第57話 初めての通常依頼



「いいでしょう。確かに経験は大事な事。依頼も大事な事です。我々は少しリクさんを丁重に扱い過ぎてたのかもしてませんね。相応の依頼を受けてもらおうとしか考えておらず、低ランクの依頼を軽視しておりました。申し訳ございません」

「謝らなくても良いですよ。ではこの三つの依頼を同時受注、よろしくお願いします」

「はい、承りました。受注処理はこちらで済ませておきます」


 なんとか納得してくれたヤンさんから依頼書を受け取り、ようやく冒険者として依頼を受ける事が出来た。

 複数依頼を同時に受けたのは、依頼の達成難度を底上げする事でヤンさんへの説得材料にするつもりだったけど、すんなり説得出来たから必要なかったかな。

 まあ、受けたものはしっかり達成できるように頑張ろう。


「あ、くれぐれも街の上は飛んで移動しないで下さいね。街の住民が驚きますから」

「……はい」


 危なかった……ヤンさんから注意されなかったら街の上を何も考えずに飛んで移動するとこだった。

 直線で移動した方が早いとか簡単に考えてたけど、よく考えたら街の上空をいきなりドラゴンのような大きい物体が飛んでたら驚くよね、そりゃ。

 街を迂回して人目に付かないように飛ぶようエルサにお願いしよう。

 そう考えながら、ヤンさんに礼を言って会議室を出て冒険者ギルドを後にした。


「まずは獅子亭でマックスさん達に報告かな。街の外に出るから」

「そうね、何も言わずに依頼のために街から出たら、また前みたいに心配させちゃうからね」

「前みたいとは、何かあったのか?」

「聞いてよソフィーさん。リクさんったら以前センテに行った時、帰って来る予定の日になっても帰って来なかったの! 父さんや母さんも、もちろん私も心配したのよ!

「前にセンテに行った時って事は、私と初めて会った時か。リク、帰る予定を過ぎて心配をかけるのは良くないぞ」

「……はい、反省してます」


 あの時はモフモフの事しか頭に無かったからなぁ。

 帰ったら謝る事は決めてたけど、会って1か月しか経ってない俺をあんなに心配してくれてるとは思って無かったし……。

 今度からは気を付けよう。

 モニカさんはどれだけ心配したかをソフィーさんに伝え、俺は肩身の狭い思いでそれを聞きながら獅子亭に帰った。

 この時間なら獅子亭はまだ昼に備えての準備中のはずだ。


「おう、リク。またギルドに行ってたのか。それで、依頼はあったのか?」


 マリーさんにはギルドに行く事は伝えたけど、マックスさんには伝えてなかった。

 マリーさんに伝えるよう頼んでたけど、ちゃんと伝わってたようだ。


「はい。今日は三つの依頼を同時に受けてきました」

「三つ同時とはまた豪勢だな。そんなに依頼が滞ってたのか?」

「いえ、依頼自体は数もランクも大したことは無かったんですけど、まあ経験のためですかね」


 通常の依頼は実際これが初めてだ。

 魔物調査は指名依頼だから特別な依頼と考えて良いと思う。

 ちゃんと普通の依頼を受けて普通の冒険者のような活動もしてみたかったんだよね。


「そうか。まあリクなら達成出来ないような依頼もそうそうないだろう。ランクは俺と同じになっちまったが、実際冒険者になったばかりの新人なんだ、色々な仕事をして経験をするのは今後のためにもいい考えだな」

「はい。ランクにこだわらず、色んな依頼を受けて冒険者というのを経験して行きます」


 能力があっても知識や経験が無いと生かせないからね。


「依頼は三つだったか。どんな依頼なんだ?」

「これです」


 俺はマックスさんにギルドで受け取って来た依頼書を見せた。


「ふむ、二つは問題無さそうだが……最後の一つは野盗相手か……大丈夫か?」

「野盗に何かあるんですか? リクや私達なら野盗の残党は楽な相手と思えるのですが。まあ、油断はしませんけど」

「それがな、ソフィー。以前リクが野盗を退治した事があってな。その時野盗の一人を殺したって精神的に参っちまっててな。まあ人を殺す事を推奨するわけにはいかないから、正直リクには辛いんじゃないかと思ってな」

「それは……確かに辛いかもしれませんね」


 ソフィーさんとマックスさんが話し込んでる。

 実際俺もまだ、いくら襲って来た相手とは言え人を殺す事に慣れたわけでもないし、慣れたいとも思って無い。

 それでも人を相手にする事はこれから先もあるだろうし、対処をする方法を学ぶにも良い依頼だと思ったんだよ。

 今のところは殺さず生かして捕縛するって事しか考えてないから、本当に戦いになった時手加減をしくじったり、何かの拍子に殺してしまう事もあるかもしれない。

 慣れるためというか、色々経験しておきたいところなんだ。

 ……以前野盗を殺した時は取り乱してエルサに慰められたし、マックスさんが怪我をした時は怒りに任せて魔法を使ったけど、そんな事を無くすためにもね。


「まあ、リクが経験として必要と思うなら止めねぇけどよ。モニカ、ソフィー頼んだぞ」

「「はい」」

「私もいるのだわ」

「そうだな、エルサもリクの事頼んだぞ」

「任せるのだわ!」


 すみません、俺の覚悟が足らないばかりに……。

 一応心の中で皆に謝罪をしておく。


「それとマックスさん、依頼のために街を出ますので今日獅子亭の手伝いは出来ませんね」

「おう、そうだな。なぁに、ルディもカテリーネも大分仕事が出来るようになって来たからな。お前やモニカがいなくてもなんとかなるだろうよ」

「「頑張ります」」

「すみません、お願いします」


 マックスさんに今日の手伝いを断って、ルディさん達にお願いをする。


「じゃあマックスさん、行って来ますね。マリーさんにはよろしく伝えておいて下さい」

「わかった。野宿する事は無いだろうから、今日中には帰って来いよ」

「はい」


 依頼に必要そうな道具や各自の準備を手早く済ませ、獅子亭を出てまずはと俺達は南門から街を出た。

 薬草採取の依頼。

 依頼書の確認をしながら、群生地へと向かう。


「リク、飛ばなくていいのだわ?」

「最初の依頼は街から近いからな。飛ばなくてもすぐに着く」

「わかったのだわ」


 エルサと話しながら依頼書で薬草の特徴を見た。

 ダミソウという薬草で、煎じて飲むと解熱作用があるらしい。

 日陰のジメっとした場所に生えていて、この周辺では川辺近くの木陰によく生えているらしい。 

 ……ドクダミかな? 確か授業で教師がやけに野草に詳しくて、たまに脱線して授業そっちのけで野草解説をする事があったけど、その時に聞いたドクダミの特徴に似てる気がする。

 ダミソウの見た目も依頼書に書いてある事を読む限り、似てる気がする。

 まあ野菜とか前の世界とほぼ同じ物があったわけだから、薬草が似ていてもおかしくないか。

 仲良さそうに話しながら着いてくるモニカさんとソフィーさんを連れて1時間程歩き、目的地の川辺へと辿り着いた。


「ここらに依頼のダミソウが生えてるみたいだ」

「ふむふむ、ダミソウね。それなら、あっちの木陰に生えてるかもしれないわ」

「それじゃあ、手分けして木陰を探索してダミソウを採取だな」


 俺達はそれぞれに別れ、ダミソウ採取をするために川から数メートル離れた木陰に入った。

 エルサは俺の頭にくっついていつも通り寝てる。

 寝るのは良いけど、この採取が終わったら次の依頼の場所へ行くために飛ぶんだからなー、その時はどれだけ熟睡してても起こすぞー。



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