第55話 エルサのモフモフを丁寧に手入れ
「それで、エルサの毛がすごい防具代わりなのはわかったけど、何で俺も同じような強度があるなんて事になるんだ? 俺にそんな毛はないぞ」
エルサには毛があり、それが剣や矢を通さない。
さらに魔力を通す事により、鉄より硬くなって防具になる。
それはわかるけど、俺にはエルサのようなモフモフの毛がない。
俺の皮膚が異常に硬くなったりする事もないから、ドラゴン並みの強度なんてなさそうなんだよなぁ。
「リクとは契約してるからなのだわ。契約で私の魔力もリクに多少なりとも流れてるのだわ。その魔力が作用してるのだわ」
「エルサの魔力?」
「そうなのだわ。私の魔力は当たり前だけどドラゴンの魔力なのだわ。その魔力は私が毛に通す魔力と同じ物なのだわ。それがリクに流れ込んで、リクの魔力と混ざるのだわ」
「俺の魔力と混ざると何かあるのか?」
「リクの魔力と混ざって体の表面を覆うのだわ。リクの体制、戦闘だとかそういう姿勢になると全身を覆って、私の毛と同じような防具代わりになるのだわ」
「戦闘中だけなのか?」
「戦闘だけではないのだわ。結局は戦闘をしなくても、リクが身構えるとか意識を切り替えるとかをすると無意識にそうなるのだわ。だから寝てる時や普通に過ごしてる時にはそこらの人間と変わらないのだわ」
「つまり俺が自分の守りを意識したりする事で勝手に発動する鎧って事か?」
「そんな感じなのだわ。さらに防御を意識したらもっと硬く出来るのだわ。多分……私よりも……だわ」
「エルサよりも固くなるのか?」
このモフモフ全てが鉄よりも固くなるって考えただけで相当硬くなると思うんだけど、それ以上って……。
「リクの膨大な魔力のせいなのだわ。私の魔力が混ざった時にリクのあり得ない程の大きい魔力が体を覆ってさらに分厚くなるのだわ。カッチカチなのだわ!」
「また変な記憶を使って……。とにかく、俺の魔力が大きいせいで異常な程防御が硬いって事でいいのか?」
「それでいいのだわ。私だって全ての事がわかるわけではないのだわ。だからそんな感じくらいで考えてればいいのだわ」
「まあ、確かにエルサが全てを知ってるってわけでもないか……。それでこの防御のおかげでゴブリンの矢は実は意味がなかったと」
「なのだわ。あの程度、何てことないのだわ。それこそリクを傷つけようと思ったら、マックスとか言う人間が全力であの大きい剣を振らないといけないのだわ」
「マックスさんのデカイ剣、当たったら痛そうだけど……あれでなら防御を通るのか?」
「無意識での防御なら多分、薄皮を切るくらいは出来るかもしれないのだわ。剣の方が折れる覚悟もしないといけないのだけどだわ。それに意識して防御を強めたらあの程度衝撃も感じなくなるのだわ」
「そうなのか……」
すごい勢いと重量に見えたマックスさんの剣があの程度扱い……マックスさんには言わない方が良いだろうか……。
改めて自分が規格外なんだと思う。
魔力量やドラゴンの魔法が使えるだけじゃなく、誰からも傷を付けられないような防御なんてもうわけがわからない。
別にチート能力とかが欲しかったわけじゃないんだよなぁ。
まあ、この世界で活動するには便利だけど。
便利と言い切るには強すぎる能力な気がする……
「段々自分が人間に思えなくなって来た……」
「リクは人間なのだわ。ちょっと魔力が多過ぎて私と契約しただけなのだわ」
「その魔力が多過ぎる事と便利過ぎる契約が問題なんだけどな?」
「難しく考えすぎなのだわー。便利な能力だと思ってればいいのだわー」
「気楽なもんだ。でも考え過ぎてもいけないか……能力があるってだけでどう使うかは俺次第だもんな。気楽にしてた方が良いのか」
「きっとそうなのだわー」
やっぱり俺、エルサの気楽さがうつってないか?
元々楽観的な性格なのは自覚してるけど、ここまでだったかなぁ。
「それよりもだわ」
「ん?」
「そろそろ冷たくなってきたのだわ」
「おっと、悪い」
話しに夢中になって、ブラッシングだけしてお湯を掛けてなかったな。
俺も寒くはないけど、少し冷たくなって来てるからお湯で温まっとくか。
「はー、リクとお風呂に入ると気持ちいのだわー」
「ははは、モニカさんが聞いたら怒るかもしれないぞ?」
「私を洗った後ほったらかしにするような人間はどうでもいいのだわー」
先にエルサを洗ってから自分を洗って、しかも時間がかかるとなれば冷えて当然かな。
風呂から出た後エルサの毛を濡れたままにせず、タオルで拭いてやらなきゃいけないからエルサが勝手に風呂から出るわけにもいかないもんな。
幾度目かのお湯をエルサに掛けてやり、しっかりと丁寧にブラッシングして汚れを落とす。
「よし、そろそろいいだろう。風呂から上がるぞー」
「はーいなのだわ。気持ち良かったのだわー」
最後に俺自身へもう一度お湯を掛け、体が冷えないようにして風呂場を出る。
あ、そういえば風呂に入る時エルサ用のタオル持って来て無かったな、俺の分しかないか。
「エルサのタオルを持って来てないから俺の……」
「これで拭くのだわ」
脱衣所に置いてあった俺の着替えの上に、新しいタオルが置いてあった。
自分で持って来たのか、賢い犬……ドラゴンだ。
おっと、ペット的な目線で見てたらいつかエルサに怒られそうだ。
「じゃあこれで体を拭いてくれ」
俺がエルサの持ってきたタオルを地面に広げて置くと、エルサがその上に乗り、ゴロゴロと転がったり背中を擦り付けるようにして拭き始める。
それを見ながら俺は自分のタオルで体を拭き、服を着た。
「リク、手伝ってなのだわ」
「はいはい」
さすがに一人で完全に拭けないのだろう。
助けを求めて来たから、服を着終わった俺は座ってエルサを丁寧に拭いた。
「ふふーん、なのだわ」
エルサは俺に拭かれてる最中ずっと機嫌よく鼻歌っぽい声を漏らしてた。
やっぱ犬みたいでかわいいなこいつ……おっといけないいけない。
エルサの毛を毛先までしっかり拭いてやって水気をある程度取ってやった。
あとは絡まった毛を解くようにもう一度ブラッシングしてやるだけだ。
出来ればドライヤーでしっかり乾かしたいけど、さすがにそんなものこの世界に無いしな……あ、そうだ、良い事を思いついた。
「エルサ、部屋でブラッシングしてやるけど、ちょっと試したい事があるんだ、いいか?」
「最後のブラッシングは大切なのだわ。あれが一番気持良いのだわ。それで、試したい事って何なのだわ?」
「それはな……」
俺はエルサに説明しつつ、抱き上げて部屋へと連れて行く。
「よし、出来るだけ最小で、魔力を一滴程度しか使わないイメージで……」
エルサに向かって手をかざしつつ、思いついたイメージで魔法を使う。
「出来た、温風!」
ブオーというドライヤーが作動する音はさすがにしないが、前の世界のドライヤーのような温風が掌から出て来た。
実際に見た事のあるドライヤーをイメージしたからか、強すぎず弱すぎず上手くできた。
「おー、これは気持ちいいのだわー」
「だろ? これなら完全に毛を乾かせるし、モフモフがさらにモフモフになるぞー」
左手で温風を出しつつ、右手には風呂で使ってたのとは別のブラシを装備。
気持ち良さそうに風を受けてるエルサを丁寧にブラッシングしてやる。
「これは……癖になるのだわ……これからも……お風呂から上がったらこれを……やるのだわー……」
「はいはい、っと寝ちまったか」
気持ち良さからか、風に当たりブラッシングをされながらエルサはコテンと横に倒れて寝てしまった。
ドラゴンを眠らせる気持ち良さ……何かに使えるかな?
なんて考えながら数分、しっかりエルサの毛を乾かしてブラシをかけてフワッフワのモッフモフにしてやった。
寝てるエルサが起きそうにないので、そのままベッドに一緒に入り、エルサのモフモフを堪能しつつ俺もすぐに睡眠に入った。
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