第56話 冒険者活動をしたいリク


「すみません、ヤンさんは今いますか?」

「これはリク様、ようこそギルドへ。すぐに副ギルドマスターを呼んできます!」


 エルサにドライヤーを試した翌日、俺はいつものように冒険者ギルドへ来た。

 一応同じく冒険者になってるモニカさんとソフィーさんも一緒だ。

 というかソフィーさん、センテに帰らなくていいんだろうか?


「そういえばソフィーさん、センテの方は良いんですか?」

「私はしばらくこちらにいるつもりだ。獅子亭の料理が毎日食べられるうえに、エルサちゃ……リクといたいからな」


 エルサが理由なのが大きい気がするけど、ソフィーさんのような美人さんにそう言われるのは悪くないね。

 ……例えお世辞であっても。


「ソフィーさん、気の済むまでうちに居てくれて良いですからね」

「ありがとうモニカ」


 ソフィーさんはまだモニカさんの部屋で寝泊まりをしている。

 モニカさんとは仲良くなったようで、たまに暇な時間を見つけては二人でマックスさんと模擬戦をして訓練をしてる。

 俺に近い居候のような感じだけど、ちゃんと食費や宿代なんかは払ってるらしい。

 俺も獅子亭で働かない日の分は宿代とか払わないとなぁ。


「お待たせしました」


 受付の女性に呼ばれたヤンさんが、奥から出て来たようだ。


「ヤンさん、今日も依頼書を見せて欲しいんですけど」

「わかりました。それではこちらへ」


 俺とモニカさん、ソフィーさんの三人はヤンさんの案内でギルドの奥へ案内される。

 相変わらずギルドに来るまでとギルドに入ってからも、俺を見知ってる人達からは尊敬の眼差しで見られてたりしたけど、そろそろ慣れて来た。


「では、これが今日の時点で誰も受けていない依頼書となります」


 ヤンさんに連れられて来たのは、いつかの試験で使った会議室。

 そこで持って来た依頼書を俺達に見せる。


「んー、やっぱりあまりランクの高い依頼って無いんですね。」

「そうですね。ランクが高いという事は難度も高い依頼となります。依頼を受注できる相応のランクである冒険者が少ないのと同じように、難度の高い依頼も数は少なくなります」

「まあ、ランクの高い依頼が頻発するような場所は危険が多い所だからな」

「そうですか……」

 

 ヤンさんの説明とソフィーさんの解説を聞きつつ、依頼書を眺める。

 ホーンラビットの討伐、捕獲……これはFランクか……マックスさんは子供でも狩れるって言ってたから楽な依頼なんだろうな。

 他には……薬草の採取……Eランク。

 街の南にある川辺に生えてる薬草を採って来いというものだ、薬草の選別で知識が必要だからEランク……か。

 むぅ、目ぼしい物がないな……。

 ん? これは……。


「ヤンさん、依頼って複数同時に受ける事は出来ますか?」

「可能です。ただ、依頼には達成期日が設けられていますので、複数を同時に受けると達成不可となる日程になったりする事もあります」

「低ランクの冒険者が生活費等を稼ぐために、複数の依頼を無理に受けようとして受付で止められるのはよく見るな。それでもたまに無理に依頼を受けて達成できずに補償金を払わされて逆に金欠になる事もある」

「ギルドとしましては、確実に依頼をこなせるようになって欲しいのですが……。依頼には達成不可だった場合の補償金がありますので、達成できそうにないと思われる依頼は受けないのが無難かと思われます」


 ふむふむ、成る程……複数依頼を同時に受ける事は可能。

 依頼の期日や達成条件を満たす事が出来るなら構わない、と。


「それなら、これとこれとこれ、同時に受注します」

「ふむ、これは……」


 一つ目はEランクで南の薬草採取。

 薬草知識はある程度マリーさんから教わったし、ランクが低い代わりに判別のしやすい物のようだ。

 二つ目はD~Cランクで、ヘルサルとセンテの間にある街道で出る野盗の討伐もしくは捕縛。

 多分、エルサと初めて会ったあの森にいた野盗達だろう。

 ……まだ残ってたんだな……残党ってあるし、多分前に放置した野盗達は発見されて捕まってるんだろう。

 三つ目、Dランクの西のゴブリン戦場跡での地質調査。

 これは以前に襲撃したゴブリン達と戦った場所だね。

 地質調査ってあるけど、依頼書を見るに俺が魔法でガラス地帯にしてしまった地面から、一応ごまかしたけど、少量のガラスが発見されたらしい。

 戦場跡に行って地面を掘ってガラスがまだ出るのかの調査らしい。 

 それと、ガラスが今後供給出来る程の量が出ない場合は農地として使えるかという調査も含まれてるようだ。

 ジェネラルを発見した、西にあったはずの林は綺麗さっぱり俺が魔法でゴブリンと一緒に消滅させちゃったからね。

 林を伐採する手間が省けて開墾が出来ればラッキーって事らしい。

 全部依頼書の受け売りだけど。


「この依頼はそれぞれ別の場所で、移動にも時間がかかるので難しいのではないでしょうか……?」


 ヤンさんは俺が差し出した三つの依頼書を見ながら難しい顔をしている。

 けど俺には移動に時間を掛けない方法があるからね。


「大丈夫です。エルサに乗れば移動はすぐですから」

「乗るのだわ?」

「……ゴブリン襲撃の時の大きさなら、確かに乗れるかもしれませんね」

「あの時の大きさは無理なのだわ。でも乗せて飛ぶくらいなら簡単なのだわ」


 あれ? あの大きさがエルサ本来の大きさじゃないのか?


「あの大きさになれないのか?」

「あの時は特別なのだわ。リクから凄い量の魔力が流れ込んできたから出来た大きさなのだわ。本来の大きさは森で見せたり、何回かリクを乗せた時の大きさなのだわ」

「そうなのか」


 特別な大きさって事か。

 でもそれならもっと魔力を流したらさらに大きくなれるって事にならないか?

 まあ、そんなに大きくなる意味もあまりないか。


「……まあ、とにかく移動に時間がかからず、達成期日に間に合うようでしたらこちらでは問題ありません。ですが……」

「?」


 ヤンさんが言いづらそうにしながら俺を見た。


「リクさんは現在Bランクです。エルサ様もいますし実質Aランク以上と言っても過言ではないでしょう。それがEランクやDランクの依頼を受けるというのは……」


 あーいつもこれで依頼を受けさせてくれないんだよなぁ。

 でも今日はちゃんと冒険者として活動するために依頼を受けないと!

 それにエルサに乗れるからなのか、モニカさんとソフィーさんが移動の話しになった時から目を輝かせてるし……。


「確かにランクはBランクです。実質Aランク以上というのはまだしも、俺はまだ冒険者になったばかりなんです。こういった依頼をこなして行く事も大事な経験になるのではないですか?」

「……冒険者としての経験というのは確かに実力と同じように大事な事ではありますね」

「こういう依頼だって大事なものの一つです。高ランクだから低ランクを受けられないという決まりは無いんですよね? だったら、これらの依頼を受けさせて欲しいのです」

「……」


 少しだけヤンさんが悩む素振りを見せた後、小さく頷いてくれた。



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