第54話 リクの強度とエルサのモフモフ強度



 ヤンさんやクラウスさん達との話しを終えて数日、ようやく街の人達が集まる事が少なくなってきた。

 それでも街を歩いてたら声を掛けられることが多いけどね。

 冒険者ギルドに行って依頼書を見てみたり、ヤンさんと話したりするための獅子亭からの往復だけで少し疲れるくらい声を掛けられた……。

 そういえば、初めてヘルサル冒険者ギルドのギルドマスターと会った。

 どこかマックスさんを彷彿とさせる豪快なおじさんだと思ってたら、巨漢を窮屈そうに折り曲げて街を守った事に対する感謝の土下座をされた時には驚いたよ。

 俺がドラゴンを従えてると思ってて、やたらと恐縮してたのが印象に残った。

 ……建物の奥から出て来た時は豪快にヤンさんの背中を叩きながら大きな声で笑ってたのになぁ、俺を見た途端土下座って……センテの街も含め、冒険者を死なせなかった事がギルドとしては喜ばしい事とは言ってたけど。

 そんな事もありつつ、中々冒険者依頼を探しても見つからなくて少し困ってた。

 どうやらギルド側は、俺に合わせた依頼をしたいらしく、低ランクの依頼で誰も受けてなさそうなのを選ぼうとすると受付の人やヤンさんに止められた。

 冒険者らしいというか、選り好みせず色々やってみたいんだけどなぁ。

 まあ、その分獅子亭の手伝いが出来るからマックスさん達に恩返し出来て良い事もあるんだけどね。

 そうそう、魔物調査での経過報告みたいなものなんだけど、ヘルサル周辺の魔物達は通常の数や種類に戻って来てるみたい。

 一部以前はいたのに今は全く見ない魔物もいるらしいけど、ゴブリン達に狩られてしまったせいだと言われた。

 やっぱりヤンさんも言ってた通り、魔物の姿が少なくなったのはゴブリンの軍勢がヘルサルに来ていたからという事で決着がついた。

 ヘルサルの街が平穏を取り戻したようで、嬉しい。

 ……今度ギルドに行ったらランクだとか俺用だとか考えずにヤンさんを説得して依頼を受けようかな?



 今日も目ぼしい依頼が無く、時間が余ったので獅子亭の手伝いをした後の夜、寝る前に風呂へ入ろうと風呂場へとやって来た。

 この世界での風呂は元居た日本の風呂とは少し違う。

 当たり前だけど、水道というものがないので、井戸や川から汲んできた水、それか魔法で出した水を各家や店で溜めておくというのが基本。

 一日の生活や店の業務で使った水の余りを使ってお風呂にするんだけど、人が1人~2人程入れる木で出来た風呂桶のような物に水を溜め、魔法や薪で火を使って温めてお湯にする。

 前の世界にいた時、どこかで見た薪風呂のような感じが近いかな。

 ただ、お湯に浸かるって習慣がないので、獅子亭に来てすぐの頃お湯の中に入ったら怒られた。

 風呂桶の下部分が火を使って水を温める構造上、金属になってるから危ないんだそうだ。

 習慣が無いから底面に板を沈めて入るという事もしないそう。

 確かにお湯に浸かった時足が熱かった……まだ温度が低かったから火傷せずに済んだけど……。

 火傷しなかった理由が、この世界に来てお風呂に入れると喜んで、熱くなってないほぼ水風呂のような中に入ったからというのは良い事なのか悪い事なのか……。

 ともあれお風呂というのは、お風呂場で温めたお湯を使って体を流して洗うだけの場所。

 ……いつか浸かれる風呂を作りたいよね、元とはいえ日本人として。



 一人で風呂に入り、体を洗い終わって出ようとした時、入り口のドアが叩かれた。


「リクー私も入るのだわー。洗ってなのだわー」


 ノックと言うにはガンガン叩かれてるドアを開いてエルサを中に入れる。


「モニカさんと入らなかったのか?」

「モニカは一度入ると長いのだわ。一緒に入ったらこっちが冷えるのだわ。風邪引くのだわ」

「ドラゴンって風邪引くのか?」

「さあ? なのだわ」


 風邪という知識は俺の記憶からだろうが、ドラゴンが風邪引いたらどうなるんだろう……?

 大きい姿の時に風邪を引いて、くしゃみや咳で人が吹き飛ぶ想像が浮かんだ。

 モニカさんというより、女性がお風呂に入ったら時間がかかるというのはこの世界でもほぼ当たり前らしい。

 たしかにエルサのモフモフモサモサの毛が濡れたままだと冷えてしまうのはわかる。


「じゃあ、頭からお湯掛けるぞ」

「目を瞑るのだわー」


 ザバーっと頭からお湯を掛けて全身を流す。

 風呂場に置いてあるエルサ用のブラシを持ち、毛並みに沿ってブラッシングする。

 時たまお湯で流しつつ、ブラシで絡まった毛や埃等を洗い落としつつ丁寧にブラシをかける。


「はー、リクのブラッシングは気持ち良いのだわー」


 そりゃこのモフモフを綺麗にして素晴らしい癒しを維持するためだからな、丁寧にもなる。

 自分の体を洗うより丁寧にブラッシングしてるけど、モフモフのためだから苦もない。

 毛がフワフワな犬とか特にそうだけど、濡れたらぺちゃっとなっていつも見てる姿より凄い痩せたように見えるけど、エルサも似たような感じになってた。

 ブラシでフワフワに戻してはお湯で汚れを洗い流してを繰り返す。

 その最中、そういえばと思い出し今更ながらの疑問をエルサに聞いた。


「そういえばエルサ、俺の体の強度がドラゴン並みになったとか言ってたけど、それってどのくらいなんだ?」

「んーとだわ。ドラゴンというより私ってこの自慢のモフモフがあるのだわ?」

「そうだな」

「この毛が私にとって鎧代わりなのだわ。剣や矢なんかはこの毛が守って通す事は無いのだわ」

「へー、こんなにフワフワモフモフな毛がそんな効果を……」

「それになのだわ。毛に魔力を通すと鉄より硬くなるのだわ。生半可な剣で切ろうと思っても、剣が折れるのだわ」

「鉄より硬く……それって刺さりそうだな……」

「木や鉄くらいなら刺さるのだわ。私が毛に魔力を通して突進するのが一番破壊力があるのだわ。……でもあんまりやりたくないのだわ……」

「刺さるくらいか……何であんまりやりたくないんだ?」

「……昔、鉄の塊に頭から突進して突き刺したら……」


 そこまで言ってエルサは少し言い淀んだ。

 どうしたんだろう? 突き刺した後何かあったのかな。


「突き刺したら、どうなったんだ?」


 俺が続きを促すように聞くと、エルサが恥ずかしそうに言った。


「……その……抜けなくなったのだわ」

「……は?」

「だから……鉄の塊から体が抜けなくなったのだわ!」

「……」


 えっと……鉄に刺さるくらいの硬さになったエルサが突進。

 鉄の塊に頭を突き刺したまではいいけど、その後鉄に頭が埋もれて抜けなくなった、と。


「……くっ……ははははははは」

「やっぱり笑われたのだわ!」

「そりゃ笑うだろう! ははははは」


 頭の中で、エルサが頭だけ何かの鉄塊に突っ込んで、体をジタバタさせて抜けない絵が浮かんだ。

 これは笑わずにはいられないだろう。


「……笑い過ぎなのだわ! 早くブラッシングするのだわ!」


 笑い過ぎてブラシを使う手が止まってた。


「はは、すまんすまん」

「……もうリクにこんな話はしないのだわ」

「悪かったって。でもエルサは長生きなんだろう? 今まで見て来たものを教えてくれると嬉しいな」

「……教えるとリクは嬉しいのだわ?」

「ああ、人間は寿命が短いからな。ドラゴンのように長生きをして色々見た事を聞くのは楽しい事だと思うんだ」

「そうなのだわ? ならまたそのうち昔の事を話すのだわ。それにしても人間は不便なのだわ」

「まあな。飛べもしないしドラゴンのように強い体でもない。でも、それも楽しい事でもあるんだよ」

「楽しいのだわ?」

「なんて言うか……伝えるのは難しいんだけど。寿命が短い、体が弱いとかドラゴンと比べると人間はちっぽけだけど、だからこそその中での楽しみってのもあるんだよ、きっとな」

「不思議なのだわ」

「そうだな」

「人間も面白いかもしれないのだわ」

「そうだな。けどドラゴンだって楽しそうだぞ」


 偉そうな事を語ったけど、俺もまだ20年生きてない人間だからな。

 色々分かったような口ぶりで話しても、まだまだだ。

 エルサに語った事を少し恥ずかしく思いながら、話しが逸れたと元の話しに戻した。



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