ」


 盗賊たちを縛ってひとまとめにしてある一本の縄をエルサも右手(右前足?)に持たせる。


「それじゃ、俺達はエルサに乗って帰りましょう」

「成る程、エルサに持たせるのか」

「……空をぶら下がるのね。さすがに恐そう……」


 俺達はエルサの背中に乗り、野盗達はエルサの手からぶら下がるようにして運ぶ。

 何人か既に起きていた野盗達から叫び声が聞こえるけど、それは無視。

 エルサに頼んでそのまま飛んでもらった。

 あ、さすがに森の中でエルサが大きくなって飛び立つスペースは無いから、皆が寝てる間に小屋を崩してスペースを作っておいた。

 マックスさんからもらった剣で小屋の中に立ってた柱を数本切ったらあっさり崩れたからね。

 欠陥住宅? だったのかな。

 野盗のアジトってそんなもんかもしれない。

 エルサに乗ってヘルサルへ帰る途中で全員が起きた野盗達は、最初こそ色々叫んでたけど、エルサの速度と飛ぶ高さが恐かったのかすぐに静かになった。

 何人かまた寝たみたいだね、寝不足だったのかな?

 エルサに乗ってるモニカさんとソフィーさんが何やら二人でひそひそと話してる。


「リクさんって……結構……」

「殺す覚悟が無いなんて言いつつこれは……」

「……」

「……」


 何か俺の事を話してた気がするけど、俺はやっぱりモフモフに包まれて幸せ気分を堪能。

 今日は俺もモフモフに包まれて寝たいな。

 さっきのは魔法だけど、皆はモフモフに包まれながら寝る感覚だったはずだ。

 俺もその感覚で寝たいんだ!

 


 森から飛び立って20分くらいで、ヘルサルの東門へと着いた。

 東門にいた兵士達が汗を流しながらエルサの持って来た野盗達を連れて行く。

 兵士も大変だなぁ、汗を流してこんな奴らを運ぶのも……とか考えてた。

 大きい姿で飛んで来たエルサをみて冷や汗を流してるわけじゃないよねきっと。

 野盗達を全員引き渡して、俺達は獅子亭への帰路を取る。

 ギルドへの報告は明日でいいかな。

 そろそろ暗くなって来たから、早く帰って獅子亭の煮込んだ肉が食べたい。


「あんなに運んで飛んで、お腹空いたのだわ」


 エルサもお腹が空いたみたいだ。

 ……あれだけキューを食べたりしたのに……燃費が悪いのかもしれない。

 食いしん坊ドラゴンというあだ名みたいなものは、最近俺の中でエルサを名前以外で呼ぶ候補第一位になってる。

 本人には言わないけどね。

 とは言え、必死にキューを齧ってるエルサが可愛いからそれでいいのかもしれない。

 ソフィーさんはたまにそんなエルサを熱心に見てたりする。

 隠そうとしてるみたいだけど。

 モニカさん含め獅子亭の皆はエルサを微笑ましく見てる事が多い。

 ドラゴンなのに受け入れられてるようで何よりだ。

 ……ペット扱いかもしれないけど。


「ただいま帰りましたー」

「父さん、母さん、ただいま」

「無事帰りました」

「おう、お帰り」

「何事も無かったようね、おかえりなさい」

「お腹空いたのだわー。キューを食べるのだわー」

「こらエルサ、まずは帰った時の挨拶だろ」

「ははは、まあいいさ。ほら飯の用意をするからお前たちは荷物を置いて来い」

「はい。マックスさん、お願いします」

「父さんお願いね」

「今日もご馳走になります!」


 獅子亭に帰り着き、挨拶をしながら荷物を置くために2階の部屋へと向かった。

 頭にくっついてるエルサが、早くキューが食べたいと少し五月蠅かったね。

 荷物を置いた後風呂場に行き、俺とエルサの手と、ついでに俺は顔も洗っておいた。

 さすがに今日は色々な事をしたから、手も洗わずに獅子亭の料理を食べるなんて出来ないよね。

 顔も埃っぽかったからついでに。

 店の方に戻ったら、既にモニカさんもソフィーさんもテーブルについて料理が出来るのを待ってる状態だった。

 二人共早くない? ちゃんと手は洗ったのかな?

 夜の営業が始まる前の獅子亭で、俺達三人が受けた仕事の話をしつつ、獅子亭の皆で楽しく食事を取った。

 相変わらず獅子亭の料理はおいしいね。

 煮込んだ肉が口の中に入れた途端とろけて広がる。

 野菜のスープも優しい味で、具である野菜もスープの味が染み込んでる。

 料理をおいしくいただいてる時、マックスさんがそろそろ新しいメニューを作りたいとか言ってたけど、これよりおいしい料理って出来るんだろうか?

 これからの獅子亭、というよりマックスさんに期待が膨らむね!



 料理を残さず食べ尽くした後、今日は疲れてるだろうから手伝いはいいと、マックスさんやマリーさんに言われて、俺達三人はそれぞれの部屋へ戻って早めの就寝となった。

 もちろん、ちゃんとお風呂には入ったけどね。

 エルサにドライヤーをせがまれて今日もしっかり乾かしてフワフワモフモフの完成。

 今度モニカさんとソフィーさんにもやってあげよう。

 二人共あんまり想像出来なかったみたいだから。

 今日もまた、ドライヤー中に気持ち良くて横に転がって寝たエルサのモフモフを堪能しつつ、幸せな睡眠へと入って行った。

 ああ、もう少し大きくなってもらってモフモフに包まれるのを忘れてた、明日にしよう。

 大変な事はそこまでなかったけど、色んな事をやったから少し疲れたよね。

 今日はモフモフな夢が見られると良いな……。




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