第53話 リクとエルサの強さ比較
獅子亭に沈黙が降りる……。
エルサが言った、エルサよりも俺の方が強いという言葉が衝撃的で誰も言葉を発しない。
エルサと契約して色々出来るようになって、野盗をはじめ、ゴブリンジェネラルやゴブリンの軍隊を相手にはしたけど、ドラゴンより強くなってるとか意味わからない。
…………俺って人間だよね?
「……その……本当なのですか? エルサ様よりリクさんの方が強いというのは……? 伝説に出て来るドラゴンより一人の人間が強いというのは少し信じ難いのですが……」
いち早く自分を取り戻したヤンさんがエルサに問いかける。
というかエルサに対して様付けなんだね、まあ相手がドラゴンだから仕方ないか。
「本当なのだわ。リクが本気になれば私なんて塵芥なのだわ」
「……そこまで差があるのですか?」
というかエルサ、塵芥なんて難しい言葉知ってたんだな。
あ、俺の記憶が流れて行ってるからそれのおかげか。
「例え話をするのだわ」
「はい」
エルサと俺の力の差を分かりやすく説明するために、エルサが話を始めた。
「普通の人間の魔力とドラゴンの魔力を比べた時、これを仮に1000:1とするのだわ。人間1000人でドラゴン1体の魔力なのだわ。それがリクと私を比べると立場が逆になって、リク1人で私が1000体はいないと同じ魔力量にならないのだわ。それくらいの差なのだわ」
正直、規模が大きすぎて想像が出来ない。
人間を大量に集めた魔力でようやくドラゴンに匹敵するけど、ドラゴンを大量に集めてやっと俺に匹敵する? 何なの俺?
「さらに言うのなら、ドラゴンは人間と比べ物にならない程肉体の強度が高いのだわ。リクは元々人間相応だったのだわ。けど私と契約した事でドラゴンと同じ強度を得たのだわ。だからリクを傷付けようと考えても、簡単には出来ないのだわ」
「ドラゴンと同じ強度……」
どんどん俺が人間の規格からかけ離れていく……。
人間辞めましたとでもいった方が良いんじゃないかな……。
……それより、失礼だけど……エルサってこんな話がちゃんと出来る程頭良かったんだな……。
その時ふと、マックスさんが話しに驚きながらも何かに気付いたように声を上げた。
「ドラゴン並みの強度って……ちょっと待て、という事はあの時ゴブリンの矢がリクに向かってたのは……」
「打ち払う必要すらないのだわ。あの程度リクに当たっても虫に刺された程度にもならないのだわ」
「……庇って怪我をした俺って……」
マックスさんが目に見えて落ち込んだ。
いや、俺もその強度の事は知らなかったから、矢が刺さったら危ないって考えてたし。庇って貰えて嬉しかったですよ! その後怒ってゴブリン達を消滅させちゃいましたけど……。
後でマックスさんを励まして謝っておこう。
ん? あれ? そういえば、エルサはドラゴンなんだよな……しかもさっきの話だとヘルサルの街を消滅させる事が出来るくらい強いと……。
だったら……。
「エルサ、ゴブリンの軍を蹴散らすくらい簡単だったんじゃないか?」
俺がエルサに聞くと、驚いたり落ち込んだりしてた皆がコクコクと首を縦に振りながらエルサを見た。
「もちろん簡単なのだわ。けどリクに言われなかったし、ゴブリンなんて気にも留めないのだわ」
「俺、あんなに色々動き回って防衛戦の準備したのに……エルサに言えば簡単だったのか……」
「言われれば簡単に蹴散らしたのだわ。まあどちらにしてもリクがいる時点で人間が勝つのは決まってたのだわ。私はリクの頭にくっついて癒されるだけでいいのだわー」
気楽にエルサが言い放ち、フワリと浮かんで俺の頭にドッキング。
「はー、リクの頭が落ち着くのだわー。これとキューだけあれば他に何もいらないのだわー」
「気楽なドラゴンだなぁ」
「ドラゴンは歳を忘れるくらい長生きなのだわ。お気楽にしてないとやってられないのだわ」
「そういうもんか」
少なくともエルサは1000年以上生きてるらしいから、それだけ生きてると色々あるのかなと思う。
気楽に過ごす事が生きてく術の一つなのかもしれないな。
「……はあ、ドラゴンが人間に対してどう行動するか警戒していましたし、下手に敵対すれば人類の危機かと考えていましたが……それ以上がいるとは思いませんでした」
ヤンさんが溜め息を吐いてるけど、それ以上ってもしかして俺の事?
「これは……国では扱いきれませんな、代官様」
「……そうですな。元々リク様を国がどうこうしようなどとは出来ないと思ってましたし、させたくないと考えていましたが……これは国がどうこうできる事ではございませんな」
「正直に申しますと、冒険者ギルドでも持て余すと思います。長い歴史の冒険者ギルドではありますが、ここまでの人物を抱えた事は無いでしょう……」
逆にそこまで言われるとか俺の扱いがひどい気がするけど……まあ気にしない方がいいか。
出来るだけ面倒な事には関わりたくない、自由にとまでは言わないけど、ある程度気ままに生きられたらいいかなーと思ってる。
あれ? これエルサの気楽にってのと同じじゃない? 毒されたかな?
「リクさんは望みとかあるんですか?」
唐突にヤンさんが俺に質問して来た。
望み、ねぇ。
まだこの世界に来て2カ月くらいだし、この世界でどう生きていこうとかまで考えてない。
さっきも考えたけど、とりあえずは気ままに生きていけたらなぁってくらいかな。
「……特にはありませんね。面倒事に巻き込まれないのならそれで」
「それだけの力があってそれですか……いえ、逆にその方がいいのかもしれません。変に権力欲に取り付かれでもしたら……考えるだけでも恐ろしいですね」
「ははは、権力とかあまり興味ありませんね。それこそ面倒な事の一つだと思ってますし」
「さすがはリク様ですな。私クラウス。リク様を全力で支援致します」
この人急に何言ってるの……?
「クラウスさん? 支援ってなんですか?」
「私に出来る事はたかが知れていますが、それでも、国に対して防波堤のようなものになろうかと考えたのです」
「防波堤、ですか……」
この世界にも防波堤ってあったんだ……まあ海があれば作られてもおかしくはないか。
そんな事よりもクラウスさんだ。
「リク様を国側があれこれしようと画策するのは間違い無い事と思われます。ここで聞いた話しは向こうに伝えませんが、実際にゴブリンの軍勢を消滅させた事は大勢の人が目撃しております。国はその情報を既に知っておりますし、それだけの事が出来る人物なら是が非でも欲しがるでしょう」
「……確かに」
「なので、リク様にその気が無い事を伝えつつ、向こう側から何かをして来る事がないよう尽力致します。とは言え、街一つの代官というだけなので、完全にとまでは行きませんが……」
「それでも、出来るだけの事をしてくれるのなら助かります」
「私はリクさんのファンですからね!」
国からのちょっかいが減るって事だからね。
例えばどうしても俺を国に仕えさせたいと考えて、毎日勧誘に来られても面倒なだけだから。
まあ、俺が考える事よりも色んな思惑があるんだろう、その面倒を少しでも減らしてくれるのならありがたい事だね。
ただ……最後に鼻息荒くファンだと言われても、引きつった笑いしか出ないよ……。
「その辺りは我が冒険者ギルドでも尽力致しましょう。リクさんの力はともかく、既に冒険者となっています。ギルドが協力出来ないなんて事になると信用にも関わりますので」
「ヤンさんも、ありがとうございます」
深刻な雰囲気で話し始めたエルサの話しだけど、最後は明るい話しで終わった。
で、良いんだよね?
でも俺の中で自分が人間じゃない感がすごい。
まあ、なんとかなるだろう……きっと……なるといいなー。
話しを纏めて、ヤンさんとクラウスさんとトニさんは獅子亭から帰って行った。
見送った時、まだ外には結構な人が集まってたけど、「解散!」と叫んで俺は獅子亭に入った。
ファンとかいうおじさんがいたり、英雄って言う街の人達が集まったり、どうしていいかわかんないね。
「お腹空いたのだわ、キューを食べさせて欲しいのだわ!」
エルサは結局キューの事しか頭に無いのか……。
……今日はエルサにキューをあげて俺もご飯を食べたら、さっさと寝よう……疲れたよ。
絶対にエルサに少し大きくなってもらってモフモフに埋もれて寝るんだ!
エルサのモフモフは俺にとって最上の癒しだからね!
頭にくっついてるエルサに手を持って行き、小さいままでも十分なモフモフを撫でながら、キューを用意しに厨房へ向かった。
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